だし

 『だし』といっても『出汁』ではなく、山形名物の『だし』のお話です。

 なすやきゅうりなどの夏野菜をみじん切りにして調味料と混ぜ合わせ、ご飯の上にかけていただくものなんです。

 お雑煮やお味噌汁のように家庭それぞれの味付けがありますが、ここでは深水家の味をご紹介します。

 材料はきゅうり、なす、みょうが、大葉、おくら、醤油、一味。

 きゅうりとなすは3本ほどでしょうか。みょうが、大葉、おくらはお好みですのでスーパーに売っている1パックを使い切る、くらいの適当さで。

 作り方はシンプルです。みじん切りにした野菜全部をボウルに入れ、醤油と一味をお好みで加えて混ぜます。そのうち、おくらの粘りでひとまとまりになると思います。それで完成です。なんとも簡単でしょう。

 材料の分量も自由なら、味付けもお好みなんです。実際、山形在住の友人は納豆昆布を入れたりもするそうです。野菜にしょうがを加えても美味しいと思います。

 それを炊きたてほかほかご飯にかけていただくと、夏の暑い盛りでもご飯がすすみます。そうめんや冷奴にかけてもいいですね。


 わざわざ材料を揃えにスーパーに行くというより、昔はちょっと庭に出て夏野菜を摘み、それを刻んでかけて食べるという手軽なものだったと思います。どんな野菜を使うとか、味付けはどうだとか決まっていませんし。

 夏野菜は体を冷やすものですので、それで食欲を増進させてご飯をきちんと頬張って夏を乗り切る。昔からの知恵というものは、うまくできているなぁと感心します。


 この料理、作り方はとっても簡単なんですが、ひたすら続くみじん切りが辛いときがあります。けれど、まな板を叩く包丁の音が心地いいですね。

 料理を始めたばかりでみじん切りの練習をしたいときにもってこいというくらい、えんえんみじん切りですが、是非お試しくださいませ。


 私の生まれ故郷は山形なので、幼い頃からこの『だし』に慣れ親しんできました。これが食卓にあがると「夏だな」と思ったものです。

 同時に、これをご飯にかけて美味しそうに頬張る母の姿が思い浮かびます。私の母はあまり美味しそうにご飯を食べる人ではないのですが、『だし』のときだけは終始無言で満足そうな顔をして食べていました。その顔を見るのが嬉しかったのでしょう。

 きっと、最初はだしの味よりも、母の顔が好きだったのかもしれません。

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