第四片 明らかになる真実 7
体調がもどるとすぐに、カリンは桜ヶ丘家をあとにした。
もうすこし休んでいけと、央霞に引き留められたが、敵の家に長居はできないと断った。
互いを尊重しつつも馴れ合うことはしたくない。特に央霞とは、そういう関係でありたいと思う。
胸の内にわだかまっていた迷いも、方針が定まったことでふっきれた――と言うより、最初からすこしも変わっていない。
アルマミトラ、すなわち《欠片の保有者》と戦い、これを滅ぼす。
タイカにいる家族のためという大前提が動かないのであれば、結論も変わりようがないからだ。
ともかくも、自分が覚醒したことを隠したまま、みずきをはじめとする《欠片の保有者》を討つ。
その過程で新たな《保有者》が見つかればこれも討つ。
現段階で、アルマミトラの気配を探知できるのがカリンのみというのは大きなアドバンテージである。
問題は、いったいどれだけの《保有者》を討てば、アルマミトラの復活を止められるのかということだ。
全体の五割程度か? 核となる数人か? まさか全員とは考えたくもないが、ありえないことではない。
弱い生き物の数がやたらと多いのは、大多数の仲間を犠牲にしてでも、その種を繋ぐためである。アルマミトラが己の魂を細かく砕いたのも、そういう狙いがあってのことだろう。
カリンは、央霞から渡された紅玉を見つめた。
もしかしたら、自分でこれを使うことはないかもしれない。
すべての《保有者》を討ち果たすまでに、魂の欠片を取り出す方法でも見つかればいいのだが、そう都合よくいくとは思えない。
いざとなったら、自害するのではなく、誰かに介錯を頼むのもいいかもしれない。そうすれば、その相手にだけは、ずっと自分のことを憶えていてもらえる。
例えば――
真っ先に浮かんだのは、央霞の顔だった。
というか、他の可能性を検討しようとしても、思考が先に進まない。
(なんてこと……)
頬に手をあてると、自分でもびっくりするほど熱かった。
――やはり、そうなのか。
(私は、桜ヶ岡央霞という人間に惹かれている)
きっと。たぶん。ずっと以前から。
気づいたときには、もうどうしようもないほどに。
(でも、ダメ……!)
カリンは激しくかぶりを振った。
忘れなければ。こんな感情、任務遂行の妨げにしかならない。
みずきも言っていたではないか。《欠片の保有者》同士は、いずれ巡り逢うために仕組まれた運命の力によって、相手を好きになってしまうこともあると。
まだ確定したわけではないが、あれほどの強さだ。央霞が《欠片の保有者》である可能性は極めて高い。
ならば、この気持ちはニセモノ。央霞は尊敬すべき敵ではあるが、それ以上の存在ではない。
そんなものに、なってもらっては困るのだ……。
雑念を振り払い、カリンは帰路を急ぐ。
その行く手に、ふわりとひとつの影が降り立った。
「よう。遅かったじゃねえか」
口許に凶暴そうな笑みを張りつかせて、モルガルデンは言った。
「わざわざ出迎え? でも、なんでこんな中途半端なところに」
カリンは、ちりちりと首の後ろの毛が逆立つのを感じた。
ベイタワー美衣浜までは、まだ若干の距離がある。
「いやなに。桜ヶ丘央霞と、ずいぶん長いこと話し込んでたなーと思ってサ」
「まさか……! 覗いてたの?」
「いんや。覗こうと思って子グモを何匹か家の周りに放ってたんだがよう。あの女、家に入る前に全部潰していきやがったんだよ。こう、プチプチってな。まったく、どんだけ勘が鋭いんだって話だぜ」
モルガルデンは忌々しげに吐き捨てた。
カリンは内心ほっとする。では、会話の内容を知られたわけではないのだ。
「よかったなァ、カリンちゃん」
「ひッ」
モルガルデンの顔が目の前に来ていた。
思わず後退った。モルガルデンは、なおも近づいてくる。距離をとろうとしていたら、いつのまにか壁際にまで追いつめられていた。
「聞かれちゃまずいお話だったんだろ?」
「な、なにを言っているの?」
無遠慮にこちらの目を覗き込んでくるモルガルデンから、カリンは顔を背けた。
ハァハァと荒い息が、頬や首筋にかかる。
「なあ、教えてくれよ。いったいなにを話してたんだい? オレたちを裏切って、あいつらにつくって話かい?」
「そんなこと、断じてない!」
カリンは、両手でモルガルデンを押しのけた。
だが、モルガルデンは口の端をさらに吊りあげ、舌なめずりせんばかりの表情になった。
「ずっと怪しいと思ってたんだよナァ。お前さん、《欠片の保有者》の連中や《こっち側》の人間どもに、妙に同情的だしよゥ」
「それがなに? 私は、アビエントラントの騎士の誇りを汚さない戦いを望んでいるだけよ」
「誇りねえ。原住民のひとりも倒せずに、本国に泣いて助けを請うた騎士に、そんなモノがあるのかねえ?」
「貴様……ッ!」
カリンの怒りに反応して《ツバード》が手のひらへと移動した。
「おっ。抜くかい? いいねえ、オレは構わないぜ。そうすりゃアンタを堂々と斬れる」
「正気なの?」
「もちろん。正気も正気よ」
モルガルデンは、猛牛が突進しようとする構えにも似た体勢をとった。
「甲種……! 対人、
巨大なクモの刺青が、モルガルデンの右腕をつたって手のひらに吸い込まれたかと思うと、瞬く間に彼女の背丈ほどもある大剣へと変じた。
押しよせる殺気。カリンは、全身を地面に投げ出すようにして右に跳んだ。
一瞬前まで彼女の立っていた空間を大剣が薙ぎ、うしろの壁に恐竜の爪痕にも似た亀裂を作る。まさか、本当に斬りかかってくるとは。
前転して起きあがる動作の中で、カリンは《ツバード》を剣に変型させた。
「チッ。やる気のねェ型だな」
モルガルデンが舌打ちする。カリンの剣は
「やめろ! 私たちが、なんで戦わなければならない!?」
「そりゃオメェ、裏切り者の始末ってヤツだよ」
喜色に顔を歪めながら、モルガルデンは言った。
「ネタバレしちまうとな、右尾丞相どのの密命を受けてンだよ。カリンちゃん、テメェに怪しい動きがあったら殺せってなァ」
「………」
「おやァ? あんま驚かねえのな」
正直、予想していたことではあった。
異世界への邪神追討の勅命そのものが、邪魔者を遠ざけたいグローリアーナの陰謀ならば、より確実にカリンを消すため、刺客を送り込んでくる可能性は充分考えられる。
「アルメリアもそうなの?」
「どうなんだろうな。最初、援軍にはオレひとりでいくはずだったんだが、直前にアイツが志願してきやがったんだ」
「そう……」
「ま、とにかくそういうことだからよう。とっとと武器の形態を強化して、本気で抵抗してくれよ。じゃねえと――つまらねェからよッ!」
モルガルデンは、空中に×印を刻むように剣をふるった。剣圧が衝撃波を生み、カリンの足許を抉る。
「ぐっ」
腕をあげ、アスファルトの破片から顔を庇う。動きが止まった一瞬を衝き、モルガルデンが一気に距離を詰めてくる。
速度と体重の乗った、大上段からの一撃。カリンはまともに受けず、打ち合わせた刃を斜めにすべらせて軌道を逸らした。
「ほう!」
モルガルデンが嬉しそうに吼える。
「いい加減にしろ! アンタも私とおなじよ。グローリアーナにとって邪魔だから、口実をつけて異世界に送られただけ! 武闘派のアンタが、あの女とソリの合うはずがない。こんなの、流刑地で罪人同士が殺し合うようなものでしょうが!」
「関係ねえ。オレは強い奴と戦えれば、それでいいんだよォ!」
モルガルデンの攻撃は、ひと振りごとに勢いを増していくかのようだった。
「対人、
たまらず、カリンは《ツバード》を、より実戦的な形態に変えた。
日本刀にも似た美しい刃紋と、星を散らしたような細かい模様が浮かんだ剣身は一見華奢だが、ちょっとやそっとでは折れない強靭さを秘めている。
最大の特徴はその切れ味で、風を切る音さえたてず肉に喰い込み、敵を両断しても脂で鈍るということがない。
「へっ。やっとその気に――」
モルガルデンの言葉が終わらぬうちに、逆に懐へ飛び込んだ。
互いに必殺の間合い。だが、リーチが短く小回りが利く分、カリンのほうが速い。
狙うは手首。
(腱を斬って、戦闘力を奪う!)
ところが、カリンの刃が届く寸前、モルガルデンの左手が大剣の柄から離れた。
「なにッ!?」
大砲じみた肘打ちが、カリンの胸に突き刺さる。息もできず、車止めや自転車を薙ぎ倒しながら後方に吹っ飛んだ。
「がはっ」
咳き込むと、口から血が溢れた。鎖骨と、他にも何本かイカれたようだ。しかし、寝ている暇はない。皮膚を鎧に転化。接合部の可動域を制限し、ギプスのように負傷箇所を固定する。
一割減――自身の戦闘力を、カリンはそのように分析した。
本調子でも危険な相手である。ましてやカリンに戦う気はない。己を殺そうとする刺客と判明したとはいえ、モルガルデンは同胞なのだ。
カリンは空中へ跳んだ。両腕から翼を展開。両足と腰の左右に噴出口も形成し、くるりと向きを変える。
「あっ、待てコラ!」
声を無視し、一気に加速する。たちまち、身体の前面に凄まじい圧がきた。
カリンは空気抵抗を減らすため、姿勢を水平に保ち、先端の尖った兜を形成した。
《こちら側》において、もっとも速く飛べる地上の生物は、ツバメという鳥で時速約二百キロ。
降下速度であればハヤブサが三百キロを超えて最速らしいが、おそらくカリンもそこまでなら到達できる。
ただし、身体にかかる負担も相当なもので、はやくもギシギシとあちこちが軋みはじめている。
さすがにもう振りきったか。そう思い、すこし速度を落として後方を確認する。
「な――っ!」
異様な形状をした物体が、おそろしい速度で迫ってきていた。
かたちとしては砲弾だ。
流線型の、黒光りする金属の塊――その下部に、二本の足が生えている。
そんなモノが、飛行するのではなく、まるでカエルのように跳躍を繰り返しながら、明確な意思をもってカリンを追ってくるのだ。
はっきり言って気持ち悪い。
有足の砲弾が地を蹴るたび、道や建物の屋根などが激しく損壊することから、その脚力の凄まじさが窺える。
「まずいッ!」
カリンは再度加速するため、姿勢を元にもどした。
「逃がさねえぜェ!」
頭上からの光がさえぎられ、同時に声が降ってきた。
砲弾側面から数本の腕がのび、カリンを捉える。振り払おうとするが、それよりも速く、砲弾が背中に密着してきた。
「く……ッ」
バランスが崩れ、カリンたちはきりもみ状態で落下をはじめた。
体勢を立て直そうにも、羽交い締めにされて身動きがとれない。さらに、その状態のまま、カリンを捉えていない残りの腕が荒れ狂い、翼に穴をあけ、噴射口を破壊した。
みるみるうちに地面が迫る。カリンは飛行をあきらめ、鎧を繭状に変型させて衝撃に備えた。
轟音――!
繭はひしゃげ、負傷箇所が悲鳴をあげたが、とりあえず命は無事だった。カリンは、ふらつきながら立ちあがる。
草に覆われた斜面と立ち並ぶ木々――美衣浜市郊外の山中か。
白っぽい町並みが、そこからは一望できた。さらにその向こうには、青く輝く海がある。
なかなか悪くないではないか、この世界の景色も――そんな考えが、一瞬だけ脳裏をよぎった。
左から、ミドルキックが飛んできた。
丸太のような脚。とっさに腕をあげてガードしたが、身体ごと持っていかれる。木に激突しなかったら、そのまま斜面を滑落していたことだろう。
「つまらねえ真似しやがって」
砲弾形態を解除したモルガルデンが、足許にペッと唾を吐いた。
「怯える奴を追いまわすのも嫌いじゃあねェが、テメェは戦う力を持ってるだろうが。オラ、構えな! そんでオレと遊ぼうぜェ!」
モルガルデンは、大剣を風車のように振りまわした。
本来、大剣のような長い武器は、障害物の多い場所では不利になるものだが、彼女はまるで意に介していない。
それは、並外れた怪力と速度、さらには武器の重量と切れ味とが相まって、ふれた木はことごとく、藁束のように両断されてしまうからだ。
「対軍、
《ツバード》の剣身が五つにわかれ、それぞれが、真っ赤に燃える鞭へと変ずる。
カリンが腕を振りおろすと、鞭は木々のあいだを縫ってモルガルデンに殺到した。
「ふんッ!」
モルガルデンは剣を振るう手を休めぬまま、すべての攻撃を弾き、逸らし、打ち返した。
カリンは後退しながら、なおも攻撃を続けたが、徐々に距離が詰まってくる。
剣が鼻先をかすめていった。切られた前髪が宙に散らばる。すぐ横の大木がまっぷたつになって倒れる。一瞬前まで身体を預けていた岩に、削岩機で抉られたような大穴があく――まさに息つく暇もない。
暴風雨を思わせるラッシュ。すでに何箇所も、カリンの身体に浅く切り傷がついている。
だが、ふいに、格別太くもない一本の木にぶつかったところで、モルガルデンの剣が止まった。
「なんだ」
モルガルデンは腕をひいたが、鉄の歯にがっちりと銜え込まれてでもいるかのように、びくともしない。
カリンの策であった。
激しい攻防に紛れて火竜舌の一本を木の陰に隠し、剣を受けとめたのだ。
モルガルデンにしてみれば、まさか木を斬れないなどということはあり得ないと思い込んでいるので、かなり意表を衝かれたはずだ。
カリンは、驚愕に歪むモルガルデンの鼻先に左腕を突きつけた。手首から噴出した黒い液体が、彼女の両目にかかる。
「ぐあっ、テメェ!」
その場で踵を返した。
これで、今度こそは逃げられる。
そう思ったカリンは、視界の端に蠢く黒い霧を見た。
(子グモの使い魔!?)
一本の剣から何百何千という数に分裂した使い魔は、瞬く間にカリンの身体の背中側を覆いつくした。
この状態の《ファシュブ》が、三善山茶花を一瞬で倒す光景を、カリンも間近で見ていた。
山茶花とちがって再生能力のない身で、アレを喰らうわけにはいかない。
子グモの牙が肌に突き刺さるより一瞬はやく、全身の皮膚を硬化する。その状態のまま、自らに火竜舌の炎を吹きつけ、子グモの群れを焼き払った。
「野郎ゥゥアアアアァァァァ!!」
山全体をどよもすほどの大音声で、モルガルデンが咆哮した。
次の瞬間――!
衝撃が走り、地面が裏返った。
とっさに翼を展開しようとしたが、間に合わない。
大量の土砂に巻き込まれながら、一瞬カリンの目に映ったモルガルデンは、左手に巨大な鉄槌を持っていた。
彼女は《ファシュブ》の他に二種類の使い魔を持っている。たしかムカデとヒルだったと記憶しているが、そのどちらかを鉄槌に変化させ、力任せに山腹を殴ったのだろう。
硬化した皮膚を繭状にして、その中に閉じ籠もるのが精一杯だった。
土砂とともに流されていた時間はそう長くなかったはずだが、内壁に伝わってくる悪夢のような音と震動は、永遠に止むことはないと錯覚しそうになるほど怖ろしいものだった。
やがてあたりが静かになる。
カリンは、繭から顔を出して周囲を確認した。
どうやら、麓近くの道路に到達したところで土砂の流れは止まったようだ。
上からの殺気を感じ、カリンは後方に跳んだ。
「いい勘してやがる」
モルガルデンは、着地した姿勢から、間髪入れず追いすがってきた。
右手に大剣、左手に鉄槌という二刀流(?)。
どちらも相当に重量のある武器のはずだが、彼女の膂力はそのことをまったく感じさせない。
「丙種――対人、
剣一本では防ぎきれないと判断し、カリンは《ドラード》を片手斧に変化させた。
同時に《ツバード》を、打ち合いに不向きな火竜舌から静颯鋼沙へともどす。
三本の刃と一個の鉄塊が乱舞し、打ち合い、火花を散らしながら互いを削り合った。
一太刀ごとに、カリンの額に脂汗が滲んだ。傷が痛む。固定してあっても、攻撃を受けとめた衝撃が、体力と集中力とを奪ってゆく。
右の手許がわずかに狂った。鉄槌を不充分な体勢で受けてしまったために腕が痺れ、カリンは苦痛に顔を歪める。
この隙をモルガルデンは見逃さず、続く一撃でカリンの手から剣を弾き飛ばした。
「終わりだ!」
モルガルデンが、右手の剣を振りあげる。
「まだだ!
《ドラード》の片手斧が、禍々しい一対の刃を有する長柄の戦斧へと変わる。
新たな形態となった斧は、一方の刃でモルガルデンの剣を防ぎつつ、逆側の刃を腕のようにのばして、がら空きになった脇腹を狙った。使い魔が変じた武器であるから、自らの意思で動くことができるのだ。
モルガルデンは、腋で挟んで刃を止めた。だが、そこまではカリンも織り込み済みである。
要は、動きを一瞬でも止められればいい。
前蹴りを相手の腹部に叩き込み、反動を利用して距離を取った。
「貴様ッッッ!!」
モルガルデンが、唾を飛ばして怒鳴った。
「いまの攻撃、本気ならオレを倒すとまではいかずとも、傷を負わすことぐらいできただろうに……この期に及んで、まだ逃げに徹するつもりかァッ!」
彼女の怒りはもっともだ。
だが、なんと言われようが、カリンに本気で戦う意思はない。
タイカから遠く離れたこの世界で、
「
「ふッッッざけるなァァァァッッッ!!」
モルガルデンが大剣で衝撃波を放つ。カリンはかわそうとするが、土に埋まっていた岩の破片に足をとられた。
鎧が砕け、左肩から右脇腹にかけて血がしぶく。
〈
カリンはがくりと膝をついた。《ドラード》の叫びに応える余裕もない。
大剣を肩に担ぎ、鉄槌をひきずって、モルガルデンがゆっくりと近づいてくる。
歯を喰いしばり、カリンは顔をあげた。
まだ、こんなところで死ぬわけにはいかない……!
そんなカリンを見て、モルガルデンが口角をあげる――が、いきなり後ろを向き、大剣で空中を払った。
響きわたる金属音。
援軍?
いや、ちがう。あれは、さっき落とした《ツバード》だ。
背中の一部だけを触手のように変型させ、その先端の剣でモルガルデンを攻撃したのである。
〈
〈
《ドラード》の声で我に返る。
「だめ……置いてはいけない」
〈なに言ってんの〉〈使い魔のために〉〈騎士が命を捨てるなんて〉〈本末転倒って〉〈モンでしょうが!〉
「でも……」
カリンがなおも迷っているあいだに、《ツバード》は果敢にもモルガルデンに向かっていった。
だが、騎士の手を介さない使い魔だけでの攻撃は、力も技もたかが知れている。
モルガルデンは、攻撃をかわしつつ鼻歌まじりに《ツバード》に近づくと、無造作に鉄槌をひと振りした。
「《ツバード》!」
残ったのは、地面に勢いよく擦りつけられたような血痕だけだった。
「そんな……」
〈しっかり!
《ドラード》に叱咤され、カリンは立ちあがる。
モルガルデンが振り返った。
死が、ふたたび迫ってくる。
カリンは戦斧を地面に振りおろした。
喰い込んだ刃は地中で縦横に広がり、いっせいに土を巻きあげた。
「また目眩ましか。芸がないなあ!」
なんとでも言え。
《ツバード》が繋いでくれた命だ。
足掻いて、足掻いて――
みっともない姿を晒そうとも、最後には逃げきってみせる。
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