第35話 村長みたいです

俺は地下室らしき場所に入った瞬間、何かの気配を感じた。

人間のようで人間ではない気配だ。しかし、周りを見てみても何も見えない。それどころか俺の気配察知には何も反応がない…いったいなんなんだ?

もしかして村長が人体実験でもしてて、その産物がこのフロアを徘徊してたり……ま、まさかね。

まぁ、そんなことを考えていても仕方ない。とりあえず探索するか。


「さぁ、探索するぞ」

「…ん」

「え、ええ」

「まずはすぐ真ん前にある部屋からだな。」


俺はとりあえずそう提案してみた。ここにある部屋を片っ端から見てみてれば、すぐに村長が見つかるかもしれないからな。

そして俺は気配察知を発動させたまま、部屋のドアを開けた。しかし、その部屋の中は書斎のようで、壁一面に本が並べてあった。


「…この部屋は特に怪しい点は見当たらないな。」

「…ん」

「まぁ、その怪しくない点が逆に怪しいんだが…。一先ずこの部屋の探索は終わりだな。」


俺はそう言って部屋から出た。すると、アイラが俺の服の裾を掴んできた。


「どうした?怖いのか??」

「…違う、イズナは?」

「え?イズナなら一緒に居るはずだろう?」


そう言って俺は周りを探してみる…だが、イズナは見当たらなかった。しかも、俺はイズナがいた時から気配察知を発動させていたはずだ。なら、普通はイズナが居なくなった瞬間に俺の気配察知に反応があるはずだ。

これは、ひょっとしたらまずいことになるかもしれない。


「アイラ!俺から離れるなよ!?」

「…ん」


そう言ってアイラは俺の背中に乗ってきた。…ちょっと動きにくいが、可愛いのでまぁいいだろう。

さて、イズナが急に消えたということはこのフロアの何処かに仕掛けがあるはずだ。とりあえず床を確認してみよう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…ツバサ、何か見つかった?」

「いや、何もないな。一体イズナはどこへ行ったんだ?」


イズナが居なくなってからすでに20分ほどが経過していた。だが、一向にイズナの気配はない。それどころか、変な視線を感じるようになってきている。


「アイラ…なんか変な視線を感じないか?」

「…ん、誰か見てる」


しかし、気配を探ってみるが反応はまったくない。もういいや…壁を破壊するか。


『ファイヤーライフル』


俺はファイヤーライフルで壁に穴をあけて視線の元を辿った。

しばらくすると、宮殿の中にあるような大広間にでた。その大広間には十字架があり、そこに誰かが括り付けられていた。


「え?なんでイズナがこんなところにいるんだ?」

「…ツバサ、あそこにいるの、多分魔族」

「マジか、また魔族かよ…」


そう、十字架に張り付けられていたのは、突然いなくなったイズナだった。そして、その十字架の下で腕を組みながら笑っている顔が紫色の男が、俺たちが探していた村長だった。


「村長…なんでこんなことをしたんだ?」


とりあえず、時間稼ぎをしておかなければいけないな。あいつは何かをしようとしている。


「理由?そんなの決まってるじゃないか。邪神様を復活させるんだよ!」

「もしかして、あんたはわざと俺にワイバーンを狩らせたのか?」

「ゲハハッ、気付くのが遅いよツバサ君!あんなに貴重で、人に会うのが嫌いなワイバーンがそう簡単に村にやってくるわけがないじゃないか!!」

「まったく、俺はつくづく運の悪い男だな…。だが、イズナを使ってどうやってその『邪神様』とやらを復活させるんだ?…もしかして、イズナをいけにえにするんじゃないだろうな?」


イズナを助けるための策を練らないとな…。だが、こいつの時間稼ぎも忘れないようにしないと。とりあえずアイラはこっそりワープでこの大広間の近くの部屋に転移させておこう。


「その通りだよ!僕は君みたいに頭の回転が速い人間は嫌いじゃない。だが、この儀式の邪魔をするというのなら、僕は手加減をするわけにはいかないね!!」


ダメだ、もう時間稼ぎは出来そうにないな…こいつを倒す策を練るために、こっそりと鑑定をしておくか。


『鑑定』

------------


カルチ   魔族


LV872

HP 529000/529000

MP 480000/480000

筋力 420000

防御 370000

素早さ 300000


スキル

気配遮断 LV18

身体強化 LV8

魔力操作 LV7

自然治癒 LV15

偽装 LV 10

神速 LV 9


ユニークスキル

邪神復活の儀


称号

ペテン師


加護

邪神の加護


------------


ふむふむ、『邪神復活の儀』は生贄を捧げて邪神を復活させるっていうスキルらしいな。そして『神速』は、目でとらえることが不可能な勢いで移動できるって奴だな。『自然治癒』そのままの意味だな。この『気配遮断』っていうスキルのせいで俺たちがこいつの気配に気づくことが出来なかったんだな…

とりあえず、このステータスだけで、こいつが結構強いってことが分かったな。どうやって倒そう…こいつはレベルの高い自然治癒があるから、そう簡単には死なないだろう。となると、細胞単位で凍らせるくらいか…。ついに俺の新魔法の出番が来るのか。

とりあえず、気付かれないように会話をしながら水魔法の『霧雨』を使うか…


「おい、あんたはなんで俺の嫁を生贄にして邪神を復活させるんだ?別にそこらへんにいる動物でもよかったんじゃないか?」

「だから君はダメなんだよ…僕には分かるんだ!この子の銀色の髪。そして、この牙の形。そして赤い目の色。この全ての点を見て、総合的に判断した結果、この子は16年ほど前に邪神様が勇者に倒される直前に狐族のメスに宿した子供だと分かった。だからこの子は邪神様の生贄となるのに相応しいんだ!!」


「…チッ、こんなクズに目を付けられるなんてイズナは凄い苦労しているんだな。だが、安心しろ。…すぐにこいつをぶっ飛ばしてやるからな!!」


そう言って俺は新魔法を発動させた。


「いくぜ、俺の新魔法『絶対零度』!!」


俺のはなった魔法はパキパキと音を立てながらカルチを凍りつかせていき、そのまま氷の彫刻になる。…はずだった。


「!?」


カルチは自分の体が凍り付く直前に、自分の魔力を勢いよく循環させることによって自分の体が凍るのを防いだようだ。しかも、その魔力を循環させたまま俺に向かって突っ込んできた。


「だから君はダメなんだよ…。こんなんじゃ魔族は倒せないよ!!」


そう言ってカルチは体を前に縦回転させながら、凄まじい速さの踵落としを繰り出してきた。だが、俺はそれをワープを使って回避した。


「なかなか速いじゃねぇか。村長さんよぉ!」

「君もなかなかの反応速度だね。僕のあの蹴りを避けた人間は初めてだよ!」

「そいつはどう…も!」


俺はお返しとばかりに鋭い回し蹴りを浴びせた。だが、カルチはそれを片手で軽々と受け止めた。


「どうしたの?君の力はこんなもんかい?」


あぁ!めちゃくちゃイライラする!!本気を出したいけど、すぐ近くにいるアイラとイズナが心配で全力を出せない!!…そっか!俺をカルチと一緒に外に移動しちゃえばいいんだ!!そうと決まったら、まずはカルチに触れてワープを発動させなきゃな。


「どうしたんだい?もう攻撃は終わりかい?ならこっちからいくよ!!」


俺がそんなことを考えているとは知らずにカルチは俺に向かって突っ込んでくる。そして、俺はわざと右わき腹をフリーにした。

すると、俺のガードが甘くなったと思ったのか、狙い通りにカルチが右足で回し蹴りをしてきた。なので、俺はその足を掴んでワープを発動させた。


「行くぜ!『ワープ』!!」


こうして俺たちは先ほどワイバーンを倒した場所に転移した。

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