(ホラー)ヒト科ヒト亜族

のーはうず

プロローグ

吉祥寺駅を南に降り雑踏にまぎれ繁華街を抜けると井の頭恩賜公園に出る。

武蔵野台地の終わりにある崖地形はけちであるために水が湧き大きな池を形作っている。

ビルの合間を抜けると突然始まる森はお花見の時期さえ避ければ静かに楽しめる水と緑が豊かな地である。




私は大学に行くためにほぼ毎日この公園を抜ける。


大学はどの駅からも離れた場所にあるため数十分バスに乗るのだが、あまり駅の近くからバスに乗りたくないのである。というのも駅の近辺のバス通りには異様に狭く、警備員がホイッスルを鳴らし通行人を蹴散らしながら進むバスに乗っているのがどことなく申し訳ない気分にさせるからだ。


理由は他にもいくつかあるが、落ち込み不安定になりがちな心理状態を歩くだけで気分転換させてくれるのであれば利用しない手はない。なので今日も園内を数十分と時間をかけて歩いてからバスに乗るのである。



初秋のおだやかな天気。

まだ青いままの葉が何枚か池に落ち、それを餌と間違えた鯉が一度口に入れて吐き出した。

たいした遊具もない公園で遊ぶ子どもたち嬌声、その横で集まって世間話をしているお母さんたちの笑い声。

買い物帰りのカートをおしているおばあさんに、自転車からおりて道をゆずる高校生。

ベンチに座って惣菜パンと缶コーヒをのんでいたサラリーマンは食べ終わりゴミを持ち帰ろうとしていた。

それを見かけた清掃員の老人は、いいよいいよとゴミをうけとる。

ありがとうございますとさげられる頭。


老人は箱型のカートに受け取ったゴミを放り込むと落ち葉掃きにもどる。


老人の後ろで風にまいあげられた包装ビニールが池のなかに落ちた。

少しだけ風がでてきたようだ。

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