第31話 問題

客寄せに必死な訳は、なんら変わらない街並みに安らぎの場所を提供する為である。店には6人のソープ嬢が待機していた。あとから知ったのだけど、今夜は4人のソープ嬢しかいなかった。その理由わけは後日、知ることになる訳だが……。その話しはまた今度語ろうかと思う。とにかく鏡さんの店には6人のソープ嬢。紅一点のソープ嬢が初日に知り合ったユリさん。ショートカットがチャームポイントで、あどけない表情とは反対にスリリングなプレイが得意なソープ嬢だった。二人目はーーと僕が説明できるのはユリさんだけである。正直な話、仕事を始めて数日、僕にとっては仕事をこなすのに精一杯でユリさん意外のソープ嬢と知り合う時間などなかった。


四苦八苦する僕と違って、ヒロさんは着実に客寄せをこなしていた。僕は僕で、ヒロさんの客寄せ術を盗もうと必死に頑張っていた。それでも一人の客も捕まえることができない。平日の客寄せは難しいと前もって言われていたが、いざ客寄せに挑戦してみると、話すことも難しい状態が続いていた。


「馬鹿だな。お前は誰も構わず声をかけるからダメなんだよ。この辺りを歩いているからって、決してヌキに来てる訳じゃないんだよ。相手は人間だ。選ぶんだよ。選んで声をかけろよ!!」


と言われても、実際に道行く男性の心情が読み取れない。山川さんの言葉を思い出してみる。この街に安らぎを求めている人間が大勢いると。それは色んな事情がある人たちの集まりでもあった。ヒロさんはこんな風に教えてくれる。ソープは決して安い遊びじゃない。たった数時間の遊び心と温もりを求める場所なんだと。だったら……



頭の中で、あーでもない。こーでもないと考えている時、ヒロさんから問題を出された。前から歩いて来るのは三人の男性。一人は頭の硬そうなサラリーマン。もう一人は挙動不審な中年男性。最後の一人は、いかにも地元の人間らしいホロ酔いの男性だった。


「お前なら誰に声をかける。先に選ばせてやるから行って来いよ」ヒロさんはそう言うと、僕の肩をポンっと叩いた。


直感的に思ったのは、ホロ酔いのおっさんである。地元の人間っぽいし、酒を飲んだあとに行くかもしれないと思ったからだ。僕の勘ってやつだけど、ここは直感を信じよう。良し悪しは見た目で判断するなと教えられた。それは幼少期から少年期を過ごした施設での教えだった。


だけどそんな僕の人生で培った学びは、決してこの世界では通じないと思い知るのだった。その時、夜の伊勢佐木町の空に灰色の雲はあざ笑うように漂っていた。

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