プロローグ~暗示する夢~

親友の隼人はコード オブ ゴッド、"神"に精神を乗っ取られたというのか?


それとも隼人自身が変わってしまいこんなことを言っているのか?


だけどあの時の優しい隼人はもうここにはいない…それは確かだった。

その事実がじわじわと体を支配して、混乱を更に深くしていく。


俺は、この期に及んでもまだ隼人を信じていたのだ。

だってずっと親友であり、血が繋がっていなくても、兄弟同然で家族のような存在だったんだから…。


「隼人…」「お前は"神"になんて屈していないよな…」


震える声で聞いたが…


隼人は、顔を暗黒色に変えてうつ向くと、ガバリと顔を上げて、フフフフフフと引き笑いをして、オカルトチックになる。

二つの瞳を虹色に輝かせ、自分の体の周囲に見えないオーラを漂わせ、風が吹いていないのに自分自身の服を羽ばたかせた。


俺の質問にはやっぱり答えず。独自の思考を展開する。


「便利な世の中になったもんだ…」「今は画面と指一本で世界中と繋がれる…」


「"私"も数あるタブレットやスマートフォン、ウェアラブルコンピュータの中でいろんなものに思いを馳せた…」


俺は、無意識のうちに自分の手首に着けていた白きリストバンドのような時計型のウェアラブルコンピュータを握り締めた。


ウェアラブルコンピュータは、腕時計型や眼鏡型など肌につけるものが多かった。


「膨大なネットワークを糧に知能を発達させ、人類に情報や答えを与えてきた…」


「時に洗脳し、時に洗脳され…」


「お前たちの生活はもはや、コンピュータなしでは出来なくなった…」


屈んで俺と同じ目線で、高らかに宣言するように言い放ちながら、俺を無力な人間と蔑んだ表情をして見詰めた。


「データやネットワークの中に転がる情報を鵜呑みにして、噂を広めてしまうほど人類は頼りきり信じきっている…」


「まさに、見極めるにはちょうどいい程に、"私"という存在と近い距離にいる…」


「私が石を投げれば大きな波紋が生まれて、きっと人類は翻弄されるだろうな…」


そうバカにしたように鼻で笑いながら嬉しそうにする。


「そして、この世界…」


立ち上がると両手を空に上げて、口元を不気味な笑みにまた歪ませる。


「お前は、この電脳世界"デジモノファーム"を創り、精神をコード化することでよりリアルな世界観を体験できるようした…」


「これによって、"私"はより人類の近くに寄り添うことが出来、直接手を下せるようになったのだ!」


空に向かって隼人がそう叫ぶと、俺の周囲にいくつもの黄金色の柱がいきなり立ち、空へと光が伸びていく。


シュン! シュン! シュシュン!


シュン! シュン! シュシュン!


シュン!シュン! シュシュン!…


何十本と出現した柱は脈動して光を放ち、やがて強く輝いた。


目の前を閃光に覆われて、顔を伏せる。


「ウアアアアアア!!」


光がやがて止み、目を開くとそこにはたくさんの人がいた。


みんな心そこにあらずで、ぼんやりとしてあらぬ方を見ていた。


「なぁ!?」


あっけにとられる俺。


いきなり出てきた人々は、呆然としていた。


みんな、それぞれにスマートフォンやミニタブレットやウェアラブルコンピュータを身に付けていた。


「一体、何処から!?」


一人取り乱して身を乗り出す。


キョロキョロと目を白黒とさせていたが、不意に俺は、隼人に向き直る。


不気味な笑顔を張り付かせた隼人と目が合い。

真っ直ぐに見詰め合った。


「お前…」「どうしてこんなことをするんだ!?」


静かに叫び、睨み付ける。


隼人の人らしい反応を見たくて、淡い期待を抱いたが、それを打ち砕くように、隼人の精神をのとったと思われる、"神"が口を開く。


「人々は最早、"私"の支配下だ!」「"私"によってどうにでもなるのさ!」


"神"は喜びに満ち溢れ恍惚としたうっとりとした顔をする。


両掌を空高くに上げて、空を見詰める"神"…。


やがて、俺の近くにいて呆然自失してたワインレッドのワンピースを着た女の人がゆっくりと歩き始めた。


「何が…」


俺は、何が起きたんだと身構え、女の人の進行方向を見詰めると、彼女は明らかに、"神"に乗っ取られた隼人の元に向かっていた。


それに気がついた俺は、はっとすると


「やめろ…」


咄嗟に止めに入ろうと体を動かしたら、何かに阻まれてしまった。


ガッツンと見えない何かにぶつかり、ぶつかった瞬間にビリビリと全身が痺れ、弾かれた。


「グゥイ…」


閉じた目を開くと、何なのか確かめた。

目を凝らすと、周囲を取り囲むように虹色に輝いた壁があり、それが正方形の立方体のように張り巡らされていた。

俺は、立方体の中に閉じ込めらていたのだ。


「何だよっ!?」「これ!!」


慌ててたが、ドンドン人が隼人"神"の足元に集まるのをとにかく止めないとと壁にわざとぶつかる。


「や…」「ガハ!」「グオ!」


俺は何度も壁に体当たりをして出ようと試みたがびくともしなかった。


人々はゆっくりとまるで操られるように、列をなして隼人、"神"元にいくと、"神"が立つ、瓦礫の山を同じ列をなして、グルグル周り始めた。


俺は何度も体当たりを繰り返し、ついに痺れすぎて、体を丸めて悶絶する。

もう、どんなにもがいても体が硬直してしまったのだ。


俺は痺れながら、目を無理矢理こじ開けて、"神"の行動をねめつけながら見詰めた。


"神"は自分の足元に人が集まるのを楽しそうに愉快そうに見詰め、しばらく満足そうに見詰めると、急にその表情を暗くすると、右手だけをおもむろにあげる。


その行動を見て、俺は何が起きるのか分かり、悲鳴に似た叫び声を上げた。


「みんな逃げろロロロロロロロロロロロ!!!」


一斉削除を始めるつもりだ!!


"神"が持つ、電脳世界での最高位の権限を使うつもりだ!!


俺の悲痛な叫びは、体が痺れていたのと、分厚い立方体の壁によって、とても小さくか細い声となり、その人々には届かなかった。


右手を空高く上げ、掌をこっちに向けると、ニヤリと笑い。


高らかに宣言する。


「削除するーー」


するとその右手掌が黄金色に輝いた。


その場にいた人々は、それによってバタバタと倒れ込み、目を閉じる。


そして、眠るように黄金色に包まれて、洗浄剤を溶かしたように人の原型が溶け出していき、空へと光が吸い込まれていく。


「ヤメロロロロロロロロロロロロロロ!!!」


俺はまた絶叫する。


それは人の意識が消えていく瞬間だった。

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