エピソード25 「そして再び僕は美少女の夢を見る」

僕は、「夢」を見ている。



…そうだ、僕は「コレ」を知っている。

…「この夢」を知っている。



何処かに在る薄昏うすくらい部屋、

かつては真っ白だったが今はくすんでしまった壁一面のタイル、

床は様々な血で汚れ、

今も尚リンゴジュース色の薬品がしたたるのを吸い込み続けている、



僕の目の前で、少女が泣いていた、

とても美しい少女が泣いていた、


傷一つ無い端正たんせいな小顔は透き通る様に白く、長い睫毛まつげに大きくて深い瞳、ウェーブしたつややかな髪は腰まで届く豊かな長髪、 そして潤った唇。 まるで造り物の様に一点の欠陥も無い美少女、



その少女の手足には、重く、…冷たい「鎖」が穿うがたれていた。

その少女の胸には、深く、…赤錆た「杭」がつらぬかれていた。

その少女の下腹には、汚れた、…「溝鼠どぶねずみ」が群がっていた。


少女は一切の自由を奪われて、凍える様に震え続けている。

少女は一切の尊厳を奪われて、厭忌えんきうずに悶え続けている。



少女は 何故 泣いているのだろう?


苦痛と、恥辱と、後悔と、

ここで行われ続ける全ての行為を、僕に見られてしまったからだろうか。


痛みと、うずきと、絶望と、

ここで漏らし続ける全てのうめき、を僕に聞かれてしまったからだろうか。



トロトロとこぼれ出して床を濡らす少女自身の体液と、

ムリヤリに注ぎ込まれてはあふれ出すけがらわしい汚物と、

ズルズルと齧歯動物達が引き摺り出した美しいはらわたと、


そう言った隠し通しておきたかった筈の諸々を、…

僕の目の前にさらけ出されて尚、…

それでも少女は涙を流し続ける。


辛うじてつなぎ止めた正気の中で、…

消え入る様な微かな声で、…

それでも少女は僕の名を呼び続ける。




僕には、…

その何よりも愛おしい少女が壊れて行くさまから目を背ける事すらゆるされず、


ただ全てが終わってしまうときが訪れる事を望む以外、…

何も出来ないでいた、



…お願いします、もうこれ以上見させないで。

…お願いします、もうこれ以上聞かせないで。

…お願いします、もう十分だから、早く…終わらせて。


僕は、一体誰に赦しを請うているのだろうか?

相手も解らぬままに 僕は、願いを届けようと命を振り絞る、

しかし、既に声は奪われていて、ただ逆流した下水の様な感情が漏れるばかりだった、




少年:「「生き物」と言うモノはとても奇妙だね。」

少年:「大好きなヒトが辱められる姿を見ても尚、慰めを感じられるモノなのだから。」


生まれたての揚羽蝶あげはちょうの様に無垢で穢れを知らない その美しい少年が、…

いつからか僕に寄り添っていた。



少年:「君達は、他人を安らかで居させる為に引き受ける自己の「痛み」を「快感」として感じられる様に作られたんだ。」


僕には、その少年の姿を見る事が出来なかった。


何故なら僕の眼窩がんかには、固い金属製の器具が差し込まれていて、…

眼球はただ少女に施される残虐な行為だけを見続ける様に固定されていたのだから。



少年:「「生きて」「増える」事を望まなければ、今直ぐにでも安らかになれると言うのに、敢えて苦痛を受け入れようとする。」


そして僕の顔は、っくに胴体から切り離されていて、…

大きなシャーレの中で鼻から何本もの管を差し込まれて、ただ生かされ続けているのだから。



少年:「今君が見ている光景と同じか、それ以上の「痛み」が「世界」には溢れていると言うのに。 まだ君は「人々」に安らぎを与えようとは思わないの?」


それでも時折、ぴくぴくと顔面の皮膚が引きつって、…

この重さ4kg余りの肉の塊りが、依然として生きた人間である事を証明するのだ。



少年:「そんなにも「快感」は強く、人間を支配出来る物なんだね。」


壊れかけた少女の頭から、トロトロと500mlビーカーに入った水酸化ナトリウムが注がれて行く。… 


少女は大きく痙攣する様にって、激しく全身をうねらせながら、その美しい貌が、緩やかに腐食されて行く 狂いそうな「痛み」を受け入れる。



少年:「ねえ、本当に君はこんな「世界」を望んでいるの?」


僕は、赤い肉の塊りへと姿を変えて行くその愛おしい少女を見つめながら。

全ての事物が、実は意味の無い事だったかの様に思い始める。



少年:「ねえ、知ってるかい「世界」は「音楽」で出来てるんだよ。」

少年:「リズムと、メロディーと、ハーモニーが様々に組織オーガナイズされる事で、…「神」を楽しませてる。…慰めている。 それが本来の「世界」の役目なんだ。」


…もう、…疲れた。



少年:「そして「音」は「変化」そのものなんだ。 何も変わらない「無」に立てた「さざ波」が「音」であり「世界」なんだ。」


少年:「君なら解るだろ、「世界」は「変化」を続けなければならないんだよ。」

少年:「だから、…さあ、「DAATH(ダアト)の鍵」を、僕達に返すんだ。」


少年:「君は十分に頑張ったよ。 疲れただろう。 もう、眠って良いんだよ 。」


…もう、いいの?

…もう、良いよね?





少女:「…駄目…。」







翔五:「…えっ…」



ボタボタと溢れて零れ落ちて来る赤い、血が、…

僕の顔を濡らしていた。



少女:「コイツに、…」


顔の半分を失った血塗れの少女が、…

僕の喉元に突き刺さったワイヤーの様な触角を、…

力づくで!



芽衣:「…サワンナァ、ぼけぇ!」


引き抜いた!!!







…これは、夢?

…コレが。夢?




芽衣が、


芽衣が、…

立ち上がる!


その目は、 …

絶対凶悪の殺意を秘めて、…

巨大な「聖霊」を、…


睨みつける!



…これが、僕の、…

…「世界」




芽衣の赤い血液が、…

握りしめた手から 超巨大ザトウムシの触角へと、…

浸食を始めた!



芽衣:「殺す! 殺す!! 殺す!!! 殺す!!!!…」


芽衣の唇が、…

血に混じった唾液を、…

吐き散らす!



地面に飛び散った芽衣の血液から、…

植物の芽が、…

出現する!?




…これって、タワーブリッジで見た、食肉植物?



超巨大ザトウムシの触角に付着した芽衣の血は、…

見る見る内に赤い蔦へと姿を変えて、…

触角を伝って超巨大ザトウムシの本体へと、…

浸食を開始する!



そしてその根に喰らい尽くされてしぼかすの様になった触角は、

端からボロボロと土塊つちくれの様に砕けて、崩れ落ちる!!


堪らずに、

体高30mの超巨大なバケモノが、…

後退した!




血で黒く染まったスウェットに身を包んだ身長165cmのトランジスタ・グラマーが、

手に残った触角の切れ端を、ゴミかすの様に、…

地面に投げ捨てた!



芽衣:「あかん、まだや、」




芽衣は膝を付いて、…


切断されて地面に堕ちた、自分の顔の半分を鷲掴わしづかみにして拾い上げ、…


切り取られた切断面にてがった。



一瞬で!

血が沸騰したかの様に湯気を上げる!




翔五:「…くっ付いた?」


芽衣は、復活した痛みを愛おしむ様に目を閉じて天を仰ぎ、…

大きく深呼吸する。



芽衣に向かって襲いかかって来る「キラキラ」!

それも1つや2つではない!!

十、二十、数十の「キラキラ」が一斉に芽衣目掛けて、…

襲いかかる!



芽衣の、チャクラが輝き!

その眼前に巨大な青い魔法陣が出現する!


一斉に超音速で強襲する「キラキラ」が、…

芽衣の直前で、「何か」に突き刺さって…捕縛ほばくされる!


そこには、影炎かげろうの様な空気の「揺らめき」が在って、…

急速に、目に見える色素を沈着し始める!


それは…、

直径1m、全長は不明の、青黒い…超巨大うなぎ? いや、その無闇に出っ歯った牙は、「ワラスボ」?の様にも見える。


…余りにも長過ぎて、魔法陣から全身が出て来れないらしい…


兎に角、その巨大な「竜蟲ワーム」に突き刺さった「キラキラ」は、…

粘着性のボディに捉えられて、…

乾涸ひからびて、…


砕け散った!



…これが、芽衣の「聖霊」?なのか



触角を伝って浸食を続ける芽衣の「蔦」は、

とうとう超巨大ザトウムシの本体に到達して、…

その身体を覆い尽くし始める。



超巨大ザトウムシ、堪らず…

逃げ出す!


次の瞬間!!

体長測定不能? な芽衣の「竜蟲ワーム」が魔法陣から飛び出して!

(相変わらず尻尾は未だ出て来ない…)


超巨大ザトウムシに取り憑き!

蛇の様に絡まり、! 締め上げて!!

その身動きを封じる!!!



芽衣:「まだや、…」

芽衣:「アンタ甘いわ、…」


芽衣:「こんなんで済むぅ、思いなや!!!」


芽衣が戦意を喪失した? 超巨大ザトウムシに向かって歩き出す!

目が…完全に、逝ってる?



超巨大ザトウムシ、

破れかぶれ、断末魔の足掻きミタイに!


モテる限りの全ての「キラキラ」を発生!

芽衣目掛けて集中砲火する!!



襲いかかる「キラキラ」の弾幕!

確かに、次々に斬り刻まれて行く芽衣の手足!、顔!!、身体!!!

それでも、一向に、芽衣の歩みが止まる気配は、…無い。


斬られたその瞬間に、…

噴出、沸騰した、血液が、…

傷を、再生! 治癒している?!!



芽衣は、まるで、「キラキラ」の斬撃など全く気にならないかの様に、

涼しい顔で、…燃える様な瞳で、…


漸くその超長い脚に、…

到達する。



超巨大ザトウムシ:「「「コンボイ・トラックのクラクションみたいな叫び声!!」」」


芽衣の掌が超巨大ザトウムシの脚に触れる、…


そして、…

超巨大ザトウムシが、…

沈黙する、



今や全身を蔦の葉っぱで覆われた搾り滓の残骸は、

ボロボロと崩れて、…風に飛ばされる。







芽衣が、…

その場にしゃがみ込む。



芽衣:「あかーん、腰抜けてもうた…、」







瑞穂:「間一髪ってとこね。」


振り返ると、直ぐ傍に、瑞穂が立っていた。



翔五:「大丈夫だったの?」

瑞穂:「お陰さまでね。」




芽衣:「しょーごぉ、コッチ来てぇ、」


なんだか、芽衣が叫んでる…



翔五:「今のが、芽衣の「聖霊」?」

瑞穂:「そうね、命を玩具の様に弄ぶ、恐ろしい「聖霊」ね。」


僕は、驚いて!

飛び起きる。



瑞穂が巻いてくれたブラウスの中の「違和感」を確かめたくて、

固く結ばれたベルトを大急ぎで取り外す…、



翔五:「確かに、僕、…」


其処には、…

なんら以前と変わらない、僕の右手が、…

有った。


切られた跡すら、…

残っていない。



瑞穂:「ええ、覚えているわ。 確かに貴方の右手は…」


瑞穂が、まるで汚い物でもつまむかの様に…

僕の切り落された腕の残骸を、…プラプラさせる。



翔五:「えっ、ええっ? どう言う事?」


瑞穂:「さっき芽衣の血を浴びたんでしょ。」

瑞穂:「多分、その時に「再生」したんじゃない。 解んないけど。」



僕は、瑞穂の持つ「以前の僕の右手」と、今自分の腕にくっ付いている「新しい右手」をしげしげと見比べる。


翔五:「小学生の時に鉛筆で指した傷跡迄…同じだ、」


瑞穂:「どうするコレ? 持って帰る?」


微妙…




芽衣:「しょーごってばあ…。」

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