第4話「ジャッジメント」
「喰らいな!!」
男は掛け声と同時にオーラを纏った両拳を直撃させてきた。一瞬痺れとも痛みともつかない妙な感覚が身体に駆け巡る。
しかし、体調が悪くなることも、何かしら身体に異変が起こる事もない。男はこちらが何の反応も示さないことに多少動揺しているが、直ぐに狼狽えはじめた。当然だ。結果的に殺せなかったのだからな。
「ど、どういうことだ!? 何で死なないんだ!? スキルも奪えてねえ」
「どうやら今の攻撃は相手の体組織を破壊して死に至らしめ、その後に相手のスキルが奪える仕組みか。残念だが、そんな他人から奪った能力を平然と自分の者として使うイカサマ野郎のチート能力は、魂の宿らない攻撃は俺には通用しないぜ!」
「な、何だと!? それがお前のチート能力なのか!?」
「だからアンチートと名乗ったはずだ。それと、俺の身体にチート能力を纏った状態で触れたな?」
「だから何だよ!?」
「お前の負けだイカサマ野郎!」
その瞬間、男の全身から鮮血がほとばしり、まるで鎌鼬にでも切り裂かれたかのような傷を負った。突如自分を襲った出来事に苦痛の呻き声を吐いて蹲る男は、自らの両腕を見つめながら、顔に血管を浮き上がらせて咳き込みながらも叫んだ。
「なんじゃこりゃあぁぁ……!? ど、どうなって、やがる……!? のうりょくが……俺のチート、能力があぁ、ああぁぁ……!?」
「この体にチート能力を付加させた拳で触れた事により、アンチート抗体が働いて、お前を破壊しているのさ。俺はチート能力転生者の天敵。だからわざと触れさせた」
「ち、ちくしょう……! せ、せっかく転生したんだ……また死んでたま、るか、よお!!」
男は口から吐血した。吐かれた血液が地面に落ちて土に染み込む。男はよろめきながらも、剣と盾で立ち向かおうとするが、もはや体に受けたダメージは深刻だ。内部に侵入したアンチート抗体が奴の肉体を破壊し尽して死に至らしめるのも時間の問題。せめて、止めを刺してやろう。
「安心しろ、お前はチート能力異世界転生者としては死を迎えるが、お前の魂は消滅しない。あるべきところに帰るだけだ」
「あ、あるべき……ところ、だ、と……!?」
男は剣を支えにして立っているが、こちらの言葉の真意を理解して、急激に表情が絶望に変わる。彼に追い打ちを変える様にさらに言葉を続ける。
「もちろん、前世の記憶は全て消える。本来前世の記憶を持つことは人格に多大な影響を与えてしまう。あるべきではない」
最後の言葉に完全に恐怖し、血が流れる傷ついた身体を引きずり、途切れ途切れの悲鳴を上げながら、男は必死に逃れようとしている。
「往生際の悪い奴め、何処まで腐ってやがる!」
腰に取り付けている小型ポーチから掌に収まる大振りな弾丸、アンチバレットコアを取り出す。色はグレーとシルバーを織り交ぜている。アンチバレットコアをアンチートガンナー上部に装填し、銃口を逃げようとする男に向けてトリガーを引いた。
『
ノイズ混じりの電子音声と共に、銃口から紫色のエネルギー波が発射され、衝撃で一瞬だけ後ずさる。勢い良く放出されたエネルギー波は大気を震わせながら、そのまま対抗線上にいる男に容赦なく直撃。浴びさせられ続ける攻撃に呻き声を発しながら、やがて断末魔を上げて肉体が爆発消滅。薄紫色の煙が地面から燻り、その場に残されたのは男の魂だけだった。
先程見たガンナーの項目をもう一度表示させる。
▼魂返還
チート転生者の魂をガンナー上部に乗せ、上空に打ち込み元の次元へと魂を返還させる事が出来ます。また、魂はいくらでも積み込む事が出来ます。ちなみに、転移者の魂も返す事が可能です。ただし、肉体を構成するためにはなろう神の元に向かい元に戻してもらう。
魂が残ってるのはそのためか。魂まで近づき手で触れる。感触はあってないような不思議な感覚。デリートした男の前世の姿は浮かび上っておらず、真っ新な状態となっているようだ。初めての使命は無事に完了したらしい。魂をアンチートガンナー上部に乗せるとそのまま上空にかかげ、トリガーを引いた。
『
電子音声の後、魂はアンチートガンナー内に吸収され、銃身が光り輝き銃口から一筋の光が銃声と共に放たれた。その光は空を突き抜け天高くまで伸びていった。これであの魂も正しき場所へと戻る。
少しばかりほったらかしにしてしまった蜘蛛の少女に振り返り、今までの光景に呆気に取られている彼女に、なるべく安心させようとフランクな感じで話しかけた。
「大丈夫か、怪我は無いようだが」
「はい……大丈夫です……これでも一応強いと言えば強いので……」
「そうか……」
何とも頼りない声だが、恐怖は無いらしい。ひとまず変身を解いて人型に戻った。すると、彼女の緊張も少し和らいだようだ。
「俺はアンチ・イートだ」
取りあえず手を差し伸べる。これが異世界でも通用する挨拶なら良いが。
「ネア・ラクアです……助けていただき、ありがとうございました……」
おずおずと差し出した手を握ってくれる彼女。感触は普通の人肌と何も変わらない、体温も温かい。触れてみてわかるが、やはりモンスターの類ではない。ちゃんとした知性のある亜人種族。ぎこちない笑顔とお礼を述べてくれるが、すこし小恥ずかしいな。
「あ、あの……さっきの人はどうなって?」
普通の異世界人に自分の事を説明するのは、影響を与えない範囲でなければならない。別にこちらとあちらにペナルティがあるわけではないが、少しばかりそれらしく説明しよう。
「世界の秩序に反する行為を行った、罰してあの世へと送っただけだ。今度はちゃんと生まれ変われるだろう」
とりあえず適当に合わせてみたが、どうだろうか? 彼女の反応を伺う。
「そ、そうなんですか……そっか」
どうやら納得してくれたらしい。おっかないが可愛らしくもある蜘蛛の少女、ネアは両手を合わせて安堵した様子を浮かべる。
これで一件落着か。しかし、ネアを安全な住処まで送った方が良いだろうな……。
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