番外編① 私は両親と他人になりたい(後編)

 学校は夏休みに入り、私は外へ出る理由を見つけなくてはならなくなっていた。

 時間をつぶすために入ったネットカフェの一室で、私はキーを叩いてフリーメールを取得してから、そのアドレスを利用し、SNSに登録した。

 いわゆる出会い系サイトってヤツだ。


 簡単な自己紹介を書いて、掲示板に夏休みで浮かれた高校生っぽく、ヒマをしてるので、相手をしてください。みたいな事を書き込んだ。

 中学生と書かなかったのは、『高校生』の方が、反応がいいと情報を仕入れていたからだ。

 それに自分を偽っていたかったというのもある。


 ほんの十数分でレスがいくつかついた。

 一人目のレスは大学生らしい……。少し考えて、大学生はダメだと思った。

 学生はおそらく金に余裕がないはずだ。そのくせ、時間に余裕はある。

 そういうのとすることになれば、ダラダラと時間は掛かるのに、見返りは期待できないと思えた。


 相手をするなら、社会人だ。

 いくつかレスを探すと、サラリーマンと思わしき人物を見つけられた。

 夕食を一緒にいかがですか、という内容であったが、下心は透けて見えた。

 私は、震える指先でキーを叩いて、返事を送る。


 ついに、実行する時が来た。

 畏れるな。私ならできる。何を失うものがあるというのだ。

 もはや、自分には何もないではないか。得るものしかないはずだ。

 この茨の道を超えて行かなくちゃ、私には安寧は訪れない。

 今はキズを負っても、歩まなくちゃならないときなのだ。

 こんなのキズにはならない。

 キズだと思ってはいけない。

 行くぞ、麻衣。


 夕方十九時。駅の傍の喫茶店で待ち合わせになり、私はワザと遅れて行く腹積りで行動する。

 外から様子を窺いそれらしい人物を観察する事にしたのだ。もし、やばそうな人物なら、会わずにばっくれてしまおうと考えた。

 レスから受け取った情報は、スーツ姿で分かりにくいと思うので、目印に赤いフレームの眼鏡をかけて行くとの事だった。

 喫茶店の中を覗くと、スーツの男性は四名居た。

 眼鏡をかけていたのはその内三名。

 赤い、眼鏡は……居た。一人、レッドフレームの眼鏡をかけていた。

 年の頃は三十半ば頃だろうか。スーツは紺のラインが入った物を着用していて、不思議と赤い眼鏡と似合っている。おそらく、ネクタイの柄が合っているのだろう。

 髪は短くに綺麗にまとめて清潔感も感じられたし、ヒゲも綺麗にそられている。

 悪くなさそうと思った。


「いいよね? いいよね……、麻衣……」

 私は、自分に暗示をかけるように、大丈夫、大丈夫と何度も呟いた。

 震える脚に気合を入れて、いちど、ドンと踏み鳴らす。

「よし」

 私は、喫茶店のドアを開いた。


 相手も私もハンドルネームで自己紹介をした後、当初の予定通り食事に行く事になり、私は彼について行く流れとなった。

 相手はマコトと名乗り、私は、マリと名乗った。

 マリのハンドルネームは適当につけた。音の響きが本名と近しいからそうしただけだ。

 入った店は、ハンバーグ専門のレストランで、意外にもすんなり食事を奢って貰った。

 食事中に、私の事を色々と訊ねてきたり、普段どういうものが好きなのかなんて話をしたりした。


「マリちゃん、おいしかったかい」

「う、うん……」

「ところでさ、僕のほかにも沢山、レスが付いてたのに、なぜ僕を選んでくれたんだい?」

「え……。その……」

 お金持ってそうだから、とは流石に云えない。

「大人で……仕事をしていて、色んな事をしってそうだったから……」

「へえ、シゴトに興味があるのかい?」

「……まぁ、そうかも」

「じゃあ、ちょっとオシゴトの話、しようか?」

 マコトは、そう言って口の端を吊り上げた。

 ――いよいよ、そういう話をしようと云うコトだろう。

「マリちゃん、高校生なんだよねぇ? トシはいくつ?」

「……じ、十六」

 ……サバを読むしかない。これは仕方ない。上にサバを読むというのも、珍しいことなのかも知れないけれど。

「へえ、それなら、もう結婚できる年齢だね」

「……あ……、そうなる、かな」

 ……そうだ……女性は十六から結婚が出来るんだ……。するつもりなんてないけれど、割と近くにある大人の扉に驚いた。

「それじゃ、三枚でどう?」

 ……さんまい?

 よく言っている意味が分からない。不意の提案に私はきょとんとしてしまった。

「……分かってるんでしょ。あんなとこに書き込んどいてさ。メシ喰って終りってワケないよね?」

「……っ!」

 そ、そうか。三枚って……お金のことか。三万円でどうだって言ってるんだ。

 ……三万円も……。

「いい、よ。それで」

 また震えだした脚をぐっと押さえる。大丈夫、大丈夫。ほんの少し、肉体労働するようなもんだ。

「ようし、じゃあ出ようか」

「は、ハイ……」

 もう、あちらはやる気が充満しているようだ。

 私みたいなのでも、金になるんだな……。

 ……こんなに簡単に捕まるんなら、やっていけるかもしれないな。


「あっ」

 一つ、抜け落ちていた事があった……。

 そうだ、これから……そういう事をするのだから……アレが必要になる。

 マコトがアレを持っているか分からないけれど、もしもの時のためにも、自分で持っていた方がいいかもしれない。

 ……前にコンビニで絆創膏を買ったときに、見かけたことがある。

 コンビニでも買えるはずだ。

 先に寄って、買っておかなくちゃ。

「ごめん、ちょっとコンビニに寄りたいんだけど」

「ああ、いいよ。僕も買いたいものがあるしね」

 少し、ほっとした。

 ご飯もしっかり奢ってもらったし……この人も、そんなに怖い人ではなさそうだし……。

 うん、大丈夫――。


 適当に入ったコンビニで、私はまっすぐ日用品コーナーを目差し、目的のものを発見した。

 避妊具、いわゆるコンドームだ。

 初めて購入する……。凄く緊張する。レジに持って行くのがなんだか怖い。

 ――いや、こんな事で怖がっていてどうする。

 いい加減に覚悟を決めるんだ。

 これが一歩だ。

 歩き出せば、戻れない。

 戻ってはいけない。

 私は、進むんだ。

 あの家に戻らないために――。


 レジで会計する店員がねめつけるように見てきたような気がする。

 商品をレジに出すと、怪訝な顔で見られたようにも思えた。

「ポイントカードはおもちですか」

 ……そんなのいいから、早く会計を終わらせたい。

 店員が箱のバーコードを機械に通す。

 盤面モニタに金額が表示される――。

 私はサイフから、お金を取り出そうとした時に、突然その手を掴まれた。


 はっとして振り向く。

 ――私の手を握っていたのは、リカだった。


「おまえ……なんで、ここに……?」

「何買ってんだ」

 私の手を握ったリカの手は、蘭のそれとは違って、力強く痛かった。だけど、とっても強い意志を感じられたし、持っていた暖かさは蘭のものと同じだと思った。

「なんで、そんなの買ってんだ」

 もう一度、私の手を強く握りながら、突き刺すようにリカは言う。

「こ、これは……」

 弁解の言葉が出てこない。リカの眼は強い怒りの熱を持って、私の胸の氷を溶かす。

 何も言えず固まる私の傍に、マコトがやってきた。

 状況を見て、把握したのか、にこやかにリカへ話しかけた。

「やぁ、友達かな? これは違うんだよ。僕の買い物を手伝ってくれただけなんだ」

 リカはマコトに目線を向け、明らかな敵意を送る。

「なに、アンタ」

「僕は、マリちゃんの従兄弟だよ。ほら、マリちゃんの家の事情はキミも友達なら知ってるだろう。一時、親戚で面倒を見ようかという話になったんだよ」

 ……よく口が回るなと感心した。

 私は、彼に自分の家庭事情なんておぼろげにしか伝えていない。

 それでも、あんなサイトに書き込む女の子なんて、誰も似たようなもんだと判断されたんだろう。

 つまり、家に居辛くなった少女というバックボーンは共通で、マコトの経験則からこんな言い回しをしたのだろう。

 そして、それは図星であったのだ。

 だから、リカも一瞬戸惑った。だが……。

「ふぅん、従兄弟ね? 『マリ』の、従兄弟ね……?」

 リカは、こちらを一瞥して、またマコトへ向き直った。

 ……リカにはごまかしは効かない。私が何をしようとしているのか、もう理解しているはずだ。

「あなたの、御名前を窺ってもいいですか?」

「スズキマコトですが?」

 サラリと言ってのけた。

「スズキさん、あたしは大守リカです。こいつの友達です。悪いんだけど、こいつは今日、あたしと約束があるんだ。今日のところは帰ってくれませんか」

 リカはまったく怖じることなく、マコトへ真っ向からぶつかった。

「あ、あのう、お客さま……」

 店員も状況に戸惑っている。

 このままだと、場はどんどん大騒ぎになりはじめていく。


 私はどうでもいい。

 でも、リカに迷惑をかけたくはない。

 私は、リカの手を解いて、マコトの手を取る。

「ほんとだよ。この人、私の親戚なんだ。久しぶりに会うから名前をきちんと覚えてないんだ」

「麻衣……! あんたマジで言ってんの?」

「そうだよ、だから言ったろう。さあ、分かったらもういいよね。行こうか、マイちゃん」

 マコトが私を促すように、腰に手を回してくる。

 ――ぞわり、とした。だが、震えを表には出さないように、私は仮面を被る。

「ああ、店員さん。お騒がせしました。その商品はキャンセルしますんで」

 マコトが私の手を引き、外へ連れ出そうと強めに引っ張る。

 リカは、その場で動けずにいた。

 その顔は私をじっと見つめ、ただただ、訴えていた。

 ――本気なのか、と。


 ごめん。でも、もう私は歩き出してしまったんだ。

 その道に、リカや蘭は巻き込めない。

 私の冷え切った人間性を二人にこれ以上見て欲しくない。

 これで、さようならになるんだ。

 ほんとうに、ごめん。

 蘭にも、もう二度と会わないつもりだ。

 ――ごめんなさい。


「株式会社デジタルドームズの遠藤真吾さん」


 不意に声が上がる。

「なっ――」

 マコトが慌てた様子で声の主に振り向く。

 そこには、直也がいた。

 右手には、名刺を持っているらしい。そこに遠藤真吾と名前が記載してあった。

 左手には、サイフが握られていた。

「サイフ、おとしてますよ」

「俺のサイフ、いつの間に!?」

「ごめんなさい。サイフが落ちてたんで、中身に手がかりがあるかと思って、物色させてもらいました。あ、免許もある。遠藤さんの顔写真も一致ですね。でも、あなた、スズキマコトさんじゃなかったっけ?」

「このガキ、掏りやがったな!」

 マコト……いや、遠藤真吾が私の手を払って、サイフを奪いに直也に掴みかかった。

「やだな、落ちてたのを拾っただけですよ。なんだったら、店員さんに防犯カメラで確認してもらってもいいッスよ。デジタルドームズの遠藤さん」

「くっ。いいから、返せ! くそ、なんだっつーんだよ、厄日か!」

 遠藤は怒鳴り散らしながら、サイフをひったくるように直也から受け取った後は、そのまま逃げるように私を見もせず、コンビニから出て行った。

 暫しの沈黙の後、店員がマヌケに「これ、キャンセルでいいんですよね」と確認してきた事に私は、くなくなとその場にくずおれてしまった。


「あーやばかった。マジでビデオ確認されてたら、尻ポケットからサイフ盗ったの、ばれてたかも」

 コンビニの外で直也が汗を拭きながら、悪戯笑顔でニヤニヤ笑っている。

 対してリカは、黙って私を睨みつけていた。

 私も、どう話せばいいか分からず、黙り続けていた。

 すると、コンビニからタバコを買って出てきた、リカのお父さんがリカの背を押した。

「とりあえず、車に乗りなさい」

 私もそのまま、促されて後部座席に乗り込むこととなった。


 どうやら、大守家族と出くわしたのは、まったくの偶然だったらしい。

 リカの父がタバコを買いに行くついでに、リカと直也がたまたまついて来ただけの話だった。

 こんな偶然、ありえるんだろうか。

 いや、もしかしたら――本当はこんなことが出来ないように、運命が、そうできていたのかも知れない。

 結局私は、今回の計画が失敗して、どこか安心してしまったのだ……。


 そして、やはり自分がどこまでもカラッポなのだと、張り詰めた精神が脱力し、空虚になっていくのを感じざるを得なかった。

「私……、何してんだろう」

「バカやってるんだって、分かれ」

 リカが毒を吐く。心地よい、毒だった。

「……私の家のことは、知ってるよね」

「うん」

「もう、だめなんだ」

「うん」

「どっちも自分の事ばかりしゃべって、相手の事を受け入れる気がないんだ。そんな二人の間にできた私も、やっぱりそうだった。自分の事しか考えてなかった。親子なんだなって、思った。そしたら、もう嫌で。自分を壊したくて。環境を塗り替えたくて。気が付いたら、ああなってた」

「うん」

「ごめん、リカ。直也も、おじさんも、すみませんでした」

 涙は出ない。もう、本当にカラッポだった。途方に暮れてしまったというべきだろうか。

 泣けばいいのか、怒ればいいのか、逃げればいいのか、何も分からなかった。


「なぁ、月島さんが家に帰りたくないなら、ウチに泊まれば?」

 助手席の直也が笑顔で提案してきた。

「だめだ」

 ピシャリと大守父が却下した。

「でもさ、今日は、今日くらいは一日くらいウチで……」

「今日だからこそ、だめだ。月島さん、家まで送るからご両親ときちんと話しなさい」

「はい……」

 今更、何を話すことがあるんだろう。

 結局、私の事を取り合って、また言い争いになる。

 そして、言葉のナイフで三人ともキズだらけになるんだ。傍にいないほうが、いい家庭だってあるんだ。


 車は私の家の傍まで走ってきた。

 隣に座るリカが、到着間際にスマホを弄くりながら言った。


「さっき麻衣が、自分の事しか考えてない、愛のない二人の子供だって言ったじゃん?」

「うん」

「愛なんかなくたって、救われるべきだって。幼馴染が言ってるぞ」

「え……」

 リカが見せてくれたスマホのメッセージ履歴を見て、私は霞んだ眼を大きく見開いた。


「ここまでで良いです! 本当に、すみませんでした! 家に帰ります!!」

 私は、大守家の車から飛び降りて、駆け出した。

 月島の家に向かって、まっすぐに。

 駆けた、夏の夜の、虫の鳴き声の中を。

 駆けた、蒸し暑さがまとわり付く、嫌な空気の中を。

 全力で、戻るために懸命になったのだ。


 家の門をくぐり、玄関を開くと、そこには蘭と両親が対峙していた。

 蘭は私の両親に向かって、頭を下げていた。深く、深く下げて、こう叫んでいた。


「麻衣を助けてくださいっ!」


「蘭っ! こんな所で何やってるんだよ! お前が関わる事じゃないだろ!!」

「まい、ちゃん……」

「もう、遅い時間だぞ!? お前んち夜、厳しいだろ、なんでこんなトコに来てんだよ。早く帰れ……っ」


 パチンと強く叩かれた。蘭が強く頬をぶったのだ。


「バカだよ! 何にも分かってないくせに! 子供のクセに!! 独りで生きていけるわけないじゃん!!」

「……」

 捲くし立てる蘭は大きな涙を零して叫んだ。

 そして、もう一度、うろたえる両親に向かって頭を下げた。

「麻衣は、子供なんです。バカなんです! どうしたって、親がいなくちゃ生きていけない、弱い子なんです! だけど、あなた達の傍にいれば、麻衣はダメになるっ……。もう、ダメになっちゃってるんです、あと一歩リカちゃんが遅かったら……取り返しが付かなかったんですよッ!!」

 あの大人しい蘭が、こんなに激情をぶつけるところを私は始めてみた。

 しかも、それをぶつけている相手は私の両親なのだ。

 両親は、完全に蘭に気圧されていた。

「こんな事を言う資格や責任は、私にはありません。私だって、所詮、子供なんです。……大人に頼らなくちゃ生きていけない。だけど、あなた達が大人でしょう!? 親権があって、責任があるんでしょう!? 麻衣をどちらが受け取るかを決めないでください……、麻衣はモノじゃない……。どちらか、だけが答えじゃないはずです」

 蘭は硬く拳を握り締め、決して頭を上げず、懇願を繰り返した。


「麻衣を助けてくださいッ!!」


 私の氷は完全に溶けてしまった。

 簡単に溶けてしまった私の決意が、私がどうしようもなく、バカで子供なのだと分からされてしまう。

 泣かないと決めたのに、また泣いてしまった。

 両親は、私を見つめて、申し訳なさげに、表情を歪ませた。


 そうだ。大人はそんなに単純じゃない。社会はそんなに甘くない。

 問題は複雑で、答えだって綺麗じゃない。

 蘭が頭を下げ、懇願して家庭環境が回復するわけがない。


 だから、蘭はただただ、我侭に子供であり、悔しくも大人を頼ったのだ。その相手が問題の張本人であろうが、問題解決を行えるのは、自分ではなく、月島の親でしかできない。

 奥歯をかみ締めて、両親が動くまで決して頭を上げなかった。肩を震わせ、蘭はシンプルな願いを訴え続けた。


「麻衣を助けて」


 両親に、もはや愛などない。愛なんかなくたって、救われるべきだと言う彼女の主張は、月の海に、確かな波を立たせ、静かだった海原が寄せては返す波の音を響かせた。

 私は、気がついた。

 蘭はこう言っていたのだ。

 人を救うのに、愛情なんて必要ないと――。


「父さん、母さん。お願いがあります」

 蘭の前に出て、両親に向き合う。

 家族でたった一つの、単純な想いに対して、向かい合った確かな瞬間だった。



 それから、蘭は自宅に帰っていった。

 最後まで、私の事をお願いしますと、なんども訴えていた。

 きっと帰ってから、西野家の両親に怒られる事になっただろう。西野家は、かなり厳しい教育指導をしているし。

 私は、蘭に「ごめん」と謝って、強く抱きしめた。

 蘭は、ずっと「ばか、ばか」と泣いていた。

 蘭が落ち着くまで、ずっと抱きしめ、ばかの数だけ、ごめんを返した。


 その後、両親とは話し合いと云うより、自分の我侭をそのままぶちまけた。

 離婚するなら、結婚するなとか、子供を作るなとか、酷い事をそのままぶつけた。

 そうしてもいいんだと、蘭やリカが教えてくれたんだ。

 私達は、子供なんだから。


 私の我侭なお願いは、どちらとも一緒に暮らすつもりは無く、一人暮らしをしたい、それから、高校に行きたいという二つだった。

 両親は、それに同意してくれた。

 親権や慰謝料は、私には興味が無い。後々、両親が勝手に決めていく事だろう。

 私はこうして、一人暮らしの環境と、進学のために必要な援助をして貰える事を約束してくれた。

 自分なりに、プランを練って、両親にも話して見せた。

 大学は、国立を目差せば奨学金で全免除のところもあったし、小学校の先生になってみたいと考えていた自分には、国立大学へ通うのはほぼ必須事項だとも思った。


 高校は、一人暮らしをする都合上、近いところでなくては難しいという事になり、江洲高校を受験する事に決めた。

 特別すごい進学校でもないが、リカも行くと言っていたから、どこか心のより所になりえそうだとも思ったのだ。

 勉強はものすごく頑張らないといけなくなるだろう。

 それでも、あんな売春行為をするよりもよほどマシだ。

 なにより、蘭に向き合っていられる。


 そうだ、きっと、蘭は今怒られて泣いてるかも知れない。

 メールだけでも、送ってやろう。



『進路、決めた。江洲高校に進学する。一緒に学校行こうな』

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