'elua、エルア。ハワイの言葉で2の意味。

 三月。

 私が引越し先を見つけ賃貸の契約をすると、本格的に、エアレーション、一台の水槽、ポンプ、CO2のボンベ、などが姿を消していった。そしてバラバラに引き裂かれている魂が他の人に見えないのをいい事に行った役場で離婚の手続きをすると、湘くんのほとんどの持ち物が家の中から消えた。そして三月の終わり、「今日からつれの家に居候するから」と言うLINE一つで、二度と湘くんの隣で眠れなくなった。大体。つれの家、というのは何なのだろう。離婚届にサインしてもらった同じ町の元義父の家に荷物を運んでいたのではなかったのか。つれって女か! 居候って、なんだ……。

 アクアリウムの水槽はそのまま、五匹のアフリカンランプアイと数十匹のビーシュリンプとそこにある。湘くんから預かっていた通帳、印鑑、公共料金の領収書、友人が自家焙煎したというコーヒー豆、電気ケトル、いない間に届いた郵便物、などをひとつのショッパーに纏めた。私が仕事でいない間、若くは土日に娘と遊びに行っている間、に取りに来ればいい。

 あと少しの間だけでも同じベッドで眠っていたかった。湘くんがしたいならいつでもセックスしたかった。でも湘くんの気持ちは違った。少しでも早く私の隣で眠るのを止めたかったのだ。

 自営の仕事が忙しい湘くんに代わって退去の立会いをしなければいけなかった。契約者である湘くんに直筆の委任状を書いてもらう必要があった。はっきり書けなかったが、私たちが家に居ない間に寄って、というニュアンスを込めて、引越しの十日後の四月二十九日に立会いをすることと委任状のことをLINEした。ニュアンスを込めるというか願いを込めただけだったかも。湘くんがいつリビングに訪れてもいいように、委任状をテーブルに載せ荷物を詰めたショッパーを下に置いた。

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