第18話

 藤吉浅葱は僅かに先行した地点でその感情は遂に頂点となった。

「あーーーーっ‼︎ もうっ‼︎」

 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。

 浅葱は今まで色々と失敗や敗北というのも経験している。

 だが、魔法で負けたのは初めてと言ってもいい。というか、勝負をしていたワケでもないし、何をして負けとするのかも分からないが、彼女からしてみれば魔法という点で遅れをとったことが我慢できなかった。

 項目は魔祓いで相手は魔祓いの専門家。

 これが、普通の魔法使いなら"相手の胸を借りた"で済むのだが、彼女は世界最高に近い魔法使い。

 この敗北は彼女のプライドをいたく傷つけてしまった様で……。

「もっとスマートに出来れば良かったのに!」

『まだ、そんな事を言っとるんか?御主人』

 ガサガサと茂みから声がしたと思えば、エルが顔を出す。

「エル。何してんのそんなトコで?」

 飛び出てきたエルは闇夜でもはっきりと分かるくらいの明るさがある。

「真っ白な毛並みは相変わらず目立つね」

『余計な御世話や!』

 エルはどうやら自分が黒猫でない事を気にしているみたいでこうやってからかうと大抵怒る。

 だが、今回はすぐに怒るのをやめて、軽く肩に乗り移る。

『人には長所と短所がある。向きと不向きがある。完璧な人間になるという事は、不完全な人間になる。お館様の教えやろ』

「また、聞きたくもない名前を……」

 痛くなる頭をさする。

『あれだけの練度に仕上げるのに、どれだけの時間、どれだけの密度の修行やったのか分からへん。向こうからしたら屈辱やろ、こんな小娘にアッサリ到達されたら』

 確かにそう言う考え方もある。

 だが、それでもどうしようもない。それが感情だろう。

『もっとも、そうなったとしても、相手はそんな事を気にしとらんと思うけどな』

「……それは私が天津よりも幼稚だって言いたいの?」

 やたらと険が入った声で呟く。

『そこまでは言わへんわ。あの女より御主人が子供ってだけや』

「そういう事じゃん‼︎」

 しれっと言ってのける使い魔に掴みかかる。

『おい、待て御主人! 何すんねん!』

「何をすると思う?」

 明言しないところに恐ろしさがある。

『待て待て待て!御主人!動物愛護法違反やろうが‼︎』

「うるさい!都合の良い時だけ動物な事を持ち出すな!」

『っていうか、あの女に対して何か辛辣やないか⁉︎』

 その言葉で凍りついた様に止まってしまった。

『御主人?』

 エルは恐る恐る尋ねると、俯いた。

「……って、……ツ」

『は?』

「だって!アイツ‼︎」

 だって?

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