第22話 村にいる割に村人の登場がないorz



「ヤバっ、変に飛ばし過ぎた」


ヒューヒューゼーゼーと喘鳴音を鳴らし、呼吸を整えた。喘息疾患は持ってないが、あまりのいたたまれなさと恥ずかしさで全力疾走してしまった。自分でも冷静ではいられなかったので、走る方向は村の外へ向かってであった。よく考えれば、転移テレポートで飛べばよかったと後悔した。着いた先は、村外れの草原である。とりあえず人気の無い所に行きたかったガーディは、誰もいないことにホッとした。


このモヤモヤを解消するには、魔法をぶっ放すのが一番だ。勿論適当にものに当てれば大惨事だが、宇宙に向けて放つ分においては、咎められないだろう。


ここで最適なのは、宇宙に放った時に、チリとして空から舞い降りて来ない、風邪魔法が一番である。早速放つ事にする。ここでは、貫通力があり、周囲に被害を与えない魔法となると、やはり風の最上級【風の精霊風】ウィンドエレメンタルバーストである。精霊風と、言いながらも、貫通鋭い突風が一方向に吹く。その風圧は、鉄なら、木っ端微塵だ。

その魔法を最高練度に凝縮して、放出する。

勿論宇宙に……小さく破壊音が聞こえたきがする。運が悪ければ、小惑星が消えたかも。でも、この世界が無傷なら、大丈夫だ。問題無い。


一発だけだとまだしっくりこないので、あと二、三発撃ち込んだ。集中した疲労と、魔力を消費した疲労感で、胸のモヤモヤはなりを潜めた。そして、きっとアドフは魔力に目覚めたことを自覚するだろう。彼が聞きたそうにすれば、素直に全てを話そう。まだ自分の中では不安はあるが、彼ならば受け入れてくれるだろう。受け入れた時は、アドフと僕は身内同然だ!


魔法を自由に扱える友はこの世界には存在しない。きっと大丈夫。自分が子供の対応をしても彼はいつも大人の対応をしてくれた。これからも彼に甘えてしまうかもしれないけど、暖かく支えてくれる気がする。



草原に来てから二時間近く経った。すでにガーディは魔法を行使することを止め、考え込んでいた。内容は言わずもがな、アドフの事だ。少し離れただけだが、すでに彼に会いたいという感情が頭を支配している。原因は契約だとわかってはいるが、どうにか腑に落ちないし、はたから見ればガーディが彼に呪いをかけたのと同義である。


「やっぱり呪いは駄目だよなぁ」


通常の契約はお互いが了承すれば破棄するのは容易いが、今回の場合は、魔法使い生成マジシャンクリエイト魔法による失敗の産物だからなぁ。解除は難しい、ちょっと魔法をぶっ放してスッキリしたからか、気分自体は重くない。


「さてと、再度宿屋に戻りますか」


歩いて戻るのも少し遠いので、村の入り口まで【転移テレポート】をした。この時ガーディは一つの視線に気がつく事は無かった。


村に戻り、宿屋の入り口付近に着くと、ちょうどアドフも鍛錬から戻った所だった。光る汗が眩しい。謎のエフェクトがかかって、キラキラしている。少女漫画並みにエフェクト効果のせいで、不覚にも胸がドキドキと高鳴る。自分はこうなのだからアドフも勿論そうなんだよなぁ、と思いながら観察するが、彼は少し気まずそうに、でも優しい笑みを浮かべている。そんな顔しても絵になるんだから、ヨーロッパ系外国人もとい異世界人は羨ましいな。これじゃ、自分の方が意識しすぎて翻弄されているみたいだ。それにアドフは今薄着だ。季節的にも冬ではなく、温暖な土地柄もあって、ノースリーブ一枚だ。逞しい腕に目が追ってしまう。


(これって惚れてるの自分だけじゃね?)


なんとも切ないが、自分が一番意識しまくっているのは、自分がよくわかっている。これでアドフが他の人と結婚したらきっと落ち込む。いやもう、異世界に行ったあと、記憶の封印をかけて、記憶喪失になってやる。男前で学があって優しくて強くて気配りができて、逞しい肉体を持っている……。逆に何故未婚なのか疑う。まさか男色家なのか? まぁ、いい、今はこの麗しい筋肉を眺めていよう。眼福眼福。日本では滅多にお目にかかれないからな。細マッチョ?そんなのモヤシだ!

人の事を言えない貧弱な体を持つ異世界トラベラー魔法使いは、アドフに続き宿の自室に戻った。



アドフが水浴びをしている間、ガーディは今後の進路を決めていた。この村の先は二股に分かれており、一つは北方向から西に大きく迂回するコース。こちらは迂回する分に山脈を超える必要もなく、途中途中に宿場町がある。比較的安全なルートだ。途中渓谷があるが、よっぽど注意を怠らない限り落ちる事はない。


もう一つのルートは東寄りに進む道だ。しかし完全には迂回はせず、この山脈を幾つか乗り越える必要がある。その分早く山脈を超える事はできるが、かなり過酷な道になる。それに宿場町も少なく、獣の類も多いため、相当な手練れである必要がある。


今の旅は別に急いではいないが、できればクランシュタット王国領からは出て行きたい。でも別に焦っているわけでもないし、追っ手に追われているわけでもないので、安全に西側の迂回ルートを選ぼうと思う。


アドフが戻ってきてから相談をして、詳しい日程は考えようと思う。

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