第6話 温かい場所

━━リーゼロッテがローゼリアを必死に気遣いながら帰還した。そんな彼女たちを待っていたのは……━━


入り口でソワソワする、巨漢。


「あ、お父さん……」


二人に気がつくと、ドカドカ走りよってくる。そして、痛いくらい抱き締められた。


「…お父様、もげる」


言い方がストレート過ぎる。あれだけ乱闘をしておいて、"もげる"はないだろう。


「心配したんだぞ!よかった!生きて帰ってきてくれて!」


何も知らないのだろうか?随分とゆっくり帰ってきたというのに。


「……加齢臭嫌いだけど、お父さんの臭いはきらいじゃないわ」


「え?!父さん、加齢臭酷いのか?!」


二人はクスクス笑い、お父さんは困った顔をする。お父さんの大きな声で、お母さんが顔を出す。……何だか、普通の家庭に帰ってきたようなニュアンスだが、帰宅場所は宿屋だ。


「ちょっとあなた!教えてって言ったじゃない!リーゼ!ローゼ!おかえり!早く中にお入り!」


◯●◯●◯●◯


あの状態のローゼが次戦に出られたかと言うと、が正しい。と言うのも、ローゼリアのただならぬ気迫で観客がもぬけの殻。更に覇者が負けたとなれば、シャッフルを余儀なくされる。

しかし、観客がいないなら、金も搾り取れない。 コロッセオを直さないだけあって、あっという間にお開きになった。



お母さんに促され、恐る恐る入っていく。二人を待っていたのは……………………………。



こんなに街に人がいたのかと思うくらい、酒場の中に人が溢れていた。二人が入って来たのを見て、口々に叫ぶ。


「嬢ちゃん!すげぇな!あのジャービルを倒しちまったって!?」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


……二人は固まった。一人一人、口々に言うものだから、誰が何を言っているのかわからない。


━━━パンパン!!!


手を勢いよく叩く音に、皆が静まる。


「一気にしゃべったら、"娘"たちがびっくりするじゃないの!」


……ローゼリアは追われるかもしれないと思っていた。あんな姿をみて、怖がらないはずがない。皆、散り散りに逃げていったのだから。


お母さんは教えてくれた。


観客だった人たちは、確かに恐怖で逃げ出したと言う。しかし、闘技場から出て、皆立ち止まった。果たして彼女は、我々を襲うのだろうかと。

ペアを組んでいた少女は明らかに人間(ハーフとは知らない)の少女だった。あの死喰腐鬼グールの少女は、人間の少女を守るために暴走した。

あのような場所にくるような死喰腐鬼グールは普通、人間を守るどころか殺して食べてしまうはずではないか。

あのジャービルに臆せず対峙する彼女に、少なからず驚嘆した。誰もが恐れる男に、あんなにもはっきりと言い返し、最後には勝利したのだ。そんな少女を非難することなど出来ようか。暴走するまで、誰もが。あまりにもキレイで、気高くさえ感じた。そんな彼女に期待を抱いていたじゃないか。逃げ出した自分たちは、なんて酷い仕打ちをしたのだろうと。命懸けで正体を晒した彼女を、ペアのか弱い少女だけに任せてしまった。後悔しているだけでは、報いられない。

衣服からこのギルドを目指し、皆で出迎えようと集まったのだと言う。彼女を称えるために……。


「……なんて、なんて愚かな人間なの?もしかしたら、あたしに食べられてしまうかもしれないのに……。バカだわ、救い様のないバカよ。……死にたがったって、


……ローゼリアは泣いていた。到底、受け入れてもらえるはずがないと思っていたから。もしものときは、リーゼロッテを抱えて逃避しようと考えていた。自分たちを知らない国まで。体が崩れたっていい。リーゼロッテを守り抜くためならばなんだってしてやる。

そう、考えていたのに。この街の人は、なんて愚かしいほどに暖かいのだろう……。


……リーゼロッテは知っていた。ローゼリアが、本当はすごく優しい女の子で、すごく淋しがりな女の子だということを。憎まれ口を叩いてはいても、本当は嬉しかったことを。初めて笑いかけてくれた笑顔が、とても優しかったから……。

ローゼリアにどれだけ、助けられたかわからない。今までも、これからも、ずっと一緒にいたいと願わずにいられない。



「…なぁ、帽子屋、3月ウサギ。やっぱり俺、アイツらとパーティ組みたい」


返事の代わりに、二人はアリスの頭を乱暴になぜた。

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