第29話 竜の住む山の。村の事情

今着いた村が、クランシュタット領最後の村である。名前はビーアトリスという村だ。人口は300人程と、集落に近いような村である。しかし必要なものなどは一通り揃っているため、今日は滞在をする予定だ。


早速村に入ることにした。今回は前の村と違い、特に門の前で拒絶されることはなかった。寧ろ拒絶されることの方が珍しいのでは無いかと思う。


ちょうど近くにいる村娘に声をかけてみることにする。

「お姉さん。ちょっとお聞きしてもいいでしょうか?」

「えっ、私? あ、旅の人ね。なんですか?」


急に話しかけられたからなのか、少し驚かれたようだ。多分知らない人の声だからだろうな。旅の人とも言われたし。そうと思いたい。話しかけたら驚かれるとか少し悲しい。


「はい、明日あの山を越えようと思うのですが、その前に準備をしたいので、お店や宿の場所を教えて下さい」


「そうねー、商店と宿は村の中心部にあるわ。武器屋はこの近くで歩けばすぐそこにあるけど、時間もあるし一応案内するわ」


「ありがとう。道案内お願いします」


案内の申し出を受け入れ、現在武器屋に来ている。ここで武器を買う事が無いのだが、普段使う武器の定期的な手入れは必要だ。この村では武器のの販売とメンテナンスを両方請け負っている。アドフは普段使いの大剣をメンテナンスに出していた。仕上がりは半日かかるようで、待ち時間の間、宿と商店に案内してもらった。

商店の方は小さく一般日用品しか置いていないが、最低限の物はあるようだった。多少の食料と消耗品を買い込み、宿へと向かった。


歩いて数分で宿に到着し、中に入る。魅了の宿チャーム・インがこの宿の名前だ。正直ネーミングセンスとしてはどうかと思う。一瞬ラブホテルを連想してしまった。


道案内をしてもらった女の子にお礼と、50クランを渡し、宿に入る。案内料を要求されたときは、中々良い性格しているなと不思議と感心してしまった。


「いやっしゃいませ。宿泊のお客様ですか?」

「そうです」


「何泊ご希望ですか」

一泊希望で部屋は相部屋の希望を伝える。


「かしこまりました。それでは前払いでお願い致します。一泊2名様で780クランになります」


カウンターのボードにも価格表が表示されており、1人400クランで相部屋割引が200クランが適用されるようだ。


「夕ご飯と朝ご飯がつきますので、一階の食堂までお越し下さい」

利用時間帯を聞き、お姉さんにお礼を言って、鍵を受け取る。部屋は二階の奥から二番目だ。205と書かれたプレートを確認し、鍵を開ける。


よかった。内装は普通だ。宿の名前からいかがわしい何かを想像してしまったが、幸い現実にはならなかった。心配が杞憂でよかったが、少し見てみたかったような気がした自分を殴ってやりたい。


ここの宿は古いながらもベッドが二つ設置してあり、雑魚寝にはならない。何より屋根のある場所で寝られる事はありがたいことだ。といっても、普段も異空間にベッドを置き、安全に寝ているのだから野宿とは言い難い。今日もベッドは二つあるが、一つしか使わないだろうなと、心の中で惚気てみた。ウザったいですね、すみません。


内装を確認した以外はやることは無いし、時間ももうすぐで日が沈む頃だ。夕食まではまだ一時間は空いている。暇である。ガーディの共は「鍛錬してくる」と言って外へ出てしまった。


「ひ〜ま〜だ〜お〜」


口に出しても効果は無いようだ。寧ろ逆効果である。

暇なので空中に魔法陣を描き出す。

よく使う魔法陣のストックを作ることにした。

それでも20個ほどストックを作った所で飽きてしまった。


「寝よ」


結局寝るのが一番という結果にたどり着いたのだが……。





気がつけば部屋は真っ暗だった。

魔法で小さな灯りを点けると、アドフさんがいた。横になっている事から寝ているのだろうか。


ギュルルと腹の虫がなる

「ご飯食べてなかった」


「ディー、起きたのか」

物音で起きたのかな?そう思うことにする。お腹の音が聞こえて起きたとは…思いたく無い。

返事を返すと

「ディーの分の飯を作り置きしてもらっているから取ってこよう。少し待っててくれ」


部屋から出て行ったアドフさんを見送り、自作の時計を見る。時計の短針は9を指している。そのままの意味で夜9時を回っているらしい。寝すぎたかな?


寝起きであまり回らない頭で考えていると、ドアがノックされる、盆を持ったアドフさんが戻ってきた。


「時間が時間だけに冷めてしまっているが、よかったら食べてくれ」


「ありがとうございます。ご飯も温めるので大丈夫です

文明の賢者に創られし電子の波動】」


1分ほどでホカホカのご飯が出来上がる。こういう生活魔法は便利だ。モデルとなった電化製品を発明した人に感謝である。


暖かいご飯をいただいた所で、明日以降の予定を相談する。


「……という事で、村で近頃ドラゴンが頻繁に現れるので、原因を突き止めて欲しいと依頼を受けた。今は保留だが、あとはディーが判断して欲しい」


保留中という事だが、ほぼ決まったようなものだ。アドフさんに関してもできれば解決したいという思いを感じ取ることができる。物のついでということで受けるだけ受けてみよう。


「わかりました。解決の有無を問わなければ、受けるだけ受けてみましょう」


明日は一度山に向かいドラゴンの動向を観察する事にする。原因がわかれば旅も楽になるかもしれない。依頼失敗の手数料が無い分、気軽に受けることができる。ここは受ける流れだし、妥協できるだろう。


簡単ではあるが、方向性が煮詰まったところで、就寝することになる。やはり目の冴えてしまったガーディは強制睡眠魔法を使い眠りについたが、魔法の余波、もとい持ち越し作用で寝坊をして焦るのはあと十数時間後の話である。

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