ザ! 配達! DASH!! (3)

「あれは危険です! とっととこの部屋から逃げますよ!!」


 突如として現れた包帯女……その正体は俺の後輩、絹和きぬわコハネ。

 その様子は、いつもとまるで変わらない。

 あんなことがあったにも関わらず、本当に笑いたくなるほど、普段のままだ。

 その証拠に、俺の制服の襟を思いっきり掴み、乱暴に引っ張ろうとする。


「何してるんですか先輩! 早く行きますよ!」

「おい、ま、待て! コハネ、ちょっと待て!!」

「ダメです。待っている暇はありません。危険なんですから!」

「だから、危険だからこそダメなんだよ! あれは、俺の妹なんだから!!」

「……え?」

「俺は、あいつを……サツキを放っておくことは出来ない!」


 コハネの動きが止まった。

 襟を掴まれたままの俺の身体が投げ出されて、床に叩き付けられる。

 正直泣きたいほどに痛かったけれど、そんなことを気にしている場合ではない。


「え? あの訳の分からない触手が、先輩の妹なんですか?」

「……ああ、そうだよ」

「先輩は触手一家の生まれだったんですか」

「俺は違うだろ!? 俺に何か生えているのを見た事あるのかお前は!!」

「見たことはないですけど、でも服を脱いだら生えてるんじゃないですか。股間辺りに凄いのが」

「生えてねえよ! 何なら見せてやろうか!!」

「セクハラで訴えられて、多大な慰謝料を請求されても良いのなら」


 思わず服を脱ごうとして思い止まった。

 いや、そんな悠長なことをしている場合ではないし、そもそもこの状況で服を脱ごうとすること自体がどうかしている。

 いや、それ以上に。


「というかコハネ、お前、何でこんなところにいるんだ?」

「それは哲学的な問いですか? 我思う、故に我あり、みたいな」

「違えよ! っていうかお前、大怪我していたんじゃないのか!?」

「怪我、ですか。そうですね。確かに背中を、大きく斬られました。それは中身が見えてしまう程に」

「だったら何で……」

「しかし、人ではない私が負ったのを怪我と呼ぶのは正しいのでしょうか?」

「なっ!?」


 自分が人ではないと、あっさりと告げるコハネ。

 その顔を直視出来ないままでいると、果たしてコハネは答える。


「先輩が困ってそうでしたから」

「……何だって?」

「私がここに来た理由です。それは、先輩が困ってそうな予感がしたからです。来てみたら実際に困っていましたし、大正解でしたよね」

「いや、そういう問題じゃないだろ。いくら俺が困っていようが、お前は……怪我をしていたんだぞ? それも、尋常ではない大怪我だ」


 俺はコハネを真っ直ぐに見つめて告げる。 


「人じゃないからとか、そんなこと言ってるんじゃねえよ。そんなの関係ないだろ。確かに、助かったけれど、まずは自分の怪我を……」

「でも、パートナーですから」

「……は?」


 あっさりと。

 本当に、何でもないことのように、コハネは答える。

 床に倒れた俺のことを、身を乗り出して覗き込みながら。


「私の方にも色々ありまして、えっと、私の正体のことは聞いてます?」

「ああ……」

「良かった。説明が省けて助かりました。えっと、私、絹和コハネは、人間ではなくて、ガジェットを統御するガジェットという存在らしいです。そのことを黙っていたのは本当にごめんなさいです」

「別に、謝るようなことじゃあないだろ」

「でも、別に騙そうとしていた訳じゃあないんです。私が知ったのもつい最近のことで……ごめんなさい」

「だから! 別に謝るようなことじゃあ無いって言ってるんだよ!」

「ありがとうございます。とにかく、私自身がどのような存在であろうとも、私が先輩のパートナーであることに代わりはありません。だから、来ますよ。どこにいようと、どんな状況だろうと」

「お前……」


 どうして、俺なんかの為に、と言おうとして。

 しかし、真剣な顔のコハネを見て、留まった。

 コハネは、本気でそう思っている。

 パートナーである俺が困っているから、それを助ける為に、ここに来た。

 何の打算も計算も無く、思った通りに。


「だからって。俺は妹の為だけに今まで働いて来て、お前のことなんか、体の良い使いっ走りぐらいにすら思っていたんだぞ。俺は、お前にここまでして貰う理由は……」

「ありますよ。先輩がどう思っているのかは知りませんけど、少なくとも私にとっては、ここに来るだけの理由がちゃんとあるんです。ですから、お任せ下さい。あれはきっと、先輩1人でどうにか出来るような相手では、ないですから」


 そう言ってコハネは、決意を秘めた表情を浮かべる。

 その視線の先にあるのは俺の妹……だったもの。

 白い病室の中で、黒い触手をまき散らしている。


「……触手を抜きにしても、やっぱり、先輩には似ていないような気がします。お母さん似なんですかね?」

「何でお前がうちの母親の顔を知っているんだよ」

「妹さん、何があったのかは分かりませんが、人間としての限界を超越した人知の及ばない存在へと変わってしまっています。そんな相手を止めるには、人間の力では無理だと思います」

「それは見ていれば分かる。どうするんだよ」

「だから、私の出番です」


 コハネは、包帯に巻かれた腕で力こぶを作るような仕草を見せる。


「ほら、私は人間ではなく、道具ですから」

「そういうことを言うのは、止めろよ」

「ですから、目的の為に全力を尽くして、その結果どうなっても構わないんですよ。むしろ、そうあるべきと造られたんですから」

「だからって……」

「だからこれは、私にとっては本望なことなんです。ですから先輩、そんな顔をしないで下さい」

「顔……? 顔だって……?」


 自分で、自分の顔に手を当ててみるも。

 どんな表情を浮かべているのか、まるで分からない。

 ただ、目の前にいるコハネの、どこか吹っ切れたかのような顔とは全く違うのだろうなと、そんなことを思った。

 コハネは俺の元を離れ、サツキの方へと向かって行く。


「おい、待てよ」

「全部、私に、任せて下さい」


 去り行く背中は、既に遠い。

 すぐ近くにいる筈なのに、今のコハネの背中は、あまりにも遠く。

 手が届かないと思ってしまう程だった。


「コハネ、待て!」


 唯一届いた言葉も、空しく消え。


「道具には、道具の本懐があります。与えられた目的を、必ず達成するということが。先輩の妹さんは、私がここで止めてみせますから!!」


 言って、コハネは駆け出した。

 病室の中央に陣取っていた、サツキの元へと。


「……ッ!!」


 しかしサツキの反応もまた、早い。

 目の前にいるコハネのことを、本能的に危険だと判断したのだろう。

 自分を守るように触手を前面に展開して、攻撃と防御を両立させる。

 眼前に迫り来る、殺意の奔流。

 しかしコハネは、一切躊躇うことはなかった。


「行きますよ、妹さん!!」


 止まるどころか、むしろ速度を上げてサツキに近付く。

 そのまま、自分の腕を盾代わりにして、強引に攻撃の中へ割り入って行く。

 裁き切れなかった触手が身体を切り裂いても構うことなく、止まることなく、一直線に突き進み。

 その身体が、触手の壁を越えて、サツキに肉薄する。

 そのまま、サツキの身体を抱き。


「ここでは狭いですからね。少しだけ、外の空気を吸いに行きましょうか!!」

「――ッ!?」


 いくら触手の力があろうとも、サツキ自身の質量は変わらない。

 サツキの身体を思いっきり押し出し、コハネは病室の窓へと向かって行く。

 窓までの距離は僅か数メートル程。

 それは、勢いの付いたコハネの突進を耐えるには短く。

 2人は、重なるようにして病室の窓から外へと飛び出して行った。

 地上数十メートルはあるだろう、虚空に向かって。


「バカ野郎!!」


 窓際に急いで駆け寄る。

 飛び散ったガラスと瓦礫を踏みしめながら身を乗り出し、眼下を見下ろした。

 見えたのは、遥か遠くにある地面と。


「……ッ!!」


 巻き起こる土煙と轟音。

 恐らくは、たった今落下して行ったサツキとコハネが落下した音だ

 今すぐに駆け付けたいところだが、ガジェットを持っていない生身の俺だ。

 この高さから飛び降りれば普通にお陀仏だろう。


 土煙が晴れて見れば、既に2人はその場から姿を消している。

 既に戦いの場所を移したのだろう。一体、何処へ向かったというのか。


「クソッ!!」


 とにかく追いかけようと、病室から飛び出した瞬間。

 廊下に設置されていたスピーカーから、危機を知らせるアラームと、焦ったようなアナウンスが鳴り響いた。


『非常事態。非常事態。現在、本部ビルの地下倉庫にて、非常事態が発生しています。危険ですので、近くにいる職員は急ぎ所定の場所に避難して下さい。繰り返します――』


「地下倉庫か!!」


 『OZ』の地下倉庫。

 以前、俺達があの怪物と戦った場所だ。

 思えばあれも、災害配達人とやらの仕業だったのだった。

 その当人は、今だにそこでのびているけれど、とにかく構っている暇は無い。

 一刻も早く地下倉庫に向かわなくては。


「うわッ!!」

「アラタ!?」

「あいたたた。って、何だ、ヒビキか……」


 病室を飛び出し、エレベーターを待つのももどかしく、ダッシュで階段を下りていると、丁度踊り場の辺りでアラタにぶつかりそうになる。

 『OZ』所属の医師兼ガジェット整備師、金巻かねまきアラタ。

 アラタは、いきなりの俺の出現に姿勢を崩し、踊り場に倒れ込んでしまう。

 見事なこけっぷりだが、助け起こしている暇はない。


「急いでるんだ! じゃあな!!」

「ええ!? ちょ、ちょっと待ってくれない!? 何があったんだい!? 何か、変なアナウンスがあったけど!!」

「ああ、緊急事態が起きてるんだ。お前も、避難の準備をしておけよ」

「避難って、ヒビキはどうするのさ」

「ああ、俺はちょっと行かなければいけないところがあるからな」

「そう、なのかい?」


 アラタは、訝るような視線を向ける。


「サツキのことも大丈夫だ。この病院の中は、きちんとガジェットで保護してある。たった今、確認してきたが問題は無い。下手に外に出るより安心だ」


 サツキがあんなことになってしまった事を、わざわざ伝える必要はない。

 特に、今まで何度もサツキを診続けてくれたアラタに、今のサツキの姿を見せるのは酷だ。


 そのまま、コハネ達を追いかけて、その場を去ろうとして。

 去り際、ふと振り返って問う。


「なあアラタ、お前は、コハネの身体のことについて、知っていたのか?」

「え、コハネちゃんの身体?」


 アラタは首を傾げる。


「それって、コハネちゃんが配達の最中に怪我したって話かい? 治療をしてあげようと思って面会に行ったんだけど。でも、何だか社長命令で別の場所に移したとかで、会えなかったんだよね。怪我の様子はどうなの? ヒビキは怪我してない?」

「……そうか」


 アラタも、何も聞かされていなかったのだろう。

 いや、恐らくは、誰もがコハネの正体については気付いていなかったに違いない。それだけ社長の隠蔽は完全だった、コハネすらも欺く程に。

 唯一、気付くかも知れなかった立場にいたのは、きっと俺だった。

 最後の最後まで、気付くことはなかった。

 全く、先輩失格とはこのことか。


「ねえヒビキ、本当に大丈夫なのかい? 何なら診てあげようか?」

「いや、大丈夫。大丈夫だ」

「そうなのかい。何だか、物凄い思い詰めた顔をしているよ?」


 こちらを見つめるアラタの目は、本気で俺を心配しているもので。

 長年の友人を騙しているようで、耐え難く辛い。

 しかし今は、あえてその辛さを抱え込むしかなく。


「アラタ。いつか必ず、話をするから」

「うん?」

「だから今は、お前もとっとと避難しろ。俺の事は、気にしなくていい」

「そうか。ヒビキがそう言うんだったら、分かった。後で話してくれるんだね?」

「ああ、必ず話す」


 そう約束して、その場から駆け出して行く。

 と、背後から、アラタの声。


「何だか分からないけれど! ヒビキのやることは間違っていないんだから、いつもみたいに堂々と、少しだけ卑怯に頑張ればいいんだよ、ヒビキは!!」


 そんな励ましの言葉に、思わず口元が緩む。

 思えば、アラタには本当に迷惑ばかり掛けて来た。

 割と長い付き合いだけど、まだまだその恩を返す機会には恵まれていない。

 だからこそ、必ず戻って来よう。恩知らずにはなりたくないからな。

 俺にとっての、一番の親友。

 親友の声に勇気を貰い、背中を押された気分になって、足を速めた。


   ◆    ◆    ◆      


 そうして、辿り着いた『OZ』の倉庫は。


「……大変なことになっていやがるな」


 まるで竜巻が過ぎ去った後のように、凄まじい荒れ方をしていた。

 一体どんな力が掛かったら、こんな事態になるのだろうか。

 チートアイテムを守る為の、倉庫の壁。

 強固な筈のそれが、強引に引き裂いたかのように穴だらけになっている。

 倉庫中のラックも薙ぎ倒されて、ドミノ倒しのような有様だ。

 被害総額とか考えたくない。


「――ッ!!!!」


 そんな倉庫の惨状は、今もなお、際限なく拡大し続けている。

 他でもない、倉庫内で戦っているサツキとコハネによって。


「でええええええいいい!!!!」


 コハネは、物理打撃型ガジェット『ブロッ拳』を拳に展開しながら、打撃主体で攻め立てている。

 その姿は苛烈で、通り過ぎる度に破壊の傷痕が残る。


「――――ッ!!!!」


 対する俺の妹、サツキ。

 病室にいた時に比べ、より異形と呼ぶに相応しい姿になっている。

 髪の毛を束ねた触手を天井にまで伸ばして突き刺し、振り子のような異様な動きでコハネを翻弄している。

 1発1発の攻撃は、ガジェットを使用しているコハネ程重くはないものの、しかし不規則な動きで翻弄され続け、次第にコハネの体力を削って行く。


「ぐぅっ!?」

「コハネ!」


 サツキの攻撃に翻弄され、コハネの動きが段々と鈍って行く。

 その正体がガジェットだとしても、コハネがいくら体力バカだったとしても、それはあくまで人間の範疇に収まるものだ。

 体力を消費すけば、その動きは段々と鈍くなっていく。

 コハネが負っている怪我と無関係ではないだろう。


 対してサツキ、人災と呼ばれるその身体に、動きの衰えはない。

 苅家サツキという一個人が変異した存在である以上、必ず限界値が存在している筈なのだが、そんな様子はまるで見えない。

 動きを鈍らせていくコハネに対し、むしろその速度は鋭く増していくようだ。


 そう、コハネは、押されていた。

 人間ではない道具。

 ガジェットとしての存在。

 神の手による創造物。

 それが、一方的に押され続けている。

 

 速度を増して飛んで来るサツキの触手による攻撃を、必死で捌き、回避していくものの、その隙を狙うようにして飛んで来たサツキの本体に、殴り飛ばされる。 

 見れば、サツキの肌が、人間とはかけ離れたものへと変化している。

 見るからに堅そうな、黒ずんだものへと。


「――――ッ!!!!」


 人災。

 それは、人としての極北。人間の可能性の行きつく先。

 コハネのように、ガジェットの力を借りることはない。

 ただ、人間の身体が再現し得る機能をひたすらに拡張させているのだ。

 髪の毛を伸ばし、硬質化させ、強靭な触手を作る。

 柔肌を戦闘の最中に固め、相手の攻撃を受け切れるものへと変化させる。

 全身の筋肉も、そのパフォーマンスを十二分に発揮している。

 簡単に言えば……最強の人間。

 それは、いくらコハネといえども、抑え切れるものではなく。


「うっ……」


 コハネが、不意に倒れ込む。

 力を、急に失ってしまったかのよう。

 ガクンと、その場に膝を付いて、うなだれてしまう。

 その隙を見逃すサツキではなかった。

 自らの手で確実な止めを刺そうというように触手を解放し、サツキの本体が拳を振り上げたままの体勢で突っ込んでくる。

 そのまま、無防備なコハネの身体に、その拳が突き刺さろうとして。

 しかし。


「……掛かりましたね」

「ッ!?」


 攻撃が届く直前で、コハネが不敵に笑った。

 飛び込んできたサツキの動きが分かっていたかのように、寸前でその攻撃を回避する。

 そして、お返しとばかりに、近距離からの拳を叩き込んだ。

 相手の動きを予想した上でのカウンター。

 ガジェットの効果を十二分に発揮した上での、強烈な一撃だ。

 見事としか言い様の無い、一撃。


「な、なんて卑怯な一撃なんだ……!?」


 そう、それは、見事なまでに、卑怯な一撃だった。

 やられた振りをして、そこに相手を誘い込んでのカウンター。

 実に鮮やかな、俺好みのやり方ではあるけれど、それを食らったのが俺の妹なので、何か納得が行かない。


「――――ッ!!!」


 攻撃をまともに食らってしまったサツキは、堪らずに距離を取った。

 そして、改めて攻撃を仕掛けようとして、しかしその動きが不意に止まる。


「………………」

「おい」


 その理由は実に分かりやすい。

 またもや、コハネが妙な動きを見せていたのだ。

 というか、寝ている。

 倉庫の床に、うつぶせになって寝ている。


「Zzz……」


 もう無防備とかそういうレベルではない。

 完全に寝の体勢に入っていやがる。完全に隙だらけの状態。


「…………?」


 しかし、サツキも一度やられたことで学習したのか、すぐには襲い掛からず、じりじりとその間合いを詰めて行く。

 触手を細かく動かしながら接近していくその姿は、我が妹ということで若干可愛く見えて来るくらいだ。ほとんど蜘蛛の化け物って感じだけど。

 

「…………!」


 触れられるほどの間合いにまで踏み込んだサツキ。

 振り上げられた触手が、床に寝ているコハネを貫こうと、垂直に落とされて。


「とうッ!!」

「……ッ!?」


 しかし、コハネが動く。

 その攻撃を読んでいたかのように、ゴロンと横に転がったのだ。

 直前で回避された触手は、倉庫の床に突き刺さる。

 すぐに引き抜かれるものの、引き抜かれるまでの数瞬、無防備な腹部を、晒しているということで。


「頂きます!!」


 その隙を見逃すコハネではなかった。

 床から跳ね上がる動きと共に、鋭い両足でのキックが放たれ、サツキの腹部を直撃する。

 受け身を取ることも出来ずに吹き飛ばされるサツキ。


「やりました!!」


 勝ち誇ったようにガッツポーズをするコハネ。

 またも、卑怯すぎる手段で、コハネに一撃を与えたのだった。


「おい、ちょっと待て」


 何でこいつ、急に、こんな卑怯なやり口を覚えたのだろうか。

 俺の知っているコハネはとにかく直情的で、真っ直ぐで。

 余計な策など立てることもなく、真っ直ぐ突っ込んで行って殴り抜く。

 もしくは、真っ直ぐ突っ込んで行って、吹き飛ばされる。

 そういった戦い方の筈だ。

 そもそも、ガジェットの使い方が致命的に下手だったから、策を弄することなんて、出来なかったのだ。


「でも……」


 それなのに、この戦い方は、どうしたことなのか。

 姑息とも言えてしまうような、コハネの戦い方。

 それはまるで……。


「うん、まるでヒビキ君の真似をしているようだね」


 背後から突然掛けられた声に振り返る。

 そこには、気配すら感じさせることなく、社長が立っていたのだった。



つづく

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