真章24~不伝~怪力乱神御伽噺~ライ・アーチ~
〜ボロボロのクルマから、リンベルへ〜
リンベル、コノタビハゴジョウシャアリガトウゴザイマス。
ツギノトウタツチテンハダンス・ベルガードニナリマス。
ハソン、60ぱーせんと。エネルギーテイカ、ソクド、サラニゲンショウ。
ワタシガウゴカナクナルマデアト、50ぷん27びょう。
ナニモモンダイアリマセン。スベテハスウコウナルニンムノタメニ。アナタヲカナラズダンス・ベルガードノトコロマデオツレシマス。
現在の状況を一言で説明するならば、それは絶望的な状況だった。
ダンス・ベルガードはピラミッドの頂上で横たわり、服従の呪文によって動くことが出来ない。
また、その麓は全国民が集まっている為に完全な人の、いや悪魔と堕天使の壁が出来上がっている。
対してこちらは今にも壊れそうなボロボロの車と、か弱いレディと自称魔王を名乗る一匹の悪魔。
無謀、そんな言葉すら裸足で逃げ出す程の絶望的状況。しかしレディは諦めない。魔王は震えない。車は止まらない。
全ては、大切な者を奪い返す為に、彼等は前に進むのだ。
パアアア!パアアア!パアアア!
「どけー!どけどけどいてー!」
レディことリンベルは何度もクラクションを鳴らし悪魔達に呼び掛ける。
しかし彼等は全く動じようとはしなかった。
「あ、あいつら退く気ないわよ!?」
「当然だろう、奴等全員殉教する覚悟であの場に立っているのだ!
あいつら何度轢かれても立ち上がるぞ!」
答えたのは助手席に座る魔王。相変わらず冷静に状況を説明する。
「じょ、冗談じゃないわ!
今の車じゃごり押しなんか出来るわけ・・・それ以前に人をひきたくないわよ!どうすれば・・・!」
「むぅ・・・いや、今なら可能かもしれん。
リンベル、もう一度我に手を触れさせてくれ」
「え・・・良いけど・・・」
リンベルは手を伸ばし、魔王はそっとそれに触れる。すると魔王の体中に紫電が走り出した。魔王の体中に突き刺さるような痛みが突き通り、しかしそれはすぐに収まる。
リンベルの魔力を頂き、自分の力に変換しているのだ。
「うわっ!?」
「むぅ・・・これならばいける!
良し、今から我が道を開ける!行くぞ!」
魔王が扉を開けようとすると金具が外れ扉が吹き飛んでいく。だが魔王はそれを気にもせず体を半分外に出す。
「魔術・・・『ライ・アート(芸術的な嘘)』!」
突如、群衆の前に5メートルはある巨大な鏡が現れる。
群衆達は首を傾げて鏡の中の群衆も反対方向に首を傾げる。
「な、なんだこの鏡は?」
「魔王の得意魔術、ライ・アートか!
だがこんなの、攻撃しなけりゃただの壁だ!」
「しかもこれ、車の通り道に作られてるじゃないか!このままじゃあいつら激突してペシャンコだ!」
車の中ではリンベルが顔を更に青ざめていた。
「な、何する気なの!?
このままじゃぶつかるわ!」
「慌てるな姫君。
『車は鏡にぶつかり衝突』『ダンスを助けられず終わる』。
その真実を芸術的な嘘で逆転させるのだ!我等を守りし嘘よ!今その形を崩し新たな道となれ!」
魔王が叫ぶ。すると鏡が斜めに傾き、更に縦の方向にぐぐーっと伸び上がっていく。
「なんだ!?鏡が伸びて・・・ピラミッドの頂上まで!」
鏡は伸びて伸びて、そしてダンスが寝ている祭壇の前で止まる。祭司は目を丸くし、ダンスは息を呑む。
「な、なんだこれは!?」
「魔王、まさか・・・」
「我等の意志を嘲笑った者達よ!
刮目せよ、これが我等の願いを叶える芸術的な嘘!ライ・アーチ(嘘つきの橋)!!」
長く伸び上がった橋から、緑色の閃光が煌めき、それは結界となってピラミッド全体を包み込む。
「結界だと!?で、出られない!」
「まさか、このピラミッド全体の麓を多い尽くす程の巨大な結界を、あんな小悪魔が作れるなんて・・・!」
「だ、出せ嘘つき魔王!早くここからだしやがれ!」
「くそ、出られない!あいつめよくも!」
「結界を壊すぞ!誰か金槌持ってこい!」
「んなもんねぇよ!畜生出しやがれ!」
「これじゃ俺達名誉ある殉教が出来ないじゃないか!だせ、出すんだ!」
民衆が騒ぎ始め、結界を壊そうとする。だがそれは魔王に届かない。
「クルマよ前進せよ!
嘘つきどもを踏み抜けて、我等の真実掴みとれ!!」
「ラジャー!!」
車は斜めに傾いたライ・アーチの橋の上を進む。橋の下の伸びた鏡には怒りと驚愕の表情を浮かべる民衆の姿が映し出されていた。
「貴様達の間抜け面が鏡に映し出されてとても愉快だ!
ふふ、フフフ、ハーッハッハッハッハッ!!」
「待てー!そこの車、止まれー!」
不意に後ろから声が聞こえてくる。振り返って見ると、城から追ってきた警護兵達が飛んでこちらへ向かってきていた。
「しまった!?奴等をわすれておった!
く、リンベル!我はこの車から降りて奴等の足止めをする!
必ずダンスを連れて帰るのだぞ!?」
「ま、魔王!?ちょっと待って!」
リンベルはハンドルから手を離し、魔王の手を握り締める。
魔王の体に紫電が走るが、今度は痛くなかった。だが代わりに体が少しだけ暖まる感じがした。リンベルは笑みを浮かべる。
「魔力の引き継ぎ方って、こうやるんでしょ?私には魔力がなんなのかさえ良く分からないけど・・・。
私からも言わせてよ。
魔王、貴方も必ず帰りなさいよ!外の世界を支配したいんでしょ!」
「・・・感謝する、リンベル。
この手で必ず、お主の大切な者を掴むのだぞ」
「ええ・・・」
「行くぞ、『悪魔と堕天使の子同盟』魔王、約束の為に戦場に舞い降りる!」
二人は手を離し、魔王は車から飛び降りる。そして片手で魔術を行使し、鏡の盾を出現させその上に乗る。
それに気付いた警備兵達は持っている槍に力を込める。
鏡の盾は後ろ半分に『 If you can dream it, you can do it.(夢見る事が出来れば、それは実現できる)』と書かれたエンジンが出現し、火を噴いて魔王は空を飛ぶ。
「魔術、『ライ・エアー』!!
見るがいい兵士どもよ、我も空を飛べるぞ!ハーッハッハッハッハッ!!」
「ち、門番風情がいきがりやがって・・・!あんなアホ相手にするな!狙いはあのボロクズだ!アイツをぶちのめせ!」
「「「応!!」」」
兵士長の命令に、五十人近い兵士が答える。だがその前に、魔王が立ちはだかる。
「我の後ろを抜けられると思うな、雑兵よ!
我はスーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様だ!!」
「大層な名前付けやがって!
貴様みたいな奴に似合う名前は、裸の王様で充分だ!」
五人の列を作り、警護兵達が槍を構え敵を殺そうと突撃していく。
魔王はニヤリと笑みを浮かべ、二つの鏡の盾を作り上げていく。
「裸か・・・成程、地位も権力もない我には、確かに当てはまる言葉かもしれん。
だが、無ければこれから築き上げれば良いだけの話だ!」
二つの鏡の盾が変形し、両腕に装着されていく。そして魔王の両手に、銀色のボクシンググローブが創造される!
「魔術、『ライ・アーム』!」
「な!?」
「味わうがいい!あらゆる矛を叩き潰す盾『ストロング・キングダム・パンチ』!」
魔王が力強く拳を振りかざし、槍と激突する。だか『反射』の力を備えた拳と衝突し、真後ろに槍が吹き飛んでしまう。そして目を丸くしている警護兵に更なる拳が入り、槍と同じように彼方へ飛んでいく。
警護兵が空になった手と遥か彼方へ飛んでいく槍を交互に見比べながら「え?」と呟き、魔王が繰り出した右ストレートを顔面に受けて、「うぼぉっ」とみっともない声を上げて吹き飛ばされていく。
「フハハハハハハハハハハハ!!
『反射』の魔術を応用したグローブに触れた者は、全て弾かれていくのだ!
枯れ葉の如く吹き飛ぶがいい!」
「くそ、嘘つき魔王め・・・!」
「先ずは奴から仕留めるぞ!」
兵士達が飛び交い、魔王はそれら全てを睨みつけた後、兵達に向かい飛んでいく。
魔王と兵隊の戦いが、今始まった!
「来い!尖兵どもが幾ら集まっても魔王に勝てぬ事を教えてやる!」
一方通行車の中では、リンベルがハンドルを握りしめながら祭壇の向こう側で寝ているダンスを見つめていた。
「ダンス・・・必ず、助けるわ!
クルマ、もっと飛ばして!」
「ラジャー!」
しかし、彼女は気付いていなかった。
いや、車が気付かせないようにしていた。最初の警護兵の攻撃で車体のトランクに槍が刺さっていた。クルマは直ぐに抜いた為に誰にも気付かせなかったが、
その穴はガソリン部分を刺し貫き、どぼどぼと黒い血液を流していたのだ。
車は走る。己が信念の為に、乗車している者の為に力強く走る。
だがそれは同時に、自らの首を締める導火線が着々と出来上がりつつあるという事でもあるという事に、車は気付く事が出来なかった。
続くか?続かないか?
それは車に載っている彼女だけが知っている・・・。
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