ミラクル・マジック・アドベンチャー

なみかわ

第1部 魔神の怨望

遠い思い出

 滝川 隼風たきがわ はやて山根 昇やまね しょう東田 大地とおだ だいちの三人は、夜も更けてひっそりとした住宅街を自転車で走り抜けていた。

「昇、大地、ごめんな。僕のせいで遅くなって――どうしても一つ、わからないのがあってさ」

 隼風は二人に言う。彼らは塾で同じクラスになったのがきっかけで、よく遊ぶようになった。隼風はいつも、数学や理科で解けないところがあると、二人を待たせていた。

「いいさぁ、テストにひっかかって、居残りさせられるオレよりましだよー」

 三人のなかで一番小柄な昇の笑い声が聞こえる。

「あさってが学校の小テスト……ふう、つらいけど、がんばらないと」

 そう言ったのは大地。力も強く大柄な彼は、ぽつりとこぼした。

 三人の間にはちきちきと静かな白転車の音だけが流れていた。しかし、しばらく経った時。

 いきなり隼風がブレーキをかけた。

「あわわ、ぶつかる! おっとと、隼風どうしたんだ?」

「おい、あれ……」

 昇と大地もあわせて、隼風が指差す空を見た。曇っているのに、明るく輝く星……光が、かなりの速さで落ちてゆく。

「今の……河原に、落ちた?」

 大地が目を凝らして言った。

「いん石?! UF0かなっ!」

 昇の声に期待感がまじる。

「行ってみようか」

『おうっ』


 三台の自転車が河原に着いた。さっきの光と同じ色が、淡く輝いていた。大きな音もしなかったので、物が落ちたようには思えなかった。

 三人は忍び足でその光に近づいて行った。腰丈くらいある草の後ろへ回り、そっとそれを覗いてみた。

 光の中には、――人が、いた。


 くせのある金髪で、緑のをした女の人。

 七色の布を軽く巻きつけたような服。

 腰には濃い黄緑や、金の装飾をほどこした太めの帯が巻かれていて、さらに右肩からは銀と桃色に淡く輝く、やわらかそうな羽衣のようなものをかけている。

『きれいだ……』

 三人ともその姿にみとれていた。女は、銀の腕輸をつけている右手を前にさし出し、何かを言った。すると、そこに細長い棒――透明な石がきらめく、銀色の杖が現れた。

『て、手品?!』

 女は再び、別の言葉を言い始める。手元の杖が、七色に輝く。

『すごいや……どうやってんだろ……』

 息を飲む三人。ところが女は、すでに知っているかのように、皮ひもを巻きつけたブーツをこちらに向けた。

『えっ?!』

「……そこにいましたか」


『ばっ、ばれてる!』

 確かに女は「三人に向かって」、喋った。

『逃げるぞ!』

 昇が真っ先に、隼風の首と大地のベルトを引っぱった。ところがほぼ同時に、女は杖の先を三人にたむけた。

『ストップ!』

「え……」


 気付いたときにはもう三人は動けなくなっていた。もがけばもがくほど、体が締めつけられるようで苦しい。

「おとなしくして下さい――あなたたちに、危害を与えるつもりは、ありませんから」

 女はいたって冷静に、三人に話しかける。三人は返事をすることもままならない。

「あなたたちを調べさせてもらいました。

 あなたたちがここへ来たのは、偶然ではありません。能力のある者をこの日この場所に呼び寄せる術に反応した――運命だということがわかりました。

 あなたたちは、……」


 その先の言葉を三人は知らない。

 突然周りが暗闇に包まれ、足元の感覚がなくなり、下から上へ風が突き抜け、ただ落ちてゆくことしかできなかったから。


「ハヤテーっ!」

「ショウーっ!」

「ダイチーっ!」


 互いがそれぞれに名前を呼ぶ声が、風となって上方に消えてゆく。

「この地球せかいを救える能力ちからを持つ少年たちに……魔界空天王、ギルファー=レビンが第二使、サリシュ=ナーシャ、今出会い、そして魔界に送り届けます……」

 三人の姿が完全に消えた後、女も杖からまばゆい光を出し、自分の体を包んで、音もなく消えた。

 河原には何事も無かったように夜風が吹き抜け、草村はざわめき、三台の自転車はただ立ち止まっていた。

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