メリーさんの行方

葉桜色人

第1話 彼女の名前はメリーさん

時代背景は昭和から平成への物語である。僕が彼女の名前を知った時、不思議の国のアリスみたいに迷い込んだと勘違いした。あの物語は懐中時計を手にしたウサギの後を追いかけた少女がワンダーランドへ迷い込んでしまう。僕の場合も似たような出来事に遭遇したのだ。



あれは今から一ヶ月前の出来事だった。僕の仕事は決して人に自慢できるような仕事ではなかった。それでも僕は、この仕事に誇りとやり甲斐を持っていた。例え人から何を思われて、何を言われようが関係はなかった。つまり僕が言いたいのは、強い意志と誇りがあれば道は切り開く。きっとあの人もそんな風に、どこかで思っていたとーー僕は思っていた。



あの人と出会うことは叶わなかったけど、僕はあの人の生き方や強い志しに惹かれた。それまで僕は後ろめたさもあったと思う。高校も行かず、中学を卒業してすぐに働いた。世の中すべてが刺激的で怖さもあったに違いない。あの人はどうだったのだろうか?僕の瞳に映る時代と、あの人の瞳に映る時代も違っていた。不安や怖さとかは同じ比重なんだろうか?



「きっと違ったんじゃない。私は何度かすれ違った程度だったけど、彼女の瞳は死んだように見えなかったわ」



「すごいな……」



僕は手のひらの懐中時計を見つめながら呟いた。まるで懐中時計を彼女に重ね合わせるように……

あの人は時代から時代を変わらず生きた女性。



彼女の名前はメリーさん。



僕が彼女を知ったきっかけは、一つの錆びれた懐中時計から始まった。それは僕の人生させも変えた、大きな大きな出会いだった。

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