リルート~人生の選択~

夏氷

①Prologue

 

 あの時、ああしておけば良かった。



 あちらの道を選んでおけば良かった。



 もし向こうの道を選んでいたら、私は今、何をしていただろうか。



 ふと無意識に溜め息をついた瞬間、誰もが一度くらい考えるであろう妄想。



 振り返ったところで、今の何かが変わるわけもなく……。



 また、いつもと変わらぬつまらない日常は、日々繰り返すのである。



―2015年―


 私の名前は高本みやび。

 配偶者あり子供なしの42歳。


 毎日ペコペコと頭を下げ、つまらないパートで時間を潰すお気楽な主婦。


 このスーパーでパートを始めて2年。

 週3回、開店から4時まで働いて、買い物をして帰る。


 帰るとすぐに夕食の支度とお風呂の掃除。


 7時には全て終わるけど、夫の帰宅は早くて10時。


 丁度見たいドラマが始まった頃帰って来て、飯だ風呂だと騒ぎ立てる。


 こんなハズじゃなかった。


 大学を卒業後、念願の出版社に就職した私は、忙しいながらも順風満帆な日々を送っていた。


 そんな時知り合ったのが今の主人。


 最初は仕事も続けていいとか、家事は分担しようとか良い人ぶってたけど……その内、家事が疎かになるなら仕事は辞めろとか、子供が出来ないのは仕事なんかしているからだとか、訳の分からない事を言い出した。


 本気で離婚も考えたけど、結局は私が仕事を辞めることで一応の解決をみた。


 当時はまだ離婚に踏み切るまでの勇気がなかったが、今にして思えば、まだ若かったあの頃に別れておくべきだったような気もする。


『ピンポーン』


 ふと時計を見上げると10時15分。


「旦那様のご帰宅か……。全くもう!鍵持ってんだろっ」


 私はそう小さく呟くと、足早に玄関へと向かった。


「お帰りなさい」

「ああ」


 昔は無口で優しいと思ってたけど……今考えると只の亭主関白の面白くない男。


「ご飯食べるでしょ」

「否、いい」


 はぁ?

 だったら電話くらいしろやっ!


 そう思いながら、私は台所に向かおうとした足を引っ込めた。


「ねぇ、前から言ってるけど、そう言う時は電話かメールしてよ」

「ん、ああ」


 夫は既にその話には興味のない様子で、テレビのリモコンをパチパチといじっている。


「もう!」


 コレもまた呟くほどの小声でイライラを発散し、夫から預かった鞄をダイニングテーブルの椅子にドカッと置き去る。


 その時、ふと鞄のポケットにある葉書が目に入った。


「何これ?」


 私はその葉書をススッと引っ張り出すと、宛名の文字に目をやった。


『高本みやび様』


 私宛て?


「ねぇ、コレ。私宛て?」


 リビングでテレビに張り付く夫に大声で問う。


「ポストに入ってた。行かないだろ」


 夫はこちらも見ずにタバコをふかしながらそう言う。


 行かないって?

 私はそう思いながら葉書の裏面を見た。


『光陽学園高等学校第58期同窓会のお知らせ』


「同窓会……」


 行かないって……何で勝手に決めてんの?


「……行くわよ!行く。絶対に行くからね」


 別に高校時代に強い思い入れがある訳でもないし、特別仲良しの会いたい友達がいるわけでもなかったが、なんか旦那の態度にムカついた。


 絶対行く!ってもう……兎に角意地だけだった。

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