勿忘草

最愛の彼は私を置いていなくなった。


消えてしまった。


探すことも出来ない。


逢いたくても会えない。


声も聞こえない。


触れられない。


会いたい。


声を聞かせて欲しい。


もう一度抱きしめて欲しい。


無理なことだと思っても願ってしまう。


叶ってはいけないことなのに。


『私、あなたに会えてたくさんの思い出をもらった』


『全部が全部私の大切な思い出』


『私は思い出があればいい』


『私を愛してくれて、見つけてくれて…』


『ありがとう、愛してる』


本当は嫌。


離れたくないし、一人にしないでって叫びたい。


ずっと一緒にいてほしい。


私を離さないでほしい。


でもそれは言っちゃいけない。


彼を縛っちゃいけない。


…身勝手な私を赦して?


目を覚ました時、きっと私はそばにいない。


たくさん泣かせてしまう。


辛い思いをさせてしまう。


ほんとうにごめんね。


私の最後のわがまま聞いてくれる?


『誰かを深く深く愛して』


『たくさん笑って』


『…幸せになって』



「私を忘れないで」




ベットの上で目を覚ました。


横には白衣の人に囲まれた君が横たわっていた。


声もなく、夢の中の君を思い出す。


「私を忘れないで」


かろうじて聞こえた小さな声だった。


「………わすれ…られるわけ…ないだろ?」


あふれる涙はしんしんと真っ白な枕を濡らした。


堪えられない涙が止まらなかった。


最愛の彼女が死んだ。


逢いたくて会えない。


声も聞けない。


触れられない。


温もりと思い出だけを残して。


本当は、寂しがり屋のくせに。


震えていたんじゃないか?


自分のことを後回しにしてしまう君の悪いくせだ。


強がって、抱えて、逝ってしまった。


一人、逝ってしまった。


最後の最後まで俺のことを考えて。


心優しい子。


「君みたいな……子を忘れられるわけ……が無い」


誓うよ。


これから先、君のくれた未来を大切にする。


君を忘れない。


「俺も君を愛してる……愛してるよ」


彼女の顔が笑ったような気がした。


確かめたかったけど


涙で君の顔が見えなくなった。


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