第二章 生徒会な人々

生徒会な人々 その1 生徒会長の日々

「トモーっ、消しゴム取ってくれー」

「はい、会長」


「トモーっ、シャーペンの替え芯取ってくれー」

「はい、会長」


「優子ーっ、お茶くれー」

「はい、さよちん」


「さっちゅーん、印刷機の用紙補充しといてくれー」

「わかったー、さよっち」


「トモーっ、消しゴムのカス捨ててくれー」

「はい、会長……って、さっきから会長、何もしてないじゃないですかー」


 四月の下旬、僕たち生徒会役員は珍しく仕事に追われていた。部活の予算案を今日中にまとめ上げなければならないからだ。普通に考えれば、前もって準備しておけばここまで忙しくなることはないらしいのだが、小夜子会長が予算案の書類を引き出しの中にしまい込んだまま忘れていたためだ。


 しかしそんな中でも、この忙しさの原因である小夜子会長は、予算案の書類に目を通すこともせず、なにやら別のことをしている。


「ほれー、トモ、見ろ見ろ、消しゴムの芯だよ~ん」

 小夜子会長は消しゴムのカスをシャーペンの中に詰め込んで芯のように出した。完全に遊んでる。


「会長、何やってんですか! 僕たち忙しいんですよ、会長も手伝ってくださいよぉ」

「うっさい! あたしは会長なんだぞ! 偉いんだぞ!」


「そもそも、こうなったのは会長のせいじゃないですかー」

「うっさいなー! 済んでしまったことは仕方ないだろー」


「だったら会長も早く手伝ってくださいよぉー」

「うっさい! うっさい! 会長は偉いから何もしなくていいんだっ!」


「じゃぁ、僕にその偉いところ見せてくださいよぉ」

「うっさい! うっさい! うっさい! トモはなんでそんなどうでもいいこと聞くんだ?」


「だって会長、さっきから遊んでいて予算の書類すら見てくれないから……」

「わーった、それじゃ書類見せて見ろよ」


「はい、これですよ。あっ……順番変えないでくださいね」

「なんだよトモは、いちいちうるさい姑みたいな奴だなー」

 小夜子会長が面倒くさそうに、僕の渡した予算案の書類に目を通す。


「うーむ……」

「会長、何か不備とかありますか?」

「うーん……なんかよくわかんないからトモに任せる」

 そう言って、書類をそのまま僕に突っ返してきた。


「会長ーっ、僕がやるのはいいんですが……そんなんでいいんですかー?」

「だってあたし会長だから、偉いから何もしなくてもいいんだ!」


 もう小夜子会長に期待するのはやめよう。僕は書類の処理を再開する。しかしまあ、なんでこんないい加減な人が生徒会長なのか……僕には理解できない。


「終わったー……」

 僕と優子さん、さっちゅん先輩は、予算案の書類をなんとかまとめ上げた。外はすでに暗くなってきている。時計を見たら六時を過ぎていた。


「やっと終わったかー、お前たち、よくやった!」

「会長は何もやってないじゃないですか~……」

「でもトモはよくやったじゃないか、いい子いい子」

「会長~……その撫でるのやめてもらえませんか~……僕……恥ずかしいですから……」


「トモくん、もうさよちんにすっかり懐かれてるね」

「優子さ~ん……あまり見ないでくださいよぉ……」


「さよっちばっかりずるーい! あたいもトモっち抱っこするー!」

「うわっ……さっちゅん先輩っ……やめて……やめてくださいって」


 生徒会室はこんなに遅い時間でも、楽しく賑やかな声で溢れている。


「さーてと、今日の生徒会は~しまいっ! あしたもハッスルでゴーなのだ!」


 会長のいつもの最後の台詞……まあ、ワンパターンなんだけど、どういうわけだが元気が沸き出る。こういったところが所謂「生徒会長」たる所以(ゆえん)なのか……

 それとも僕たちは、小夜子会長にうまいこと使われているだけなんだろうか……とりあえず今は考えるのはよそう。


 昭和五十八年四月下旬、陽が落ちた後の風はまだ少しひんやりしている……

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