第4話 魔法と剣術

 声が響く。少年の声。そちらを見ると、眼鏡にローブをまとった青い髪の少年が立っていた――。

 彼がレディ・ジャスミンが言っていた魔法と剣術の先生だろうか。いや、この少年が剣術も担当するとは思えないので魔法の先生なのかもしれない。


 レディ・ジャスミンの例があるため、少年だとはいえナタリアは油断しない。レディ・ジャスミンを態々呼んで家庭教師にする父親である。きっとこの少年も優秀に違いない。

 そう思いながらナタリアは、少年を観察する。年は同じくらいだろう。眼鏡にローブを着た如何にもな服装。


 有名な額に傷のある魔法使いの小説の中の人物のようにも見える。思わず額に稲妻型の傷がないか探してしまった。ないようである。

 杖はもっていないようだった。この世界の魔法がどんなものかわからないのでなくても使えるのかもしれない。その代わりに分厚い本を抱えている。あれで魔法を使うのだろうか。あるいはただの教本か。


「ディン・クローゼンと申します。ナタリアお嬢様に魔法をお教えするよう申し付かっております」


 顔は整っているし、将来はさぞイケメンになるのだろう。今は可愛らしい顔をしてる。

 ただ、無表情にも見える仏頂面がマイナスポイントだなと観察してナタリアは思った。子供は笑っているのが一番だ。娘の笑顔に何度も救われてきたナタリアとしては、子供には笑っていてもらいたいのだ。


「レディ・ナタリア、ご挨拶は?」

「はい、ナタリア・アルゲンベリードですわ。クローゼン殿、どうかよろしくお願いいたしますわ」


 スカートのすそをもっての礼。習ったことはきちんとやったはずだが、どうだろうか。

 レディ・ジャスミンからは何も言われないので大丈夫だったと思いたいが、大丈夫でなかったと思って精進することにしよう。


「これから魔法の授業をいたします。よろしいでしょうか、レディ・ジャスミン」


 なんだろうかどことなく生意気そうな感じを感じる。


「ええ、大丈夫よ。しっかりね」

「はい」

「では、まず魔法とは何かから説明いたしましょう」

「その前に、修練場に移動なさい。魔法を見せるのでしょう?」

「そうですね。では、ナタリア様、こちらへ」


 修練場は屋敷の中にある屋内の奴で、そこには木製の人形などが剣などの訓練にも使えるのだろう様々なものが置いてあった。


 ディン説明を始めていた。


「魔法とは一つの機関です。大気中、体内、ありとあらゆる場所にある根源の力である魔力を、機関エンジンを形作る歯車のように組み合わせ、組み換えてまったく新しい法則を与えた力のことを言います。

 原則一人に付き魔法は一つ。一人で複数の魔法を使える者も魔法使いの中にはおりますが、そんなことができるのは一部の者だけです。

 普通は一つの魔法だけです。例外は身体強化とかになりますね。あれは魔法というより武技クラフトと同原理となり、魔力を動かせるなら誰でも使えるからです」

「武技?」

「武技っていうのはね、魔力を使って行う武術の技みたいなものよ。剣術の先生からも習うと思うわ」


 身体強化とかそのあたりの延長線上で魔力を動かすだけで行えるので、魔法とは違う括りなのだとレディ・ジャスミンが補足する。

 それが済むとディンが再び説明を再開する。


「魔法は自らで生み出さなければなりません。それには適切な知識と適切な修業が必要です。この六年で魔法を習得できるかどうかはナタリア様次第となりますが、私も出来る限りのお教えしますので、頑張りましょう」


 そのうちに、修練場に辿り着く。


「では実際に体験するのが一番でしょう。では、行きますよ」


 ディンがナタリアに向かって手を突き出す。すると見えない力でナタリアは空中へ吊り上げられる。


「え、あ、お?」


 これが魔法。発達した科学は魔法と同義という言葉を耳にしたことはあるナタリアであるが、見えない力に宙吊りにされるという体験は人生は初だ。

 その原理もなにもわからない。力の根源があの分厚い本だということはわかる。見えない力をなんとか見ようとしてなんとなく何かが感じられたのだ。


 それは流れのようなもので、どこにでもある空気のようなものだった。おそらくこれが魔力というものなのだろう。


(不思議な力ですわ。これで何でもできるのなら、あいつらに会えるかも)


 そう考えてしまえば、真剣に魔法という大樹を読み解こうとする。枝の先の葉だろうと、全ては根源に繋がっていることをナタリアは知っている。

 一を知り十を知れとは言わないが、一を知って五くらいは理解できて実践できるようになれと強要されてきて20年以上のブラック企業勤めの生活。


 妻が口下手であり、そういう裏の意図なども読まなければならなかったナタリアにとって、一を見て十を知ろうとすることは慣れたものだった。

 それに先ほどの説明もある。効率至上主義で聞き取れないのはお前たちの責任だと言って憚らない漆黒ブラック企業の上司に付き合わされていれば説明があるだけ本当にマシだ。


(うん? うーん? うん……。蒸気機関学が役に立つとは思いもしませんでしたわ。これ、そのまま歯車機関のようではないですか)


 それはディンも言っていたことだが、ナタリアは魔法の理に触れて実際に実感してみると本当に機関というたとえが適切であることが良くわかる。

 魔法とはそのままディンの言葉にもあるように機関だ。歯車まりょくを組み合わせ、組み換えて作り上げる一つの機関。


 魔法は蒸気機関から生まれた。レディ・ジャスミンが言っていた言葉だが、まさにそれはその通りだったのだろう。蒸気機関学がそのまま魔法理論の基礎だ。

 歯車を組み合わせて機械を駆動させる。そんな機関の基礎はそのまま魔法にも利用できるわけだ。何も知らなければ苦労するが、基礎があるならば話は早いそこから辿る。


「そろそろ降ろしますよ」

「あっ、はい」


 実はもう少しばかりこの状態を維持してほしかったりもしたが、仕方ない。言われるままに降ろされる


「では、まずは魔力の鍛え方と扱い方についてお教えします。これは次までの課題であります。まずは魔力を扱えるようになること、それから己の扱える魔力を知ることが重要です。最後には、それを組み合わせて魔法をつくるところまでいければ行きます」

「はい」


 ディンに魔力の使い方を教わった。一度体験したからわりとすんなりといった。時折、レディ・ジャスミンが補足を入れてくれるおかげもあるだろう。

 鍛え方とか、次までの課題を出されてディンの授業は終わった。時間通りぴったり。超過することはなかった。ディンが時間ぴったりに終わらせたからだ。あと質問する前にレディ・ジャスミンが補足してくれたおかげである。


「あれがディン・クローゼン。稀代の天才魔法使いと謳われる少年ね。生意気だって聞いていたけれど、礼儀くらいは知ってるか」

「知っているのですかレディ・ジャスミン」


 レディ・ジャスミンは授業を終えたディン・クローゼンについて語る。


「ええ、知っているわよ。天才。あなたとほとんど変わらない歳で魔法を極めたとされる。まごうことなき天才。学園アカデミー始まって以来の生ける伝説の再臨とすらも言われているわ」

「なるほど」


 そんなにすごい子だったのか。納得がいった。しかし、あの年頃から働くとは親はなにをやっているのだろうか。

 そうナタリアは思う。あの年頃の子供は健やかに遊んでいるべきなのである。異世界だろうと子供が働く世の中で駄目だろう。まだ同い年。二桁にも届いていない年頃だと考えれば。


――これは、早々に授業を終えて遊ぶ時間を作ってあげたらどうだろうか。


 頑張って魔法を使えるようになってさっさと授業を終えてもらおう。そうすれば彼も浮いた時間で自由時間が出来るはずである。

 彼の授業を終わらせるには固有魔法を創ることが必須だ。難しいと言われたが、ナタリアはやる気だった。


 子供の健やかな成長の為、若い子を働かせずやりたいことをやらせるためにもナタリアは頑張ることを決めた。

 そのために渡された魔法の教本を読破しようとしたとき、


「――カカッ、面白いお嬢ちゃんじゃ」

「――――」


 またもそこで声がかけられる。しわがれた老人の声。振り返るとそこにはお爺さんがいた。ただのお爺さんではない。好々爺のようにも見えて、その眼は鋭い鷹のようであった。

 それを前にした時、ナタリアが感じ取ったのは明確な死だった。胴体を真っ二つにされて死ぬ。一歩引けば次は首が飛ぶ。


 そんな明確な描写ビジョンが脳裏に浮かんだ。思わず胴体と首を確かめたほど。それと同時に放られるのは剣だ。

 軽い短剣。ナタリアにも扱えるような代物ではあるが、包丁などではない明確な凶器を手にした時、全身にかかる重みを感じ震えた。


「ほほほ、悪くない。良いセンスだ。息子と同じで貴族にしておくんが勿体ないくらいじゃわい。さあ、やろうや。わしは、ベルクルス。お前さんから見ればお爺ちゃんになるのかのう。いや、ここはお主の剣術の師と言っておくかのう。アルゲンベリード流剣術。しかと教えてやるからのう。しかし、いやはや、ガウロンも人が悪いのぉ。わしのような老骨の剣術を娘に叩き込ませるとは」


 腰に帯びた機構剣を彼は抜いた。歯車機関を要した特殊な剣。レディ・ジャスミンの授業にも出てきた武装の一つ。

 シリンダーがないことから共鳴剣オルゴールブレードではないことくらいしかナタリアにはわからない。ただそれに安堵する。


 共鳴剣あれは、ただの剣では受けることすらできないからだ。

 詩響けばあとに残るは斬れたものだけ。蒸気機関が駆動し、シリンダーが回転を開始すれば最後、詩による刃の高周波振動によってありとあらゆるものは溶断され尽くす。


 だからといって安心できるわけがない。何一つ習っていないというのに、戦えというのか。結果など見えているに決まっている。


――結論

――不可能


 剣の理など何一つ知らない。せいぜい大河ドラマなどで殺陣を見るくらいのものだ。ただの貧弱一般人に何が出来るというのか。

 無理。死ぬ。確実に。相手は真剣。こちらも真剣。確実に死ぬ。死の恐怖がナタリアを支配する。無様に格好悪く震えて泣き叫ぶのは男としての沽券に係わるゆえにそれはないが、やせ我慢しても全身の震えは停まらない。


 その間にも老人は準備を着々と整えていく。薄く身体が発光している。それが魔力を流して身体で循環させていることだと気が付く。


「――――ぇ」


 そして、その瞬間、目の前に白刃が迫っていた。明らかに老人とは思えない速度。目で追えるはずもなく、ただ恐ろしいという感覚に従って飛び退いていた。

 手加減されていたのだろう。刃がナタリアを傷つけることはなく、修練室の床に深々と突き刺さる。破片が飛び散った。


 一度死んだ分、二度目は死にたくない。恐怖が勝る。ゆえに、その集中力は、極限まで高まって行く。本能的に、そうしなければ死ぬとわかっていたのだ。

 老人が構えるように短剣を構える。模倣する。ここで剣の理を盗め。そうでなければ、死ぬ。その上で、まるで自分を背中から見ているいかのような錯覚をナタリアは感じる。


 極限状態での錯覚だろうか。だが、丁度良い。その状態のまま、ナタリアは必死にこの状況の打開策を考える。

 死にたくない。ただその一心で。


「ほれ、行くぞい」


 その心を読んだかのように、老人が再び体に力を入れる。めぐる魔力。同時に老人の筋骨に力が張るのが見て取れた。


――身体強化。

――ならば真似をしろ。


 生存本能がナタリアに己の中にある魔力を動かさせる。ぶっつけ本番だが、やる以外に手はない。身体の中をなぞるように老人の真似をする。

 不格好で老人には及ばないが、それでも身体強化を成す。それでも死の恐怖、死神が付き纏う。それは待ってくれない。


「――――っ!」


 首を駆るかのように振るわれる薙ぎ。振り降ろしの次は薙ぎだと言わんばかりに首へと一直線に大気を裂いて刃が走る。

 受けたとしてそのまま受けた刃ごと斬られるのだと本能は悟った。だから、そのまま前に倒れ込むように潜り抜ける。


 背後の壁に一直線に刃傷が走った。子供にやることではないぞ。虐待だ―! と内心で叫びながら、ナタリアは修練室の扉へと走っていた。

 ただの一歩。全力の一歩で扉を蹴破って廊下へと出た。その瞬間、地を這うような一撃が来た。振り上げ。地を這うかのように低い位置。股下から身体に入る様に。


 思わず転がるように前に飛び込んだ。回転し宙に浮く身体。視線の前を斬線が通り過ぎていく。老人は笑っていた。

 ナタリアは逃げた。その上で、剣の理を盗む。身体強化を最適化する。ただ流していては無駄だ。流す経路を最適化して無駄なくロスなく循環させるのだ。


 更に、効率よく強化する。全体ではなく必要な場所を。骨、筋繊維。身体強化をそれらの強化だ。だからそれら事態に直接流し込む。

 医学が発達した現代日本人。人体模型くらいは見たことある。必死にナタリアはそれを思い出して自らに適応する。


 結果。身体強化の効率が跳ね上がる。強化だけでなく補強も施し、身体の悲鳴を抑え込んで逃げる。振りかえればそこにいる死神の斬撃を無我夢中で躱しながら。

 そんな決死の鬼ごっこを続けていれば老人が手加減をしてくれていることにも気が付く。しかし、それがなんだというのだ。手加減をされてなお死ぬ感覚は消えてはなくならない。


 ここに至って、忘れていた死の感覚をナタリアは思い出していた。


(痛いんだぞ。ああ、でもほとんど一瞬だったからわからないけど、一瞬でも痛いんだ)


 素に戻りながら、死を回避すべくナタリアの身体は本能で動いていた。


「シッ――」


 息を吐くように、剣閃が迫る。音すらも切り裂く一撃。それを躱したところで、老人が、ベルクルスが止まった。


「見えたかのう。ナタリア。剣を見せたが、どうじゃった見えたかのう。見えてないならまた初めからなんじゃが」


 全力でナタリアは頷いた。嘘を付けばおそらく最初からだったのだろうが、辛うじて全ての剣をナタリアは見ていた。

 その天稟は父譲りなのだろう。ベルクルスは面白いものを見るようにナタリアを見る。荒削りながら、自分で考えて最適を突き進む。


 更に一を見て十を知ろうとする。惜しい。貴族の娘にしておくのが実に惜しい娘だった。剣の型を教えるだけなのが、実に口惜しいが、


「良かろう。修羅になりたければ、自分でこちらに来る」

「?」

「気にせんで良い。では、これからアルゲンベリード流を見せるからのう。見せた型を真似してみるんじゃ」


 そう言って彼は剣だけでなく銃を取り出す。


「アルゲンベリードは盾を持たぬ攻めの剣術を得意としておる。やられる前にやれというのがうちの家訓でな。機構剣と可変銃その二つを使うまあ、面白みのない剣術じゃ」


 他に剣術をみたことがないからナタリアには何が面白みがないのかわからない。

 ベルクルスが言うには、貴族の剣術はそれぞれに特色というか隠し技的な切り札があるのだ。アルゲンベリードの場合は、防御を捨ててとにかく切りに行く蛮族スタイルだとかで面白みがないとベルクルスは言う。


「基本敵に共鳴機構とそれに連なる別の変形機構を武器へ取り入れて手数を増やす」


 剣と銃を使う剣&銃ガンソード。剣と剣の双剣ダブルソードスタイル、銃と銃の二丁拳銃ダブルピストル。双剣を接続しての魔法弓。剣一本だけ使い、蹴りなども多用する喧嘩殺法。

 面白みがないと言うが、結構技が多岐に渡る。それらを一通り見せられた。


「まずは、剣を振るところからじゃが、成長する身体に悪くないくらいにほどほどにじゃな」

「わかりました、あのお爺ちゃん?」

「ふぉっふぉっふぉ、良い良い。長生きしてみるもんじゃ。それじゃあのう。ゆっくりとやっていこうや」


 そう言って、ベルクルスは笑いながら去って行った。


「はあぁぁぁ」


 ナタリアは息を吐いてへたり込んだ。どっと疲れが押し寄せてくる。というか腰が抜けた。どうして自分が生き残っているのか。そっちの方が不思議なくらいだ。


「大丈夫かしら?」


 レディ・ジャスミンがやってきて汗などをぬぐってくれる。


「なんとか。ただ、……腰が抜けて歩けません」

「大丈夫そうね。あなた子供らさしくないわ。子供なら泣き叫ぶところよアレ」


 そうなのだろうが、精神年齢が40代なナタリアからすれば人前で情けなく泣き叫ぶのは恰好が悪い。それを言うわけにもいかず黙っていると、


「まあいいわ。連れて行ってあげましょう」


 背負われてしまう。良い匂いがした。これはこれで役得だが、背負われるというのは恥ずかしいものだった。しかし、本当に良い匂いがした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 それから数か月。ナタリアは、黄金の光輪と翼を背負っていた。


「お、い、それは」


 それを見たディンは驚愕を隠せない。思わず素が出てしまうほどに。


「ああ、先生。見てください、わたくしの魔法ですわ。一つに決めるのは難しかったので、全ての要素を組み込めるように拡張性を強めてみたら、こんなふうになりました。あと翼には大気中の魔力を吸収して変換するようにしたり、色々としてみましたのよ」


 ありえない。その言葉がディンの思考を捉えていた。普通、組み合わせる魔力には個人差がある。いわば相性だ。誰も彼もが全ての歯車を使えるわけではない。使えないものもあれば、使えるのもある。

 そういうものだ。だが、ナタリアの魔法には例外なく全ての魔力が使われている。しかも、無駄を排し、拡張性に富んでいることは言われなくても理解できた。


 この魔法はありとあらゆることを可能とするだろう。いわば、万能を魔法にしたのと同義。そんなことが可能な者などもはや人間と言えるのか。

 それも、未だに成人すらしていない6歳の少女がそれを成したと信じられるか。信じられるわけなどなく、ディンの中にあった自負を打ち砕いて行った。


 膝を屈し、見上げる。そこには輝く魔法の翼と光輪を背負ったナタリアが立っている。天才ともてはやされた自分。

 望んでいた好敵手。あるいは自分すらも超えるような相手。そんな相手などいないと思っていた。だが、今、ここに遭遇した。


「なんだ、これは」


 だが、期待したような高揚はない。好敵手とめぐり合えた高揚などなく、あったのは――


――悔しさだけだった。


 初めて感じる悔しいという感覚。久しく忘れかけていた研鑽の必要性。戻っていた。彼は求道者に戻っていた。


「フォッフォッフォ。これはこれは、我が孫ながら本当に凄いのう」


 それを見ていたベルクルスは笑みを深めていた。つくづく貴族の娘にしておくのが勿体ないことだ。平民の娘ならばそのまま攫って魔法と剣術を極めさせたものを。

 剣術の型もこの数か月の間に覚えてしまっていた。あとは反復を欠かさなければいっぱしの剣士だ。才能が凄まじい。


 そして、その才能の使い方を心得ている。つくづく子供ではない。その印象は強まるばかりだ。本人が一番わかっていないのだろう。

 自分が一体なにをしているのかを。


「どうなるんじゃろうなぁ。お嬢ちゃんは」


 化け物になるか、あるいは、別の何かになるのか。


 そんな独白は、風に消えて雲が覆い尽くす空へと昇って行くのであった。

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