真章12~不伝~怪力乱神御伽噺~蛙の子に変えられる~



イドに堕ちた蛙から我々へ。

警告する。ここから先は真実が待っている。光の届かないイドの底に、闇に隠れて渦巻いていた真実が現れる。

恐怖を嫌う者は見てはならぬ。

地獄を恐れる者は知ってはならぬ。

隔離世で蠢き続けた真実という名の怪物が、涎を滴ながら現世に姿を表す。

我々よ、もう逃げられぬ。真実が顔を出した。

我々はもはや真実の顋に飲まれて噛み砕かれるその時を、ただ震えながら待つしかない。

ああ、今私の目の前にその怪物が姿を現した…。




〜イドの洞窟、入り口〜


発掘した物資を運ぶ為の荷車は、大量のスマートフォンと右腕が積み重ねられ、それを青いシートで覆っていた。

発掘部隊隊長フロッグは部下に荷物を落とさないよう厳重に縛り上げてから命令し、去り行く荷車を見届けた後、イドの洞窟にくるりと振り返る。


「やれやれ、きついなぁ」

「右腕が出てくるなんて気持ち悪いですね、しかもあんな大量に…」

「そう言うな。

もしかしたらあれが何か役に立つかもしれないだろ?

俺達はそのもしかしたらの為に生きているんだ、あれがどうなるかは上が決めるさ」

「そうですね……」


部下は不安な気持ちを隠せずに同意する。右腕が必要な時がどんな時か、想像したくなかったからだ。

フロッグ発掘隊は作業を再開し、一同は洞窟の奥へ進む。

先程と同じように右腕が大量に落ちていた。

部下は顔色を青くし、隊長は冷や汗を垂らした。


「本当にこの腕達は何処から来てるんだ?」

「隊長、あああ、あれを」


部下の一人が洞窟の奥を震える指で差す。全員が目を向けると、そこには巨大な機械が設置されていた。機械の前にはいつも通り小さな紙が置かれ、その前には自動扉が設置されていた。


「何だあれは?機械で出来た建物か?」


フロッグは近づき、小さな紙を拾い上げ、目を通す。



名前・複製人間製造器。

用途・貴方の代替物を大量生産する物。


「複製人間製造器…?」


フロッグは首を傾げ、目の前の自動扉に目を向ける。

その瞬間、自動扉が勢い良く開き、灰色の怪物のような物体が現れフロッグを捕まえ、自動扉の中に引きずり込んでしまった。

部下達も様子を見ていたが、あまりにあっという間だった為止める事は出来ず、閉まりきった扉にすがりつくしか出来なかった。


「隊長!隊長!誰かつるはし持って来い!

隊長が閉じ込められた!」

「ま、待て!

機械が…!」

「そんな事知るか!」


隊員がつるはしを持って機械を壊す前に、自動扉が音もなく開きフロッグ隊長が現れた。

部下達はほっと一息を付き、隊長に近寄る。


「隊長、大丈夫でしたか!?」

「……邪魔者、排除」

「え?隊ちょ」


う、と言い切る前に部下の首が吹き飛んだ。

隊長、と呼ばれた男が部下の首を殴り首と胴体を無理矢理引き千切ったのだ。

胴体からは血が吹き出し、まるで噴水のように洞窟を、そして周囲の人間を赤く染める。

染められた部下は初めて、目の前の男に恐怖を覚えた。


「うわああああああああ!!!」


部下の一人が叫び、直ぐに入口に向かって走り出す。

他の仲間も逃げだそうとするが、自動扉の開く音が聞こえて振り返ってしまう。


そこには、何十人の隊長と同じ顔の怪物が蠢いていた。


「うわああああああああ!」



先程より大きく、複数の悲鳴を聞きながら先陣を切って逃げた部下は、助けを求める声を無理矢理振り切って洞窟の外に飛びだす。

洞窟の外には誰もおらず、大型の車が数台駐車されていた。

部下はその中の一つの車に飛び込み、鍵を取り出しエンジンをかける。

ドルルルルル、とエンジンが唸り声を上げた。

部下はハンドルを握りしめながら叫ぶ。


「早く動け……あの怪物が見えなくなる場所まで逃げるんだ!」

『リョウカイ』


誰も居ない筈なのに、車のエンジンから声が聞こえてきた。

部下の血が引いていく。


「え?」

『ハッシンシマス、シナナイデクダサイネ』


全く突然に、車は時速300㎞で走り出す。

さらに悪い事にこの部下はあまりにも急いでいた為に、シートベルトをしていなかった。

ギュオオオ、と急加速する途中で車内でひぎゅ、と小さく悲鳴が聞こえた後、車窓が真っ赤に染まったが車は全くスピードを落とさず、森の中を木々を薙ぎ倒しながら走り抜けていく。

そして超高速でダンスと魔王の目の前を走り抜けていった。


「うわ、なんだ!?」

「鉄の牛が高速で森を壊しながら突き進んで言ったぞ!?

一体何が…」

『テステス、本日は晴天なり!ダンスー聞こえてるー?』


不意にダンスが腰に下げていたラジオから声が聞こえてくる。

その声は魔王にとって聞きなれた声だった。


「この声は、ウシロノとショウメンか!?

あいつら何を…」

『我々は悪魔ウシロノとショウメン!

今放送局を乗っ取らせてもらったぁ!』

「!?」


二人が同時に目を丸くする。


『解放する条件は、ダンス・ベルガードを差し出す事!

そうしなければ、この・・・この・・・あの。

 ウシロノ、これなんだっけ?』

『拳銃よ』

『そうそれ、拳銃で放送局を破壊してやるぞ!』





続くか?続かないか?

それは、双子悪魔だけが知っている…。

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