第18話 クレアシオン

「あれ? センセは?」


「ん? 電話しに出てったけどその辺にいなかったか?」


「いなかったけどなー。で、使えそうなのあったかや?」


「これなんかどうだ?」


 虎太郎がモニターに映しだしたのは、車輪のないビックスクーターを一回り大きくしたような黒い乗り物だった。そこにはガトリング砲や追尾型ミサイルなどの遠距離用の兵器が。そして近接武器に刃が太めの刀のような剣が二本備え付けられていた。


「「……」」


「え? なにさ」


 さすが姉妹。碧と蒼穹の二人は全く同じ渋い顔をしていた。


「いや、いいだろこれ? 飛べるんだぞ。それに生身で戦うより絶対いいって」


 無言で首を振る二人。虎太郎はがくっと肩を落とした。


「どれどれー」


 モニター周りの三人に覆いかぶさりモニター画像を見るアルメリア。ソニアはそれにそっと続く。

「おお~。かっこいいじゃん普通に! あたしこれがいいんだけど」


「そ、そうだろ?」


 画面に指さしながら飛び跳ねるアルメリア。その反応にまたしても二人に「ええー」と言われる虎太郎だったが、アルメリアの反応が素直に嬉しかった。

 だが互いに笑顔を向けるのはこれが初めてだったため、虎太郎はすぐに顔を逸らしてしまう。まだどうしても〝AZ〟に対しての恐怖心・嫌悪感が抜けない。


「残念ですが、これでは《クレアシオン》が使えません」


 ソニアが一番後ろから発言する。


「そうなのか?」


「実体化できますが動かない――といったほうがいいでしょうか。デザイン自体はよくできています。再現も可能でしょう。ですがこれはあくまで見せ物としての作品。動かすための設計図ではありません」


「ああなるほど、たしかにそうだ。ボディや剣はともかく、これは乗り物も兼ねてる。エンジンとかの動くための仕組み、他の武器の設計はやってない。知識もないからな」


「難しそうかや?」


「いいえ碧さま。半日あればわたしが手直しできると思います」


「本当か?」


「ええ。エンジンやミサイルなどであれば、設計図や材料のデータはそこら中に落ちてます。専門知識をインストールしてしまえばあとはきっと楽ですよ」


 この返答にアルメリアは嬉しさのあまりソニアを抱きしめた。そしてそのまま倒れこむ。


「ありがとソニア。これでコタローたちを守れるよ」


「くすっ。まだお礼は早いですよ」


 敵だった二人がじゃれ合う光景は不思議なものだったが、これが本来のアンドロイドのあるべき姿なのではないか――第四世代のあるべき形ではないかと虎太郎は考えた。

 一体なにを考えて戦闘用のアンドロイドを作ったかは知らない。そもそも製作者の意図は本当に戦わせることだけだったのか――さらに不思議になった。


「ソニアの武器はどうする?」


「わたしはこれがいいです。アルメリアさんが近接、もしくは中距離戦闘であれば、わたしは遠距離から支援しましょう。これも少し弄ればなんとかなりそうです」


 選んだのはこれも虎太郎がデザインだけを追求した武器――巨大なライフルだった。長さが三メートルほどあり、本来のスリムなデザインのライフルとはかけ離れたゴツゴツとした厳ついデザインだ。普通の人間には到底扱えないだろう代物だが、ここにきて扱えそうな者が現れるとは思っていなかった虎太郎は内心喜んでいた。


「じゃあソニアは設計を頼む」


「はい」


「で、俺はなにをしようか――」


 いきなり手持ち無沙汰になった虎太郎は辺りを見回す。しかし今やることは特にないことに気づいた。そしてそれを見ていた碧が呟く。


「こたろー。あんたはアルメリアたんとどっか行って来なさい」


「へ?」


「親睦を深めるべし。少し街でもぶらついてくるといいよ。そうだ、服買ってあげな。いつまでもこのスーツじゃかわいそうでよ。そららんのゲロロン付きのスーツじゃ」


 虎太郎はアルメリアを見た。妹の嘔吐物はともかく、昨日のソニアとの戦闘によってスーツのあちこちが傷んでいる。そもそも外に出る時にこの格好だと周りに目立ちすぎるのは確かだ。


「服、欲しいか?」


「うん! 欲しい!」


「……わかったよ。出かけるか」


 碧は虎太郎に見えないように小さくガッツポーズした。〝AZ〟と二人きりになって出かけるなんて今まで考えられなかったことだ。大きな進歩に喜びが溢れた。


「あー、あとソニアたんのも適当に」


「え、お構いなく碧さまっ」


 ちなみにソニアは雫宅で着ていた服をそのまま着ている。ソニアの分も買ってこいと命じられた虎太郎だが、身長やスリーサイズについてはバッチリと頭に入っているため、あえて聞くことはしない。


「んじゃ行ってくる。なにかあったらすぐに電話くれ」


「りょーかい」

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