フェイスブックの活用法2 ー商店街も一人に寄ってもらうー

パン屋の朝は早い。4時にはもう仕事を始めている。しかし、今日ほど時間がたつのがもどかしいと思った日はない。


早く、、早く、時間よ過ぎろ、、、半分だけ開けていたシャッターを全部開け開店の準備が終わったのが8時。でも、まだ寛和さんのところの洋服屋は開かない。


早く開け、、早く、、、、何度も何度も表に出ては開いていないかを確かめる。9時オープンだと知っていても、ついつい表に出て、7軒先にある寛和さんのお店のほうに目をやってしまう。


まだ人通りもまばらな商店街で、シャッターを開ける音がかすかに聞こえる度に、外に出ては寛和さんの店を見た。


”ガララ、、、”


また、シャッターを開ける音が聞こえた。すぐさま外にでる。寛和さんの店が開いた。一目散に駆け寄り、


「寛和さん!!!」


「おっ、一郎ちゃん、どうしたのこんなに早くから血相変えて」


「すみません、うちに来ている三木なんですけど、彼を使って商店街でフェイスブックの講習をやりましょう。」


 デジタルに強い寛和さんは少し困った顔をして、


「そりゃいいけど、、ちょっと早くないですか?うちの商店街はメールだってうまく使えない人が多いんですよ」


と言った。


「やらなきゃダメです。今は情報を出していない所はいないも同じなんです。」


三木の受け売りの言葉で、三木ほどはうまく話せないが、『全てが意味のある情報』になったと言う事と、『記憶という情報』で買ってくれているお年寄りはいつかいなくなるということ、そして、『フェイスブック』を使えば一人一人が発信者になれることを話した。


「フェイスブックなら、楽しみながら『情報』を出すことが出来るんです。もしかしたら、この商店街に人が来ないのは『情報』を出していないからかも知れないんです。」


そんな言葉を言いながら多分、それは間違い無いと心の中で思っていた。商店街のみんなは新しい物を仕入れたり、常に商品開発をしたり努力はしていた。それが報われないと感じて、いつしか段々やる人が少なくなってきたけど、それは『情報』が伝わっていないことが原因だったんだと思う。

インターネットで何でも買えるようになったから、お客様が商店街に来る用事がめっきり減った。


コンビニの理論と一緒だ。寄れば目にする物が沢山ある。新しい商品だったり、必要な物だったり全ては【商店街に来てくれればこそ】だったんだ。新しい商品は、【知らないものは探せない】【思い出さないことは探さない】だから検索はしてもらえない。


お店と一緒だ。商店街もまずは【一人によってもらう】ことに力を注がなくてはいけない。そのためにはきっと『フェイスブック』は役にたつ。


たぶん、この『フェイスブック』を上手く使うのはインターネットをうまく使うのと同じ年代だ。若い年代に『情報』を届けるのにきっと役に立つ。商店街のみんなのやる気にもきっと役に立つ。


寛和さんは勢いに押されたのか、それとも頭のいい人なので、このつたない説明から何かを感じてくれたのか


「解りました、すぐ役員会にかけます。」と言った。


その日の昼過ぎに三木がやってきた。講師をやってもらうのを正式にお願いしたいという事と、『商店街に来てくれればこそ』の持論を展開すると、


「ビックリですね、、、一回聞いただけで、そこまでキッチリ理解されてるとは、、、そうですね。仰るとおりです。寄れば目にする物があります。もともと商店街はそうやって『情報』を自然に届ける事ができたのです。


さらに言うならば、テレビから流れる商品が買えない、『情報の何分の一かは意味のないもの』時代だった時、、例えばあるものが欲しくて探していると、必ず近所のお店に頼るしかありませんでした。

お店側は特に何もしなくてもお客様が来てくれたし、期待に応えることで、ファンにもなってくれました。そして同時に最大の差別化ポイントである【人】を伝えることができた。ところが今はインターネットがあるので探し物があってもお店に来ません。

来なければ、最大の差別化ポイントである【人】を伝えられない。差別化ポイントが伝えられなくなったので、お客様に値段だけで比べられ、小さい所はとても勝てない状況になっています。意外と皆さん気づいていないのですが、お客様との接点もスゴク少なくなっているのです。値段合戦をしないためにも、お客様との接点をつくらなければいけないのにお店に来ない。まずはここからクリアしなければなりません。


どういう形でもいいので、『情報』を出して、まずはお店に寄ってもらう。『フェイズブック』はその一連の流れを取り戻す事がでるツールです。時間や空間を越えて【人】を伝えられるので小売店にとっては大チャンスです。」


その日の晩、寛和さんから電話が入った。


「役員会通りました。会場は商工会議所を借りておきます。商店街の皆さんには今から同報ファックスと一斉メールで同時に流しておきます。三木さんの対応はよろしくお願いしますね。」


「了解しました。ありがとうございます!」

 

電話を切ったあと、少し変わった商店街を想像して興奮した。

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