中学生3

新しい楽器が届いた。

ファゴットは好きではないけれど、やっぱりわくわくする。

しかし先輩に、

「楽器慣らさないといけないから、これからしばらく君の楽器使わせてもらうね。」

と楽器を奪われてしまった。

「えっ?なんでですか?」

「は?聞いてなかったの?」

「いえ…」

「じゃあわかるよね。」

古い楽器を渡され、私は口角のあがっている先輩をみていた。

わたしは気づいた。

またこれだ。

他人の視界をみているみたい。

わたしはここにいるけど、自分じゃないみたい。

いつもの景色にもどさなきゃ。

どくどくと心臓がうごいている。

どうしたらいいの?どうしたらもとにもどる?。

はやくもどれ、もどれ、もどれ。


先生が言った。

「あれ、なんで後輩の楽器使ってんの」

これで先輩は「後輩の楽器を奪うな」とおこられて、私は楽器を返してもらえる、かもしれない。しかし、

「そうだな、楽器でかいから先輩が慣らした方がいいな。おまえ、気がまわるな。」

先輩は責められるどころか褒められた。

私の楽器なのに。


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