真章22~不伝~怪力乱神御伽噺~真実の欠片、ジャベール・ジョブス編

歩き続ける者達~不伝~怪力乱神御伽噺15



ジャベール・ジョブスから、ダンス・ベルガードへ。


我は人だった頃、勇者物語に憧れていた。

 だが憧れの対象は勇者ではなく、魔王だった。

 強大な力を持ち様々な術を操り怪物達を支配し、マントを翻し全てを支配する。

 そして全てがひれ伏す前で声高らかに笑うのだ。


『フハハハハハハハハハハ!!

 我はこの世を果てから果てまで皆々支配し、地の底から天蓋まで力一杯の拳が届く者なり!』


 その言葉に、幼き我は憧れた。

とてもとても憧れた、友情より恋より愛より憎しみより呪いより、ずっとずっと強く憧れた。

 憧れて憧れて憧れ過ぎて、気付けば人間を辞めていた。

 嬉かったぞ、心が震えるほど感動した。

 魔王への永い旅の第一歩を踏み出したんだと思っていた。

 その時の我を見た者は我を悪魔と呼んだから、我は悪魔になれたのだと確信した。

 だが、アタゴリアンは科学に支配され、人外を認めない国。

 我の存在を認めてくれる道理もなく、ただただ忌み嫌われるだけだった。

 その時の我はそれでも良かった。悪魔なら悪魔と仲良くなればいいと、デビルズヘイヴンに嬉々として踏み入れたのだ。

 だが、彼等にも受け入れては貰えなかった。

 『アタゴリアン人など受け入れられぬ。

 たとえその身が悪魔でも人の記憶が有る者は入れない』

あの時の我は悪魔なのだから、どうにか入れてくれないかと何度も何度も懇願した。

 そして、我はこの国の門番としてこの国に立つ事が許されたのだ。

 国の内側を見る事は許されず、迷宮洞窟の入口を訪れる者を撃退するのだけが、我の仕事だった。



~デビルズヘイヴン・牢屋~


「信じられない・・・人から悪魔になる事が出来るなんて・・・何か禁忌を犯したの?」


話を聞いていたリンベルは目を丸くしながら思わず訊ねる。

 ジャベールは首を横に降った。


「我は自らの我が儘の為に罪を犯せる程、驕ってはおらぬよ。

 もし可能性があるならば、神様が我の願いを叶えてくれたのだと思っている」

「か、神様が?」


ジャベールは静かに頷いた。


「我はずっとずっと祈っていたからな。

 魔王に憧れたい、この国を出たい、この退屈な国外の世界を統べて、自由に歩き続けていたいと。

 そんな事ばかり願って、悪巧みの1つも考えてなかったから、神様も我を手助けしてくれたのだろう」

「・・・そう、なんだ・・・」


 リンベルは目を丸くしていたが、意識を牢屋の先に向ける。

 これだけ煩く話をしても看守が来ない、という事は、近くに見張りはいないのかもしれないと期待を抱き始める。

 ジャベールはまた話を始めた。


「何十年そこにいたか分からぬ。

 ただずっとそこで立っている内に、我は自らを魔王と呼ぶようになった。

 当然だ、我がこの国の唯一の入口を守っているのだ、我が一番偉いのだから、王を名乗っても構わないだろう、

 だから我は人としての名を捨て、自らを魔王と呼ぶようになった。

 ・・・それから更に数十年してからだ。

 ダンス・ベルガードに出会ったのは」


ダンス・ベルガード。

 その言葉にリンベルは更に目を見開く。

 そして尚も話を続けようとするジャベールに喰ってかかる。


「ま、待って!

 ダンス!?貴方、ダンスを知っているの?」

「む、まだ話はすんでいない・・・」

「ごめんなさい、でも今はダンスの話を聞きたいの!

 貴方、ダンスが今何処にいるかは知っている!?」


リンベルは檻に顔をぶつけながらも話を聞こうとジャベールに近付く。

 もしここが檻でなければ、その首掴まれていたかもしれない程の気迫で聞いてくる。


「私、ダンスに会いたいの!

 ダンスは『懐かしい友に会ってくる』って言って出掛けたのよ!

 まだ傷が治ってないのに・・・少ししたらすぐ戻るって言って、そしたらラジオで悪魔達がダンスを探してるって聞いたわ!」

「ウシロノとショウメンか・・・」


ジャベールはふ、と双子悪魔を思い出す。

 そう言えば彼等は今何処にいるのだろう、アタゴリアンの侵略に巻き込まれているか一瞬心配したが、直ぐにリンベルに向き直る。


「私は、なんとしてもダンスの無事を確かめたい!ねぇお願い、ダンスが何処にいるか教えて!」


檻をガチャガチャと鳴らしながらリンベルは叫ぶ。もし檻がなければ、ジャベールの体は何度も切り裂かれていたのでは無いだろうか。

ジャベールは逆に心が冷えていくのを感じた。だからこそ、思わず訊ねてしまった。


「・・・知ってどうするのだ・・・。

 もう、地上は壊滅状態だ。生き伸びる望みは少ない。たとえ出会えても、辛い現実が待っているだけ。

 それならここで楽しい昔でも思い出した方が・・・」

「私の過去は死んだわ!」


続き


今度は、ジャベールが目を丸くした。

リンベルは一瞬ハッと気付き檻から離れるが、諦めたようにゆっくりと話し始める。


「私は・・・私は、この国の王、ベルの娘なのよ。ついさっきそれを知ったんだけどね」

「何っ?!

 そ、それはつまりお主の正体はこの国の姫様という事か!?」

「・・・そう、なのかもね。

 でも私は人として育った。そして私が母から聞かされた憧れの、この国を出ても探したいと思っていた父は、人間だったわ。

 嘘を教えられていたの。そしてそれを信じて信じて、ダンスに見えない父の姿を重ねていた」

「ダンス・・・だ、だがお主は父に会えたのだろう、たとえお主が信じた父が嘘だったとしても、受け入れる事は出来るのではないか・・・?」


ジャベールの問いにリンベルは首を横に振った。


「難しいわ・・・。

 少なくとも、あの人を父だと認められる事なんてそんな簡単にはできない・・・」

「リンベル・・・だが、この国はあと少しで滅びるのだ。

 死ぬ後で和解できるかどうかなんて」

「ちょっとまって」


リンベルが顔を青ざめながら手を上げる。


「・・・なんだ?」

「あと少しで滅びるって・・・何?」

「なんだ、知らんのか?

 このデビルズヘイヴンも今日滅びるのだ。ダンスの魂を生け贄に魔神を召喚してな」

「は、はあああああ!?!?

 なにそれ!?

 なんでダンスが生け贄にされなきゃいけないの!?なんでこの国が滅びなきゃいけないわけ!?

 なんで私達はこんなに危機的状況なの!?」


リンベルは青ざめたまま檻をガチャガチャと鳴らす。ジャベールはそれを諌めながら説明しようとする。


「ま、まてまて!今説明するから・・・」

「いいえ、そんな時間無いわ!

 直ぐにでもダンスを助けに行かないと!」

「我等は檻に入ってるのだぞ!?

 ここから出られるわけないだろ!

 ええい落ち着け!!」

「うおー!だせー!

 殴るからだせー!」


リンベルは檻を破壊しようと暴れ始め、ジャベールは隙間から手を伸ばして止めようとする。

 そして互いの手が触れた瞬間、バチッと音が鳴り二人の間で紫電が走る。


「うわっ!?」

「うおおっ!?な、何だ今の雷は?

 む・・・?こ、この感じは!」


ジャベールはゆっくりと檻を掴みギュッと握りしめる。

 バキングシャり、と音を立てて檻は簡単に砕けた。

 もう何度目か分からないが、リンベルは目を丸くしてジャベールの手を凝視する。


「な、何・・・なんでいきなり檻が砕けたの・・・?」

「・・・まさか、いや、そうか。

 そういう事なのか!フハハハハハハハハハハ!!

 リンベル!お主は素晴らしいぞ!何故こんな事を早々に教えてくれなかッたのだ!?」

「え?何、どういう事なの!?」

「お主の体の中には純粋で清らかな魔力が大量に眠っているのだ!

 本来の種族として生きなかった事で本来なら生きてるだけで消費する魔力まで貯められていて・・・簡単に言えば、

 お主は今生きた魔力電池なのだ!

 その体にわずかに触れただけで、魔力が倍化される程にな!」

「で、電池!?」

「ええい時間が惜しい、この檻を壊すぞ!」


バキングシャ、と檻を軽々と破壊するジャベール。その姿は正に悪魔の如く猛々しい存在だった。


「あ、あんた・・・さっきまで檻の中に引きこもりたがってたのになんで・・・」

「フハハハハハハハハハハ!

 それはな、出る手段が無かったからだ!

 今はこんなに力が溢れている!

 何だってやってやるとも!魔王なのだからな!」


魔王は檻の中のリンベルに手を伸ばす。


「我は魔王なり!

 姫様を捕らえ、欲しい者(ダンス)を奪い、外の世界を自由に歩き続ける者なり!

 姫よ、今は我と手を取り、共に欲する者の為に共謀をしようではないか!」

「・・・正直、あんたのテンションの上下は恐いけどさ。

 『共謀』って言葉、気に入ったわ。

 私もムシャクシャしてたのよ。

 いいわ、ダンスを助けて、こんなふざけたお伽噺の世界から抜け出しましょう!」



リンベルもまた、手を伸ばす。

 そして悪魔と堕天使の子は、たった1人の人間の為に国1つを敵に回す覚悟を決めた。



続くか?続かないか?

それは悪魔と堕天使の子同盟だけが知っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る