彼女はフロンティア!

堀内とミオ!

プロローグ

子守歌×ネフィリム

「当時もそののちも、地上にはネフィリムがいました。神の子らが人の娘たちのところに入って産ませた者であり、大昔の名高い英雄たちなのでした」


 母親は古びたその本を読み終えると、ぱたんと静かに閉じてサイドテーブルに置き、我が子の髪をなでた。


「おかあさん、ネフィリムってなに?」


 先ほどまでのまどろみはどこへやら。

 少年は布団を押しのけるようにして起き上がると、母親の服の裾をぐいぐいっとひっぱった。


「さぁ、なんでしょうね。英雄っていうぐらいだから、とっても強い、戦士かしらね」

「せんしってなに?」

「戦士っていうのはね、戦う人のことよ」

「わるいやつとたたかうの? だったらぼく、あってみたい!」


 母親は、興奮して立ち上がろうとする息子をなだめるように、優しく額にキスをすると、布団をかけ直した。


「でも今はたぶん、いないんじゃないかな。これはね、ずーっとずーっと、昔のお話なのよ」

「ふーん。でもぼく、あってみたい! そしたらいっしょにたたかって、わるいやつをやっつけるんだ」


 少年は布団に押し戻されたのを渋々承諾したかのように横になると、母親の目をじっと見つめながら言った。


「そうね。本当に会いたいって願い続けていたら、会えるかもね」

「わかった! ずーっと、おねがいするね」

「そうだわ。特別に魔法の言葉を教えてあげる。我が家に古くから伝わる、どんな願い事も必ず叶う魔法の――」


 母親がそう言うか言わないか、突然スイッチが切れたかのように少年はすぐさま眠りの世界の住人となり、静かな寝息をたて始めた。

 我が子の寝顔を見てくすっと微笑んだ母親は、耳元に顔を近づけるとそっとつぶやくように言った。


「アスカンド=ユシャル=レスイヴ。――会えると、いいわね」



 西暦にして2381年、惑星アンノウンが顔を出してから四年目の冬。

 乾燥した空気とますます薄くなりつつある大気層のその先、満月の夜空に浮かぶ、二つの丸い天体の放つ銀色の光が窓から優しく差し込み、母子を照らしていた。


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