第11話 親睦ウォーク3

王崎栄司がハイスペックな人間なのは言うまでもないことだが、彼の隣にいるだけで「お似合い」と評されていた『スイートチョコレート』内での宮本茉莉花も当然のことながらスペックは高い。

胸まである黒髪はつやつやと輝き、ぱっちり二重にすっと高い鼻に赤い唇といったパーツにバランスのとれた顔は、鏡を見るたび我ながら綺麗だと思う。

ほっそりとした身体で体力はないものの、運動神経抜群のためスポーツは全体的にそつなくこなせる。

漫画内では毎回王崎の次に点数が高かったことから頭もいい。まだ一ヶ月しか授業を受けていないが、実際どの教科も難しいと感じたことはない。

前世の記憶がある村田麻希が宮本茉莉花になっても、設定通りの宮本茉莉花っぷりである。


「かわいい!なにそのお弁当!」

「え、自分で作ったの?すごーい!」

「うちなんて今日朝いつもより早いから余裕なくてさ、昨日のおかず詰め込んだだけだから彩りなんてあったもんじゃないよ。ほら茶色一色」

「朝早かったよねぇ。私お弁当詰めるの諦めてお手軽にサンドイッチにしちゃった」


学年全員が山頂に到着すると、まずはお昼の時間になった。

めいめいが好きな場所で友達同士と集まって座っている。

茉莉花はクラスの女子生徒数人とお弁当を広げたが、その茉莉花のお弁当にきゃあきゃあと歓声があがった。


ハート柄に焼いた卵焼き。王道のタコさんウィンナー。ミニトマトに芽キャベツと小エビのピンチョス。甘辛く煮たミートボール。薔薇の花弁を模したアスパラのハムチーズ巻き。星型の人参のグラッセ。三色そぼろごはん。


今朝、茉莉花が作ったお弁当だ。


容姿、頭脳、身体能力だけではない。宮本茉莉花は料理においてもハイスペックなのである。

作ったことのない料理でも、レシピ通りに調理すると失敗したことがない。

美味しい料理をレシピ通りに作れるだけではない。創作料理のアイディアも次々浮かんできて、日々レパートリーが増えていっている。

更に、茉莉花はお弁当を作るとき、毎回飾り付けも一手間工夫している。

こういった細やかな飾り付けが好きな茉莉花は毎朝ちまちまと作業している。


「ふふん、これが今日だけ特別仕様ってわけじゃないんだよね。茉莉花はいつもこんな感じのお弁当だよ」

「なんで結衣が自慢気なの」


胸を張る結衣に茉莉花はツッコんだ。

普段のお昼ご飯は結衣と二人で食べているのだが、彼女は毎回茉莉花のお弁当のおかず一品を交換したいと言ってくる。

今日もさっそくアスパラのハムチーズ巻きが欲しいと言うため、茉莉花は結衣のお弁当の蓋に乗せた。代わりに里芋の煮物をもらう。


「宮本さんって、落ち着いてるからこういうかわいいお弁当作るの好きってすごい意外」

「でもギャップがむしろいい感じだよね。一緒に騒げる人でよかった」

「実はこう見えて運動もバリバリできるからね!」

「だからなんで結衣が得意気なの」

「あはは、こう見えてツッコミも得意だ」

「ていうかそれ普段の体育の授業で知ってたし」


『スイートチョコレート』では、宮本茉莉花は周囲にギャップがある人物だなんて言われていなかった。

入学式中に倒れたり、バスに酔って寝こけたり、山道でずっこけそうになる子にも見えなかった。

クールで知的で儚い彼女の雰囲気に、同性からは綺麗で憧れを集め、異性からは高嶺の花扱いだったのだ。一緒に友達と騒ぐシーンなんてなかっただろう。


しかし多少性格が異なっていても、漫画の設定通り学級委員に選ばれたのだからスペックが同じなら物語通り話は進んでいくのだろう。


いや、まぁ漫画通りにはさせないけどね。

絶対王崎君を好きになったりしないから。

ヒロインと王崎君で、私という障害もなく勝手にくっついて、勝手にハッピーエンドになってください。


茉莉花は卵焼きを食べながらちらりと右に視線をやった。

茉莉花達の座っている場所から少し離れた木の下で、男子生徒達が数人固まってお弁当を食べている。

王崎もそのグループにおり、時折ふざけたように笑っている。


わー、頭ぐしゃぐしゃってされて笑ってる…。男の子といる時は女の子の前でする王子様みたいな笑い方じゃないんだ。


…いやいや、これは珍しい表情してるからちょっと見てただけだし。そもそも、王崎君がどこで食べてるとか把握してなかったから。今たまたま横見たらいただけだし。


茉莉花は視線を外し、勢いよく三色そぼろご飯を書き込んだ。

むせた。







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