6月9日 小気味良い話

 ちょっと気分が良いときって、驚くほど仕事がはかどるものね。


 なーんていう文章を、まさかこの日記に書ける日が来ようとは!


 そうね。でも、本当にそうだったんだもの。

 今日は小気味良いことがあって……。


 どうしよう!眠れない!

 もう、ベッドの上でひそかにほくそ笑むのがやめられなーい!


 だって、あのレジーナがすっかり大人しくなってたんだもの!わたしを槍玉化する元気もないくらいに。


 というのも、件の6月6日、仲間を見捨てて一人だけ逃げ出そうとしたみたいで、「ユービリア城の宮廷女中たる心得がまるでなってない」って、珍しく女補に叱られたんだって。

 

 で、次の休日、ジャガイモの皮むきを命じられたとか。 


 あららー。なんて悲惨なのかしら!


 ジャガイモの皮むき、本当は得意分野だから手伝ってあげたいとこだけど、一人でやりなさいって言われたみたいだから、ダメだよねー。

 

 それにわたし、悪女だし?ダメだよねー。なんたって悪女だもん。他ならぬレジーナ嬢にそう言われてしまったんだし。悪女なんかに、手助けされたくないでしょうしねー。

 

 でも痛快!ほーっほほほ!


 哀れなでみじめで資産のない丸鼻の愚か者をイジメるから、そーいうことになるのよ――!!


 ダメダメ。他人の不幸を笑うなんて、超極悪じゃないの。仮にも将来心清らかな修道女になることを目指してる者が……。


 でも、まだ修道女になったわけじゃないし。


 それに修道女だって、いつも心清らかでいるはずがないもの。意地悪な相手が叱られてたら、ベールの下でにやってするに決まってるわよ。


 ん―――!ユービリア城に来てからというもの、こんなにも小気味良いことがあったかしら。


 そうよ。小気味良いどころか、素晴らしい一日だった。


 もしかするとわたしは今日、ユービリア国一の幸せな宮廷女中だったかもしれない。


〈コレット=マリーの驚くほどすばらしい出来事一覧〉

・早番なのに寝坊しなかった

・女中補佐に一度も遭遇しなかった

・水汲みのとき中庭を横切っていたらロラン隊長に出会い、とてもさわやかな笑顔で「おはよう、コレット」と声をかけてくれた(※ロラン隊長はさすがとしかいいようがない。渾身の体当たりをかまされたことなんか一度もなかったみたいに、わたしに接してくれるもの。不名誉なうわさを笑い話にして反省の色をいっさい見せなかった誰かさんとは大違い)

・一緒に大広間の床を磨いていた宮廷女中の子(名前はカーラ!)と、女補がいかに融通が利かなくて目ざとくて手厳しいかについて、十分ほど楽しく愚痴を言い合うことができた

・食堂に顔を出したとき、ニーノがこっそり甘菓子をおすそわけしてくれた

・針仕事で寝椅子用のビロードの破れたクッションを縫い合わせていたとき、初めて三回目で玉結びを成功させることができた

・意地悪レジーナが叱られてしょげていた


 うっ……一覧にしてみると、ちょっと怖くなってきた。

 大丈夫かしら。一日にこんな、七つもいいことがあるなんて。


 ものすごく悪い出来事が起こる前触れかも。


 そう思って、ベルシーがいつ不吉なこと言い出すかとドキドキしてたけど……彼女、もう寝ちゃってるみたい。

 

 ということは、わたしは今日、無事に、本当にすばらしい一日を過ごしたということになる。


 やったー!神様、ありがとうー!


 わたし、明日もとってもがんばれそう。そうよ。前向きでいたら、きっと良いことがあるはず。


〈今日の小気味良かった話〉

 レジーナが叱られて、休日返上でジャガイモの皮むきを命じられていた。

 やーい!

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