アンドロイドとアトランティスの秘宝

青出インディゴ

そもそもの始まり

 十年前。大陸魔法国家アトランティス、水晶の谷。

 ひとりの男が転がるように駆けてくる。突然、背後で巨大な炎が立ち昇った。水晶柱の上で羽を休めていた数羽の鳥があわてて飛び立った。男は火の手が襲いかかって悲鳴をあげ、すんでのところで水晶柱のかげに隠れてやりすごす。あたりの空間が強烈な閃光に照らされる。炎があがったのは一瞬で、すぐに幻のようにかき消えた。谷に静寂が戻った。鳥の残していった白い羽毛が舞っている。

 男は柱に背を預けながら息を切らして様子をうかがっていたが、攻撃がやんだことを確認すると、勢いづいて悪態をつきはじめた。

「そっちがそうくるなら、破門で結構! あんたみたいな頑固親父には永久にわからんだろうよ。ぼくはぼくの道を行く。今に見てろよ!」

 まだ若いその男は、古代ギリシア風の白い亜麻の衣に身を包み、皮のサンダルを履いている。黒っぽい髪で、手足はひょろひょろと細長い。

 彼はちょうど目の前に落ちてきた一枚の羽毛を手のひらで受けとめると、それに向かって魔法の呪文を唱えはじめた。

「羽よ、シルフの賜物よ、パラケルススの名において命ずる。元素を維持し、具象を組み換え、空飛ぶ獣となれ」

 とたん、羽毛が乳白色の輝くもやで包まれたかと思うと、次の瞬間にはそのもやが数倍にふくれあがった。もやが消えると、一頭の白馬が出現していた。白馬の背中には巨大な翼が生えていて、揺り動かすたびに風が巻き起こる。ペガサスである。

 男は慣れた動作でペガサスにまたがり、馬の首筋をたたいて合図した。ペガサスはいなないて前足をあげ直立し、あっという間に空に飛び立った。

 見る見るうちに水晶の谷が小さくなり、細い光の帯となる。

「これでさよならだ、アトランティス。いい夢を!」

 男は叫び、ペガサスは彼方へ飛び去った。

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