第27話 仲間

 ヴァーチャーズ本部一階の大広間で行われていた精神統一の集まりは、今は休憩時間になっていた。みんなおしゃべりをしてつかの間の楽しい時間を過ごしている。

 そこへ魔遊が顔を出した。途端にみんなおしゃべりをやめた。魔遊はみんなとの壁を感じ、大広間に入るのをためらった。

「魔遊。待ってたのよ。さあ、こっちへ来て。改めて紹介するわ、杏璃魔遊。元ドミニオンズ戦士だけど仲良くしてあげてね」

 アスドナが魔遊をむりやり大広間に連れて入る。そしていらない紹介までし始めた。おせっかいといえばそれまでだが、アスドナにしてみれば少しでも魔遊がヴァーチャーズに溶け込んで欲しいという思いでの気づかいだった。

「魔遊、お前さん安堂博士とずいぶんと長い時間話をしていたが、何を話ししてきたんだ?」

 伊武ルイスが大声で魔遊を問いただすように言い寄ってきた。

「別に。関係ないだろ」

 今の魔遊はとても話す気になれなかった。あまりにも色々な感情が混ざり合っていて、すべてがわずらわしかった。ただ、その態度がルイスには気に入らなかったようだ。

「お前、ちょっと博士にひいきしてもらったからといって、調子に乗ってるんじゃないか? ヴァーチャーズに入隊して初日なのに生意気なんじゃないか? ちゃんと先輩である俺に敬意を表していると思っているのか? どうなんだ?」

 ルイスは顔を赤くしてまくし立てた。「なにもそこまで」とか「また始まった」と他の隊員たちは思ったが、誰も何も出来ないでいた。

 その時魔遊の耳に異音が聞こえた。最初は蚊が飛んでいるようなかすかな音だったが、段々と大きくなり、耳を押さえないと耐えられないほどになった。しかし耳を押さえても音は一向におさまらなかった。そう鼓膜そのものに音が響いていたのだ。これがルイスの智力、イヤドラム・シェイクだった。音を操る智力というシンプルなものだったが、これが今の魔遊に効果的だった。しかし、本来ならここで魔遊のネガティブ・ジェネレイターの魔の手に血祭りにあげられてもおかしくなかった。

「待て待てルイス。そんなに一方的に決めつけたら、魔遊が可哀想じゃないか。魔遊だって言いたくないことだってあるはずだ」

 そこへ出てきたのがアザエルだった。すでにヴァーチャーズのリーダーであるかのように振舞っている。本田はリーダーという器ではないし、アスドナはサポート役に徹している。ルイスはこの調子だし、紗麻江では頼りない。ほかのパワーズも似たり寄ったりだ。すると必然的にリーダー職が空席状態だったところにアザエルが座る結果となった。

「アザエルがそういうなら……」

 とルイスはおとなしくなった。アザエルの言うことなら聞くのかと魔遊はにらんだ。アザエルの存在感はもはや疑いもなくリーダーである。

 アザエルとアスドナのおかげで、魔遊も大広間のおしゃべりに加わることができた。ヴァーチャーズ戦士は基本的に大人しい人が多いことがわかった。一部を除いて、遠慮気味なのだ。だからといって意見がないわけではない。頭で考えていることはかなりエグイものがあったりもする。魔遊への悪感情もないわけではない。

 いちいち口に出すルイスや紗麻江が悪いのか、それとも頭で考えていること自体が悪いのか。それは魔遊にもわからなかった。

 ただ、ひとつ言えるのは、ヴァーチャーズに入隊したところで魔遊にとっては疎外感と孤独感を覚えてしまう場所でしかなかった。それだけだった。

「明日、ARK社日本支部に潜入しに行く」

 不意に博士が顔を出した。オリジナル世界ではARK社の研究員なのに、コピー世界ではARK社の敵対組織に属しているのが皮肉だった。

「目的は、MADと呼ばれる人類天使化計画によって集められたビッグデータの詳細を調べることだ。ただ、向こうもこちらから出向くということは恐らく予想していると思われるので、戦闘になる恐れがある。というわけで戦闘要員も一緒に行く。本田、アスドナ、ルイス、紗麻江。そして今日から正式に入隊となったばかりだが、アザエルと魔遊にも行ってもらう。そしてわたしももちろん行く。では、明日に向けて体調を整えておくように」

 博士は言いたいことだけ言うと、すぐに去っていってしまった。

 大広間では、みんなが明日のARK社襲撃の話で持ちきりだったし、夜も興奮して眠れない者もいた。

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