お宝を探せ!

「さーて、何かお宝はないかなー」


 放課後の生徒会室、僕のカバンに小夜子会長の魔の手が迫る。

「会長っ! 僕のカバンの中勝手に見ないでくださいよぉ……」

 しかし時すでに遅し。小夜子会長が僕のカバンの中身を漁る。


「何かいいものないかな~」

「さよちん、やめなさいよー……トモくん嫌がってるでしょ」

 優子ちゃんが小夜子会長をたしなめるが、聞く耳を持たない。


「なんかトモのカバンの中つまんねーなー、全部教科書とかノートとか参考書ばっかだなー、授業に使うものばかりでこれじゃ遊べねーなぁー」

「あのー……会長? 学校は授業するとこで遊ぶ物とか普通持ってこないですし……」

「アホかっ! 教科書なんか学校に置いておけよーっ!」

 それって小夜子会長さーん、家で勉強しないんですかー? もう何と突っ込めばいいやら……


「わーっ! これ最新型のヘッドホンステレオじゃねーか! 先月出たばっかのヤツ」

「あー……やめてくださいよぉ……会長……」

 もう小夜子会長、僕の言葉聞いちゃいないようだ。


「おいトモっ、このヘッドホンステレオは持ってきていいのかよ? 授業と関係ないよなー! コレ校則違反だよな? 本来なら没収だよなぁ? なぁ?」

 小夜子会長が突っ込む。

「あの……それを言われると……」

 僕は反論できなかった。


 確かに……ヘッドホンステレオ持ってくるのは校則違反なのかもしれない。でもウチの学校含めて、公立の高校ってそういうところにはおおらかな校風のはずなんだが。


「ねぇ、さよちん、もうそれくらいで許してあげれば? トモくんかわいそうだよ」

 優子ちゃんが説得しても、小夜子会長は僕のヘッドホンステレオを手にしたままだ。


「そうだ! それじゃトモ、このこと風紀委員にバラしたくなければこの最新型のちょっと聴かせてくれよっ!」

「はいはい……わかりました……そのボタンが再生ですよ、で、これが音量……」


「トモっ!はいは一回だけだろ? ってか……これ、演奏だけで歌入ってないじゃねーか」

「あっ、その曲はクロスオーバージャズのインストゥルメンタルの曲なんで」

「なんだ、そのクロスなんとかやらインストなんとかってのは?エアロビなんとかの先生のことか?」

 いやっ、それはインストラクターなんですけど……って、言っても無駄なんでしょうけど。


「やっぱ歌がねーとわけわかんねーなー」

 小夜子会長がヘッドホンステレオからカセットテープを出してしまう。

「会長、ちょっ……ちょっとー……テープ出さないでくださいよぉ」

「テープなんか出してねーだろ、カセットを出したんだっ!」

「だから……そういうことじゃなくって……あの……会長」

「テープ出すってのはこういうことだろ?」

 そう言ったかと思ったら、小夜子会長がカセットの中のテープの帯をスルッと引き出した。


「ああっ……そっ……それは……」


 引き出されたテープはワカメのように絡まった。


「ああっ……会長……なんてことしてくれるんですかぁ……それもう聴けないですよぉ……」

「だっ……だって、トモがテープ出すとか言ったから……ごめん、トモ……使えなくなるなんて知らなかったから……」

 小夜子会長は今にも泣き出しそうな表情だ。


 そう、女の子は、至ってこういう「機械もの」には弱いもんだ。小夜子会長も例外ではなかった。普段は男っぽい言動や行動だけど、中身は当然のことながら「女の子」そのものなのだ。さすがに僕もこれ以上小夜子会長を責める気になれなかった。


「会長……テープのことはもういいですよ。そのかわり僕がヘッドホンステレオ持ってきたことは内緒にしてくださいね」

「わかった……トモ……ほんとにごめん……」

「ありがとうございます、会長」


「トモ……ほんとに許してくれるのか?」

「許すも何も、会長も女の子なんだなぁ……と」

「当たり前だっ! あたしはどっから見てもレディーだろーが!」

 小夜子会長がようやくいつもの口調に戻った。


 昭和五十八年、六月……外は雨でひんやりしているが、生徒会室は暖かな空気に包まれていた。

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