妖精の仕立て屋

@manaka

第1話

目を凝らすとほんのりと桃色がかり、薄く透ける銀花布ぎんかふ

それを幾重にも重ねたスカートは、光を含み、床まで優雅なドレープを描き裾を広げている。


オーバードレスは、目を凝らすと花咲き乱れる紫陽花園を描く、細かな網目のレース。

アンダードレスと対照的に、こちらは角度によって水色にも淡紫にも見える糸で編み上げられている。


サッシュは新緑の緑。柔らかくふわりとした素材のそれは、後ろで大きく蝶結びにされ、端は蔦のようにひらひらと垂れている。


胴衣はサッシュと同じ色の布で、背中で編み上げる仕立て。一面に銀糸で、こちらも咲き乱れる紫陽花が細かくびっしりと縫い取られている。


優雅な手つきでスカートを抑えているマネキンは、目を凝らさなければ造花とわからないほど精緻に作られた、紫陽花の花冠を被っている。


耳や首、腕には、薄紫と淡い桃色の石をちりばめた水晶のアクセサリーが、露のようにきらめいた。


昨夜仕上がり、今朝早く、まだ人通りがないうちにショウウインドウへ飾られたそれは、それほど多くない、店の前を通る人ほとんどの足を止めた。

紫陽花の化身を思わせる、王族が纏ってもおかしくないような出来のドレス、一体値はいくらになるのか…そんな下世話なことを考える者もいるにはいたが、多くは誇らしげなマネキンに釘付けとなり、美しい衣装に感嘆のため息を漏らした。


店構えは小さいながらも綺麗に整っているが、煌びやかな大手の仕立屋クリエに比べれば地味で目立たない。

そんな店に飾られている、美しいドレスに、今は使えるものも限られる「魔法」のようなものを感じたものもいたとかいなかったとか。


これは、妖精の国にある、小さな仕立屋の物語。

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