二十一 変貌

 発明家プリンプリン博士が部下に加わったのと同じ頃、王都ではアダムを捕らえるための縄がちょうど完成したところであった。

「うむ、太くて長くて立派な縄じゃ。これならアダムとやらを引っ捕らえることができるに違いないぞ」

 しかし下請けの悲しさよ、その配下の男はアダムという名前しか聞かされておらず、要望や年齢さえも知らなかったので、仕方なく国の大通りに出て、メガホンを持って「アダムとかいう者は女王様のもとへ出頭せよ」「アダムとやら、女王がお呼びであるぞ」と叫びながら練り歩き始めた。

 配下の男が大声を張り上げている頃、王城の大広間は痛いほどの沈黙に覆われていた。十日間経ってもアダムが捕まらないので、女王は大臣を呼びつけて詰問していたのである。女王の剣幕は凄まじく、その場にいる全員がはっきりと女王の頭上に怒りの炎を幻視した。それは天まで届くかに思われた。

「どうなっている。知らぬとは言わせぬぞ」

 恐ろしさの余り、その声を聞いた奴隷のうち二人が失神し、三人が失禁し、一人が失明した。

 大臣は配下の者を呼びつけて詰問し、責任をなすりつけようとしたが、配下の者はアダムを探しに旅立った後であった。逃げ場のなくなった大臣は仕方なくこう述べた。

「追っ手はたった今出発いたしました」

 怒り狂った女王は大臣にこう命じた。

「一刻も早くアダムを連れてこい、三日以内に連れてこれなければ一日遅れるたびに貴様の髭を十本ずつ引っこ抜いていくぞ」

「は、はい、かしこまりました」

 大臣は顔を真っ青にして大広間から駆け出し、配下の者に電話をかけた。

「はい、もしもし」

「もしもし、お前か。女王は一刻も早くアダムを連れてこいとの仰せだ」

「そうは仰いましても、アダムとやらがどこにいるのか皆目見当も付かず」

「待て、お主はどうやって探しているのだ」

「国中を『アダムとやら、女王がお呼びであるぞ』と叫んで回っておりますが、それが何か」

「この馬鹿」

 大臣はがちゃん、と電話を切ってしまった。

「斯くなる上は、やや卑怯だが王国軍の兵士たちを使うしかあるまいぞ。そもそも下請けに出したのが間違いだったのだ。縄なら王城の倉庫に山ほどあるのに縄作りで十日間も無駄にするとは、到底考えられぬ馬鹿どもよ」

 大臣は王国軍の元帥を呼び出した。

「何か御用か」

「うむ。女王の尋ね人である。高速道路からバイパス、環状線に至るまで国中の道に検問を設けてアダムという若者を見つけ出せ」

「承知した」

 元帥は、軍隊を動かして検問を設置するために森まで木材を調達しに行かせた。三日後、木材の調達が完了し、今度は検問所の設計と組み立てに移った。これには一週間の時間を要し、どこに置いても恥ずかしくないほどの立派な検問所が出来上がったが、残念ながら完成した検問所をそのまま運ぶには人手が足りず、もう一度解体して百数箇所ある所定の場所まで運び、そこでまた組み直すこととなった。

 その報告を受けた大臣はすでに七十本の髭を引っこ抜かれていたが、どう見積もってもあと一週間は引き抜かれ続けることを悟り、髭を引き抜かれる恐ろしさの余りガタガタ震え始め、大臣の震えは王城全体そして王都の地盤に伝わってとうとう王都に震度5の地震が発生した。

 この地震によってシャンデリアが落下して女王を押し潰してしまったが、怒りに燃える女王がその程度で死ぬはずもなく、シャンデリアの下からぎゃおうと一声叫んで復活してシャンデリアを持ち上げ、そこにいた奴隷に投げつけたため、哀れな奴隷はシャンデリアと共に窓を突き破って墜死した。シャンデリアの下から復活した女王の目は爛々と輝き、爪は鋭く尖って曲がり、振り乱した髪の間からねじくれた角が二本にょきりと生え、生前の美貌は跡形もなく、ここに女王は人間であることをやめ、新たに怪物的な怪物として生まれ変わった。

 王都に激震が走っている間にもアダムとイヴは国中を駆け回り、そしてとうとう十日間で四十五人の部下を得た。アダムとイヴ、そしてアイスィンクソウの駆除に精を出すアンポンタンを入れて合計五十人、これが近い将来ガニマタ王国の中心的人物となる猛者どもばかりである。実はその中に私ウッカ・リーも含まれており、ここでようやく著者が登場する。

「さあ、新しい国を作るのに必要な人材は揃った」

「ええ、あなたの王としての仕事が始まりますね」

 アダムとイヴはツギハギ邸に戻り、集まった部下たちは雁首そろえてアダムとイヴの前に鎮座した。

「さて」とアダムが呼びかける。

「ここに集まっていただいたのは微分者に積分者、発明家、政治家、修行僧、武闘家、歴史家(これが私だ)、その他様々な職業にて一線で活躍している者ばかりである。まずは私の部下となってくれたことに礼を言おう。私アダムは必ずや王となる。しかし、私の国を作り上げていくのに、私一人では何もできぬ。お主たちの力が必要不可欠となるだろう。私についてきてくれるか」

 うおうという歓声が上がった。

「新しき王国の地は、すでに決めてある。それは北の果て」

 驚きの声が上がった。最北端の国、デップリ王国よりさらに北。そこは前人未到の地であり、未だ嘗て誰も足を踏み入れたことのない場所。

「そう、北の果てだ。そこに我らが王国を築く」

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