第10話 風向きの変わる予感編(1)

アヤが派遣社員として入社してから二週間が経った。少しずつ、会社の業務にも慣れていった。この日、仕事が定時に終わり、元気を取り戻しつつあるジュンペイと、そして、ヤナセとアヤの三人は、いつものいきつけの焼き鳥屋へと足を運んだ。



「それでは、これからタカオカさんの『ようこそが社へ』を始める!」



ヤナセはそう言うと、右手で手刀の形を作り、その手をおでこへと近づけ、敬礼けいれいのポーズをとった。



先輩に続き、ジュンペイもまた、椅子に座ったまま敬礼の形を作った。



アヤには、二人の行為が理解出来ないみたいだったが、女のかんで、とりあえず先輩方に合わせて敬礼した。



「ようこそ我が社へ!」



ヤナセが室内全体に響き渡るようなボリュームの声で言った。



「ようこそ我が社へ!」



ジュンペイが後に続く。



「……きっ、来ちゃった我が社へ!」



アヤは、女の勘で二人に合わせた。



「おっ! タカオカさん分かってるねぇ~」



ヤナセは、これが出来て上機嫌といった様子である。



「カンパ~イ!」



ヤナセとアヤはビール、ジュンペイは控えめに林檎りんごジュースからの乾杯で、三人でのうたげは始まった。



「それにしても、二人が中学、高校の頃の同級生だったなんてな。世の中、狭いものだな」



「ホント、そうですよね。2010年は地球が縮んじゃったんですかね」



ジュンペイは、左手でネクタイをゆるめながら言った。



「サクラギくん、この指輪って婚約指輪?」



アヤは、ジュンペイが左手の薬指にはめている指輪を見ながらきいた。



「これ? 結婚指輪。オレ、去年結婚したんだよね」



それをきいたアヤの笑顔が、不自然になった。



「そうなんだ、結婚したんだね」



再び自然な笑顔に戻った。



「おっ、二人は、実はただの同級生じゃないな」



ヤナセは、ちゃかすような感じで言った。



「いやいや、ヤナセさんが思ってるような関係なんかじゃありませんよ」



ジュンペイは、慌てて否定した。



「二人とも、言動が不自然すぎなんだよ。ここでは、隠し事は抜きでいこう。秘密を共有しあうのが『ようこそ我が社へ』のモットーだ」



モットーもなにも、これをやったのは今日が初めてである。



「それにだ。こうやってかくそうとするから、お互い変に意識しあっちゃうんじゃないのか? 変な話しな、会社でもこんな調子が続いたら、まず、女性従業員たちの間で噂になるだろ。それが広がり、やがては会社中の話題のネタになりかねないぞ。昔のことなんだしよ、言ってスッキリして、自然体になったほうがいいんじゃないのか?」



ヤナセは刑事気取りで、二人を真実のある場所へと誘導しようとした。



「まぁ、ヤナセさんの言う通り、昔のことですしね」



ジュンペイは、結局、ヤナセに丸め込まれた形となった。


















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