ボディーガードはホスト

姫宮未調

プロローグ

第1話 始まりは黒い思惑

ここは株式会社極楽院堂。

医療業界トップの会社。

そこには現社長・極楽院隆信と一人の青年が対峙している。


「翔くん、頼みたいことがあってリーダーの君を呼んだんだ。」


いつになく真面目な顔をする。


「オーナーの頼みを俺たちが断れるはずないじゃないですか。 …何なんです?」


苦笑する。


「うむ…。君はうちの娘を知っているね?」


「えみるお嬢様…ですよね?」


きょとんとする翔。


「そう、えみるだ。あの子ももう、30になるんだが…、子どもっぽさが抜けなくてね…。

私も忘れ掛けていたんだよ…。」


悪びれもせずに笑う父親。


「…お会いしたことがないので何とも言い難いですが。」


流石にひきつる翔。

30にもなるお嬢様に何があったのかと思案し始める。


「思い出したキッカケが…。」


険しい顔つきになる隆信。


「この…脅迫状だ。」


引き出しから机にA4サイズの封筒を取りだし、翔の目の前に置く。


「…これですか?」


首をかしげる。


「裏の差出人の名前をみたまえ。」


封筒を取り、裏を見る。

そこには『井出山大造』とあった。


「『井手山』?『井出山』って『井出山製薬』ですか?

極楽院堂の次の二位に位置する大企業ですよね?」


封筒を隆信に返すべく、机に戻す。


「そうだよ、問題は中身だ。」


重々しく頷くと、隆信は中から半分に畳まれた手紙を翔に差出した。


「拝見します。

…『拝啓 極楽院隆信殿

ご機嫌如何でしょうか?

そういえば、貴殿には年頃のご息女がおいででしたね。私にも年頃の息子がございます。

宜しければ一度、お見合いなどして頂けないでしょうか。

快いお返事をお待ちしております。 敬具』


言いたいことだけ言っている節はありますが…、文章的には脅迫状には思えませんよ?」


年齢を考えたら、こういう話はひっきりなしではないだろうか。


「文書だけならばな。脅迫は…これだ…。」


隆信は封筒から更に冊子のようなものを取り出した。


「…拝見します。…!?これは…確かに脅迫めいていますね。

あ、いえ。人は顔では計り知れないものがありますし………。」


目をそらすほどに、自堕落の結晶のような男性が写っている。

馬鹿にしてはいけないが、素敵とは言い難い顔立ち。

そして、明らかにこれはお見合い写真。

ご丁寧にプロフィールつき…。


「…こんなセガレに愛娘をやれるか!

うちに娘しかいないことを良いことに乗っとる裁断だろう…。」


次位に位置する会社からの打診となれば、そう思わざる得ない。

提携ではなく、息子という時点で合併吸収の可能性が大きい。

…嫁き遅れる可能性も更に拍車が掛かることだろう。


「確かに…。こちらにとても不利ですね。」


「だから、君を呼んだ。

他でもない『フォーリーフクローバー』全員で娘のボディーガードを頼みたい。

ヤツはどんな手を使って来るか分からない。

即断りの電話をしたが、娘本人からでないと承認為かねると吐かしおった。

何としても娘を守ってほしい!」


大袈裟とも思えなくはない。

過保護とも言える。

しかし、用心に越したことはないということだろう。


「了解致しました。仰せのままに…。

それと、お嬢様なんですが…。」


顔を知らなくては守りようがない。


「ああ、そうだったな。娘はこれだ。」


書類棚の陰にあった写真立てを翔に向かせた。


「…!とても可愛らしいお嬢様ですね。

年頃と言うにはまだ早いような…あれ?」


年齢は確か…………………。


「…に見えるだろう?しかし、それでも…もう、30になるのだよ…。」


人類の奇跡、童顔。


「え…えええええ!!!!!!!!

そ、そういえば…最初におっしゃっていましたね。」


翔は写真立てを掴み、目を丸くして凝視してしまう。


「だから言ったろう?『子どもっぽい』と…。

身長も150センチ…。だが!一部だけ成長している部分がある!」


童顔を『子供っぽい』と片付けるのは如何なものか。


「可愛いらしいですね。はい…?」


「なんと!Gカップだ!」


翔のポーカーフェイスが一気に崩れる。


「…喜んで守らせて頂きます!

あ、そういえば…お嬢様はお仕事は何を?」


動機が一瞬で不純になった。


「…何もさせていないが?」


当たり前とでも言うように。


「え?…いつも何をされてるんですか?

ワガママお嬢様とか…言いませんよね?」


美少女顔、巨乳、低身長。

見た目は最高だが振り回されたくはないため、恐る恐る尋ねる


「素直でいい子だが個性的でね…。

『ネットアイドル』とか言うので『えみるん』と言う名前で音声放送するのが趣味らしい…。」


その言葉に一瞬、固まる。


「え…えみるん!?」


完全にポーカーフェイスが崩れている。


「ん?知っているのかね?」


首をかしげる隆信。


「あ、はい…。人気者ですよ…。俺もよく聞いています…。お嬢様だったとは…。」


ワナワナと震え始めた。


「はは、それなら話は早いな。それから、もう一つ…。」


「……なんでしょう?」


顔を整え、向き直る。

隆信は翔を手招きし、耳打ちした。


「え?…ええ?!そ、それは…なぜ?!」


隆信は更に耳打ちした。


「…わかりました。オーナーのお決めになったことですから、全力で当たらせて頂きます…。

オーナーのご意思に反しないよう心がけます…。」


緊張の面持ちで一礼する。


「…頼んだよ。」


…意味深な笑いをしていたことに翔は気がついていない。

いつもの笑顔で封筒一式を翔にしっかりと持たせたる。


「お預かり致します。では、店に戻りますね。失礼致しました。」




翔は社長室をでると溜め息を漏らした。


「…何か大変なことを言いつけられてしまったな。

守るだけなら、それなりの力量は皆にあるだろうけど…、もう一つは…かなり神経を使わないと…。ああ…………。」


渡された封筒一式を見直そうと取りだし、再度プロフィールつきお見合い写真を見る。


「…見た目だけでも酷いな。

こうでもしないと結婚に漕ぎ付けないか…。

性格にも問題あるのかもしれないし…。

ん?これは…!」


プロフィールの文書を見て、眉間にシワが寄る?


『ボクは「えみるん」と言うネットアイドルに好意を寄せています。調べたところ、彼女があなたのお嬢様だと知り、想いが募りました。お父様さえ宜しければ、結婚を前提にお付き合いをさせて頂きたいと思っております。』


「なん…だと?!…絶対に阻止してやる!」


私情混在。

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