真章14~不伝~怪力乱神御伽噺~騒ぎ出す有象無象


騒ぎ出す雄鶏から有象無象へ。

諸君!悪魔の存在を許してはならん!絶対に許してはならん!

奴等は狡猾にして残忍!凶悪にして凶暴!奴の周りに吉は無く、凶という言葉を振り撒き続く害悪だ!

我等人間こそが最高の存在である事を奴等の記憶に、心に刻み込ませろ!



〜東の森、コッコの別荘〜


リンベルはエプロンを脱ぐのも忘れ、ラジオ片手に家の外に飛び出していた。

手にしたラジオからは双子悪魔の楽しそうな声が聞こえている。


『ダンスー!早く来いよー!』

『来ないとピストルで放送局爆破しちゃうぞー!』

「なんなのこいつら!

ああもううるさい!」


リンベルはラジオを思い切り地面に叩き付けたい気持ちを抑えながらも、キョロキョロと周囲を伺う。

コッコの別荘は12ある村の一つに存在し、農業を中心に栄えている。

別荘を出ると直ぐ近くに公園があり、子ども達が楽しそうに遊んでいた。


「ダンスは居ない……か」(あいつ、何処に行ったのかしら?

『ちょっと昔の人と話しをしてくる』って言ってさっさと出ていっちゃって。私も連れて行きなさいよ)

『ダンスー!早く来いよー!』

『情報も来てねー!出ないとマソ』


ガシャアアン!!


リンベルは思い切りラジオを地面に叩き付けた。

硬い機材はバラバラに砕け散り、破片が地面に転がる。


「うっさい!

あんた達が何処の誰か知らないけど、渡すわけないじゃない!

ダンスを見つけるのは私なんだから!

他の誰にもダンクを渡したくは……」


リンベルは大声を出しながらラジオを睨み付け……ハッと気付いて公園の方に目を向ける。

びっくりして怯えた目を向ける子ども達の姿がそこにあった。


「あっ……ご、ごめんなさい、悪気はなか」


った、と言い切る前にリンベルの目前を大きな車が通り過ぎる。

しかし、車は急停止しリンベルから少し離れた所で停止したかと思えば、機械的なアナウンスが響いてくる。


『アンゼンチタイ、トウチャクシマシタ。

シャナイセンジョウ、カイシシマス』

「び、びっくりした……全く、危ないじゃない!

後少し歩いていたら怪我してたわよ!」


先ほどの焦りを怒りに変換し、リンベルは一人怒る……があることに気付いた。


(そうだわ、あの車に乗ってダンスを探せばいいのよ!

私の足だけじゃ探せる範囲は限られているもの、それが良いわ)


思い付くが早いか、リンベルは車に向けて駆け出した。車内アナウンスから『センジョウカンリョウ』という声が聞こえてくる。

リンベルは窓にたどり着き、中を覗くと、

そこには何も無かった。新品同様の椅子とハンドルにエアコンしか見えない。


「あれ、中の人いつの間に降りたのかしら?何処にもいない……」

『ハジメマシテ』

「あら、アナウンスから声をかけられたわ」

『ゴジョウシャシタイノデアレバ、ドウゾオノリクダサイ』

「え?良いの?

でも乗ってた人に悪いわよ。

それに私、運転出来ないし……」

『サイショ二ノッタヒトハ、モウコノクルマニノリマセン。

ウンテンハおーとデススミマス、ゴジョウシャクダサイ』

「……分かったわ、それなら乗せて貰うけど……おーとって何?

私、機械に疎くて……」

『おーと、トハジドウウンテンノコデス。アナタノカワリニワタシガウンテンシマス』


機械に疎いリンベルは車に次々と質問し、車は正確にそれに答える。だが以前の人物がどうなったかは答えなかった事に、リンベルは気づかない。


「なるほど。それじゃあ乗せて貰うわ」


リンベルは車のドアを開け、簡単に運転席に乗る。

そしてC・トベ……失礼、シートベルトをしっかり閉めると、エンジンがドルルル、と唸り声をあげる。


『ドコマデイキマスカ?』

「ダンスって人を探しているの。

なるべく急ぎたいんだけど……あ」


そこまで話して、リンベルは気付く。そう言えば自分は免許を持ってない。

あまり車に興味が無かった為良く分からないが、確か免許がなければ違反行為に繋がるのではないか?

そう考えたリンベルは急いで命令を変える。


「ごめん、なるべく安全運転でお願いできる?

警察に見つかると厄介だし」

『リョウカイ、アンゼンカツカクレナガラダンスヲサガシマス。

クルマヨイ二ゴチュウイクダサイ』

「あはは、優しいのね、あなた」

『……ハッシンシマス』


リンベルは笑いかけ、アナウンスは少しだけ遅れてから車を動かす。

車はゆっくりと動き始め、ダンスを探しに出発した。



その頃、放送局前では軍隊達が並んでいた。

手には棍棒を持ち、ジュラルミンの盾を背負っている。

兵士の一人が叫ぶ。


「行くぜお前達!

これは訓練ではない!放送局に潜む悪魔達を、絶対確実に殺すのだ!」

「「「ウオオオオオオ!!」」」


その数、300人。

人質を救出するという気持ちは彼等には無く、彼等には悪魔とその仲間を殺すという殺気しか無かった。



続くか?続かないか?

殺気だった有象無象だけがそれを知っている。

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