第二話 伸介達、リアル大阪編敵キャラ退治の旅始まるで(後編)

近くのファミレスで昼食を済ませたみんなは、大阪港駅の方へ歩いて戻っていく。

「阪神タイガースおじさん。また現れたな。ここでも出るんだな」

 駅近くの路上でそれらしきのを伸介が発見すると、

「あの阪神タイガースファンにあるまじきエッチなおっちゃん、ワタシがやっつけるよ」

「あたしもやるぅ」

 友実絵と陽菜々は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。

「とりゃぁっ!」

 友実絵はバットで背中を、

「タイガースのおじちゃん、くらえーっ!」

 陽菜々はメガホンで肩を一発攻撃した。

「いたたたぁ。こらこら、お嬢ちゃん、何しはんの?」

「まだ消えへんか。攻撃力足りんかったようやね」

「もう一発叩けば消えそう」

「あのう、このお方は本物の阪神タイガースおじさんみたいやで。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもおるねん。リアルのを参考にしてデザインされとるゆえ」

 桜子が苦笑いして呟くと、

「えっ!? すっ、すみませんでしたぁ」

「おじちゃんごめんなさーい」

 友実絵と陽菜々は慌てて謝罪。

「いや、ええんよ。なんか今朝から大阪市内各地でタイガースの応援衣装で若い女に猥褻な行為をするけしからん輩が出とるって聞いとるし。お嬢ちゃん達はわいがその者と思ったんやろ? ほな、嬢ちゃん達も気をつけてな」

 本物の阪神タイガースおじさんはハハハッと陽気に笑って快く許してくれ、バス停の方へ足を進める。

「間違いなく敵キャラの阪神タイガースおじさんのしわざやな」

「ついに一般人にも直接被害受けたやつが出たわけか」

「大阪市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいよ。アニメイトととらのあなさんとソフマップさんも被害に遭ったみたいやけど、それはきっとポンバシのアニヲタ君、声ヲタ君のしわざやろうね」 

友実絵は自分の携帯をネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認する。

「泥棒もやってる敵キャラさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」

「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」

「敵キャラさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にも襲い掛からないで欲しいよ」

      ☆

 みんなは地下鉄、JR、南海電鉄を乗り継いで中百舌鳥へ。大仙陵古墳隣接の大仙公園内を散策する。

「おう、埴輪が来るかと思いきやお線香から登場か。まあこれも堺の伝統産業やもんね。ええ匂いもして来たわ~」

 友実絵は嬉しそうに呟く。高さ一メートルくらいはある線香型モンスターが煙をたなびかせながら近づいて来たのだ。

「本当にいい香りですね」

「私、この香り好きになりそう」 

「あたしもー。煙たくなくて気分が安らぐね」

 竹香、藤乃、陽菜々は姿を見かけるや、恍惚の表情を浮かべた。

「伸介様は、この匂い嗅いだらあかんで。あっ、遅かったかぁ」

「あんぅ、伸介くん、やめて」

「ごめん、なんか俺、藤乃ちゃんの汗まみれのパンツ見たくてしょうがないんだ」

 伸介はとろんとした目つきで藤乃のスカートを捲ってしまう。

「伸介お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」

 陽菜々は楽しそうに笑う。

「伸介さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」

「体力30の堺線香さんの男の人によく効く魅惑の線香の力で、伸介様はムラムラ状態に侵されちゃってん」

「藤乃お姉さぁん、大好きや♪」

「ゆっ、友実絵ぇ。やめて。伸介くんも友実絵も変だよぅ」

 友実絵からはほっぺたにディープキスをされてしまった。

「友実絵様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」

 桜子は楽しそうににっこり微笑む。

「藤乃ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」

「藤乃お姉さぁん、舌入れさせてー」

「んもう、伸介くんも友実絵も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」

 藤乃は中腰の伸介にショーツ越しだがお尻に鼻を近づけられ、友実絵に口づけを迫られる。

「すみやかに倒しましょう」

「線香、くらえーっ!」

 竹香のハリセン、陽菜々のメガホンの連続攻撃によりあっさり消滅。堺サッカーもなかを残していった。

「あれ? 俺。うわっ、なんで藤乃ちゃんの尻が俺の目の前に!?」

「ありゃ、ワタシさっきまで何を」

 伸介と友実絵は途端に平常状態へ戻る。

「伸介お兄ちゃんと友実絵お姉ちゃん、藤乃お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」

 陽菜々は楽しそうに伝えた。

「ごっ、ごめん藤乃ちゃん!」

伸介はすみやかに藤乃から離れてあげ深々と頭を下げた。

「藤乃お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ない」

友実絵は藤乃のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。

「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん。ん? きゃっ、きゃぁっ!」

 また新たなモンスターにスカートに食いつかれ捲られてしまう。

「鯉幟だぁ。空飛んでるぅ。金太郎も乗ってるぅ」

 陽菜々は楽しそうに眺める。金太郎が跨った真鯉と、緋鯉一体ずつ現れた。

「きゃぁん、ワタシのスカート捲らんといてや」

 友実絵は緋鯉の方に襲撃される。

「堺五月鯉幟。体力は38。綿布で出来とるから火で攻撃したら瞬殺出来るで」

「またエロ攻撃かよ。俺が製作者だったら火を噴くとかの攻撃考えるんだけどな」

「職人さんに申し訳ない気分になっちゃいますね」

 伸介と竹香はマッチ火で攻撃。ボワァッと燃えてあっさり消滅した。

 乳守もなかを残していく。

 みんなは付近を引き続き歩き回っていると、

「うわっ」

 伸介、

「きゃっ!」

 藤乃、

「びちょびしょになってもうたわ」

 友実絵、

「冷たぁい」

 陽菜々、

「これはお抹茶ね。誰のしわざかしら?」

 竹香、

「間違いなく千利休銅像のしわざやね」

 桜子、

全員背後から抹茶をぶっかけられた。

「どうじゃ」

桜子の推測通り、千利休の銅像型モンスターが。秀吉の銅像と同じく人間の言葉でしゃべった。高さは一八〇センチくらいだ。

「こいつまでモンスターになってるのかよ」

「そういえば千利休さんって、堺出身だったね」

「あたしも知ってるぅ。お茶の人だよね」

「千利休銅像、体力は45。大阪城秀吉銅像も瞬殺出来る強さやで」

「秀吉さんに切腹を命じられたらしい千利休さんだけど、ゲーム上ではそんな設定になってるのね」

 竹香はにっこり微笑む。

「秀吉攻め利休受けで同じ部活の子でBL描いとった子がおったよ。ワタシは正直絵が気に入らんかったけど」

「ホホホ、BLとは何かは全く知らぬがそこのボサボサ髪のお嬢さん、この朝顔を一輪だけにしてみんかな?」

 千利休銅像は友実絵目掛けて数輪の朝顔を投げつけて来た。

「切り裂いたるで」

友実絵は楽しそうにカッターでズバッと切り付ける。

十輪あった朝顔が三輪に減った。

「いたたたぁっ」

 地面に落ちた七輪の朝顔はぴょんっとジャンプして友実絵の頬を花びらで思いっ切りビンタした。友実絵の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。

「危ない朝顔さんね」

 竹香がこの朝顔にマッチ火を投げつけて消滅させた。

「友実絵、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」

「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったんよ」

 藤乃から受け取った太閤饅頭を食して、友実絵の頬の傷は瞬く間に消える。

「それそれそれーっ。よけ切れるかな?」

 千利休銅像は楽しげに伸介目掛けて茶碗を七種類投げつけて来た。

「いってぇ!」

 伸介は黒楽茶碗東陽坊を肩に一発食らってしまうも、

「リアル千利休は茶碗を大事にしてたと思うぞ」

「わびっ!」

 怯まず立ち向かい、千利休銅像の顔面を竹刀でぶっ叩いた。

「利休のおじちゃん、これでもくらえーっ!」

「おう、美味いではないかこの白いの。抹茶と共に点てるとより美味しさが引き立たされそうじゃ。秀吉様もきっとお喜ばれになろう」

 陽菜々は生クリームで顔面を攻撃。体力を回復させてしまったようだ。

「千利休、ワタシが切腹したるわ」

「ぐはっ!」

 友実絵は腹をカッターで腹を切り付けた。

これにて消滅。抹茶飴、焼き菓子の【利休の堺こよみ】、干し菓子の【利休古印】を残していく。

 それからすぐに、

「きゃぁっ!」

「いやぁん、こいつ埴輪の癖にエッチやわ」

 藤乃と友実絵は馬や犬や水鳥や女性の頭の形をした埴輪型の敵数体に襲われた。胸にしがみ付かれたり、上着やスカートを思いっ切り捲られたりされ、ブラやショーツが丸見えに。

「大仙陵古墳の埴輪くん。体力は馬型38、犬型41、水鳥型43、女子頭部型は44や」

「またしてもエロ攻撃好きな敵かよ」

 伸介は呆れ気味に竹刀で立ち向かっていくも、

「ぐわっ!」

 犬型の一体に頭突きされ突き飛ばされてしまった。

「いってててっ」

 伸介は地面に叩き付けられてしまう。

「伸介くぅん、大丈夫?」

 藤乃は馬型にまとわりつかれながらも心配そうに駆け寄っていき、ちんちん電車もなかを伸介の口に放り込んだ。

「おう、痛み消えた」

 伸介は完全回復すると、再び立ち向かっていき馬型一体にマッチ火と竹刀の連続攻撃を食らわし消滅させた。

「遠くから攻撃した方が良さそうだね。エッチな埴輪くん、くらえーっ!」

「埴輪のくせに生意気やでっ!」

「あなた達は堺市博物館に展示されるべきですね」

 陽菜々の手裏剣&水鉄砲、友実絵のGペン、竹香のマッチ火攻撃で残りも一気に全滅させた。

 けし餅、堺燈台もなか、古代米アサムラサキ入り大福餅【いにしえ大福】、仁徳天皇陵などをべっ甲飴で模った【堺・夢のもり】。計四つの回復アイテムを残していく。

「太っ腹な敵でしたね。んっ? きゃっあん! 真っ暗です」

 またすぐに竹香は何かに上空から襲われてしまった。

「竹香ちゃんが閉じ込められちゃったぁ」

 藤乃は慌てて呟く。

「息苦しいです。蒸し暑いです。出して下さい」

 竹香は高さ二メートくらいの土器型の敵に覆い被されてしまったのだ。

「堺で最強の敵、大仙陵古墳の須恵器甕ちゃん。体力は48。防御力かなり高いで。弱点は無し。火にも強いで」

「土器のモンスターかよ。黒岡さん、すぐに助けるからな」

 伸介はさっそく竹刀で攻撃。一撃では倒せず。

「とりゃぁっ!」

 友実絵もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。

「ものすごく硬いね」

 陽菜々のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。

 伸介達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、大仙陵古墳の須恵器甕ちゃんは消滅した。

「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら体力0になってたとこでした」

 代わりに現れた竹香はハァハァ息を切らし、汗もいっぱいかいていた。彼女も中からハリセンで攻撃していたようである。

「竹香ちゃん、これ食べて」

 藤乃は堺サッカーもなかを与える。

「ありがとうございます。美味しい♪ んっ、もががが、なんかとろろ昆布らしきものが覆い被さって来ました。前が見えません」

 竹香は全快した瞬間にまたも何者かに先攻される。

「とろろ昆布のモンスターか。堺は昆布加工業も盛んだもんな。黒岡さん、大丈夫か?」

「息苦しいですぅ」

「絡み付いて取りにくいな」

 伸介は竹香の頭にこびり付いたとろろ昆布を手掴みして引き離してあげた。

「ありがとうございます伸介さん。疲れました」

 竹香は体力をかなり消耗してしまったようだ。

「竹香ちゃん、これ食べて」

 藤乃は海遊館塩キャラメルクッキーを与えて全快させてあげた。

「堺とろろ昆布ちゃんは体力37や。弱点は水と炎。皆様、身動き封じに注意してや」

「うわっ、動き早っ!」

 伸介も堺とろろ昆布ちゃんに包み込まれてしまう。

「鬱陶しい」

 けれどもすぐに自力で引き離した。

「あたしとろろ昆布不味いから嫌ぁい」

 陽菜々は水鉄砲を直撃させる。

「動き鈍ったな」

 伸介はふやけてしまった堺とろろ昆布ちゃんをすばやくバットで攻撃。あっさり消滅し純白とろろを残していく。

「わたし、堺では酷い目に遭ってばかりだな」

 竹香はしょんぼりした気分で呟いた。

「竹香様、元気出してや。竹香様の本領を発揮出来るイベントも道中であるから。竹香様がいないと十中八九突破出来へんと思う」

「どんなイベントなのかしら?」 

「それは現地に着いてからのお楽しみということで」

桜子がそう伝えた直後、

「フォフォフォ、皆の者、モンスター退治、良く頑張っておるようじゃな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」

 白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんがみんなの前に現れた。

「おう、まさにそのイベントに遭遇やで。ゲーム上ではこの敵、大阪天満宮に出るねんけど」

「エロそうな爺ちゃんやね」

 友実絵はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。

「フォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」

 お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。

「ロリコンなんかぁ。見た目通りやね」

「あたしが好きなの?」

 陽菜々がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、

「陽菜々、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」

「そんなことしないよ」

「いや、しそうだよ」

 藤乃に背後から掴まえられた。

「このお方は学問仙人といって、対戦避けることも出来るねんけど、戦った方が後々の旅で有利になるかもやで」

「学問仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、大阪編で早くも遭遇するんだな」

 伸介は興味深そうに学問仙人のお姿を眺めた。

「敵キャラやけど、倒せば味方になってくれるで。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方やで。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きやねん」

「ホホホッ。わしはゲーム上では大阪天満宮におるのは学問の神様、菅原道真公が祀られておるからじゃよ。わしはつい一時間ほど前まではリアル大阪天満宮におったのじゃが、早く勇者達に会いたくて地下鉄とJR、南海を利用してここまでやって来たのじゃ」

「公共交通機関利用か。なんか、仙人っぽくないな。雲に乗ってくるとか」

「雲に乗れるとかあり得んし。少年よ、現実的に考えよ」

 学問仙人はにこにこ微笑む。

「そう突っ込まれたか。俺らの居場所知った方法も、桜子ちゃんが事前にメール送って知らせてたとか」

「その通りやで伸介様。勘が鋭いわ~」

「やっぱそっか」

「ホホホッ、見事正解じゃ。その点は超能力とは思わんかったか少年。そこの陽菜々と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」

「やる、やるぅ」

「陽菜々、危ないからダメだよ」

「小学生の陽菜々様では、まだ倒すん無理やと思うで」

「戦いたいんだけどなぁ」

「わたしがやりますっ!」

 竹香が率先して学問仙人の前に歩み寄った。

「そこのショートが良くお似合いの才媛っぽさが感じられるお嬢さんは、東大志望かのう?」

「いえ、わたしは京大第一志望ですよ」

「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」

 学問仙人はいきなり杖を振りかざしてくる。

「ひゃっ!」

 竹香は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまった。

「想像以上に強いな。このエロ爺」

 伸介はとっさに竹香から目を背けた。

「きゃんっ!」

服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。

「なかなかのスタイルじゃわい」

 学問仙人はホホホッと笑う。

「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。体中が痛ぁい」

 仰向けで苦しそうに呟く竹香のもとへ、

「大丈夫? 竹香ちゃん、これ食べて」

 藤乃はすぐさま駆け寄って、ゴマフアザラシラングドシャを与えて回復させた。けれども服は戻らず。

「学問仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するよ」

「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」

 友実絵はバット、陽菜々は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。

 しかし、

「ほいっ!」

「きゃわっ! もう、ほんまにエッチやわ」

「いやーん、すごい風ぇ」

竹香と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。

「友実絵も陽菜々も大丈夫?」

「平気よ、藤乃お姉さん」

「あたしも、大丈夫だよ」

「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」

藤乃は心配そうに駆け寄り、いにしえ大福などで全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。

「一応、やってみるか」

 友実絵と陽菜々のあられもない姿も一瞬見てしまった伸介も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、

「それっ!」

「うおあっ!」

 やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。

「男の裸なんか見たくないからのう」

 学問仙人はにっこり微笑んだ。

「伸介さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」

「ありがとう、黒岡さん」

 明日用の替えの服を着た竹香は堺燈台もなかで伸介を全快させてあげた。

「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」

「いいえけっこうです!」

 学問仙人に微笑み顔で誘われた藤乃は、青ざめた表情で即拒否した。

「このエロ爺、とんでもない強さや。これは倒しがいがあるわ~」

「中ボスの力じゃないよね?」

 友実絵と陽菜々は圧倒されるも、わくわくもしていた。

「どうやっても、勝てる気がしないわ」

 竹香は悲しげな表情で呟く。

「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」

 伸介は友実絵と陽菜々のあられもない姿を見ないよう視線を学問仙人に向けていた。

「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」

 学問仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を伸介に差し出して来た。

「これ、テストか?」

「学問仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学問仙人が出す筆記試験の正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるねん。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるねんで。ちなみにゲーム上ではネット検索対抗で一問当たり三〇秒の制限時間が設けられとるよ」

 桜子は解説を加えた。

「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。二割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」

 学問仙人はどや顔でおっしゃる。

「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」

 伸介は苦笑いした。

 歌舞伎俳優の特殊な社会は何と呼ばれているか? 

漫画『やけっぱちのマリア』の著者は誰?

大阪府内にある次の地名の読み仮名を記せ【喜連瓜破】【放出】【杭全】などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。 

「あたし一問も分からないよぅ」

「ワタシもや」

「友実絵ちゃん、陽菜々ちゃんも、服破けてるから」

 前から覗き込まれ、伸介はもう片方の手でとっさに目を覆う。

「すまんねえ伸介お兄さん、すぐに着てくるわ~」

「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」

 友実絵と陽菜々は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。

「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」

 藤乃もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。

「それならわたしに任せて」

 竹香はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答をし始めた。

 全部で百問。一問一点の百点満点だ。


「どうぞ」

竹香は三〇分ほどで解答を終え、学問仙人に手渡した。

「ホホホ。かなり自信おありのようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ! ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」

 学問仙人は驚き顔で呟く。

「竹香様、さすが賢者。大変素晴らしいで。どこにでもおるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学問仙人、能力値九割八分減で童子能楽ん並に弱くなったと思うで」

「本当か? 姿は全然変わってないけど」

 伸介は少しにやけた。

「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」

 学問仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。

「明らかに弱くなってますね。学問仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」

 竹香はハリセンで学問仙人の頬を引っ叩いた。

「ぐええ! まいった」

 学問仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。

「能力値極端に下がり過ぎだろ」

 伸介は思わず笑ってしまう。

「服も戻ったわ」

「ほんまや」

「勝ったんだね」

 竹香、友実絵、陽菜々の破かれた服も瞬く間に元通りに。

「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」

 学問仙人はみんなに大阪天満宮の学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。

「なんか、急に頭が冴えて来た気がするわ~」

「俺も」

「私もー」

「あたしもすごく頭が良くなった気がするぅ。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」

「わたしもですよ。今なら京大の過去問も難なく解けそうな気がします。本当に本領が発揮出来て嬉しいです♪」

 竹香は満面の笑みを浮かべる。

「竹香様に喜んでもらえてうちも嬉しいわ~。皆様、このあと難波に戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみてや」

みんなはその後は新たな敵に遭遇せず、大仙公園から中百舌鳥駅へ辿り着くことが出来た。

        □

南海難波駅到着後、また道頓堀付近の人通りの少ない場所をぶらつくことに。

「全然痛く無いわ~」

 友実絵はきつねうどん型モンスターからまた熱々出汁をぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと丼側面にバット一撃で消滅させた。

「確かにめっちゃ弱く感じる」

「武器がいらないね」

 伸介と陽菜々は童子能楽んをそれぞれ平手打ち一発で倒した。

「たこ焼きの助は指でつついただけで倒せますね」

 竹香は五体で襲って来たたこ焼きの助をあっという間に撃退。

「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」

 藤乃は阪神タイガースおじさんの肩をポンッと押しただけで消滅させることが出来た。

「やったぁ! ポンバシのアニヲタ君倒せたよ。お小遣いようさんゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげやな」

 友実絵はその敵の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。

「皆様、期待以上のレベルやね。もう夕方やから、このあと箕面へ移動したら宿を決めましょう」

「観光地の箕面で六人も泊まるとこあるのかな? 連休中だしどこも埋まってそう」

 伸介は少し心配になった。

「箕面駅からちょっと遠いけど、籠森旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万五千円だって。六名以上だと団体割引で一万二千円よ」

「それでも高めやけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。竹香お姉さん、ここにしよう!」

「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」

「私もー」

「ええ場所にあるね。うちもここがええわ~」

「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったよ」

 竹香は携帯のネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。

「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるで」

「そこもリアルさがあるな」

 伸介はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。

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