1-7

 夢なんて何も見なかった。

 ハッと気がついたら、なぜか自室のベッドに横になっていた。テレビの音がする。例のごとく、レイが座椅子に腰かけテレビを見ていた。

 レイがここまで運んでくれたんだろうか。

 レイはテレビに夢中で、私が起きたことに気づいていないようだ。机の方に目をやったら、スケッチブックが燃やされずに置いてあった。

「あ、起きた?」

 レイが首をこちらに向けた。

「……運んでくれたの?」

「まぁ俺、前世では看護師だったから」

 お前はどんだけ生まれ変わってるんだ。

 横になったまま頭だけを動かし、ぼんやりとテレビに目をやった。どうして、レイはこんなにテレビばかり見ているんだろう。

 夕方の報道番組をやっていた。四日前に発生した殺人事件の続報だという。現場リポートをしている女性記者が映された。なんだか見覚えがある景色だ。と、テロップに表示された地名は、この近所のものだった。見知った駅が大写しになる。ここからは徒歩十分ほど。マスミンがバイトをしているコンビニの一つが近くにあるんじゃなかろうか。こんな事件が起きていたなんて、気づきもしなかった。まぁ、駅の近くには滅多に出かけないし、私自身テレビは滅多に見ないから当然だけど。

 リポーターの女性は、駅前ロータリーを抜け、住宅街を歩いていく。何の変哲もないこの住宅街で、事件は起こったのです。なんて、もったいぶった言い方をする。

 と、現場だというアパートが画面いっぱいに映された。

 思わずベッドから跳ね起きた。

「もう大丈夫なの?」

 視線をテレビにやったまま、レイが訊いてきた。けど、返事なんてできなかった。

『被害者の三原みはらさんは、このアパートの一室で後頭部を鈍器のようなもので殴られ、死亡していました』

 何かの証明写真だろうか。能面のように表情がない被害者の顔写真が大写しになった。頬骨の張った痩せたその顔は、顔色も悪く栄養状態がよくないように見えた。被害者なのに陰湿な感じすらする。……『被害者なのに』っていうのはおかしいか。この男は、湿のだから。殴られて死亡したなんて自業自得……って、え?

「死亡?」

 勢いよくテレビに飛びついた。液晶画面にいくら顔を近づけてみても、流れてるニュースは変わらない。

 世の中は事件で充ち満ちている。すぐに次のニュースに変わって、私はテレビにしがみついたままその場にへたり込んだ。視線に気がついて顔だけで振り返る。何を考えてるのかわからない笑みを浮かべたレイの目が、まっすぐに私を捉えていた。

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