来てくれたんだね

異能犯罪対策部


「あーー…だる」

「そう?外出ないからいいと思うけど」

「書類作成と整理だけで、給料貰えるとか俺得」

「は?逆だろ。報告書とか拷問過ぎて死ぬ」


12時過ぎの昼下がり。

多くの局員が昼休憩を取るが、常に業務に追われている異能犯罪対策部に、そんな選択肢があるはずもなく。

所属する黒川は同期と共に、終わりどころか、区切りすら見えない業務に勤しんでいた。


「頼っち、字ヘタだもんね。先々週のコメント欄全然読めなくてワロタ」

「高月さんに返されてたけど、ちゃんと書けた?」

「うるせー大体なんで今日に限って休み多過ぎだろ三課なんて葬式じゃねーか」

「強制振替だからねー仕方ないねー」

「三課は連勤続きで部長に注意されちゃったからね。ここぞとばかりに中原課長が全員に有給休暇取らせたみたいだよ」

「バランス考えない辺りが、全くもってクソ」


年齢も近いせいか、三人は軽口を叩きながら作業を進めていく。

幸い部内には自分達しかいない。


「んで一課は誰がいんの?」

「夜霧さんと僕。夜は水沢さん。そっちは?」

「リサちーと九条くん。ちな夜はわたくち」

「え、来るの早くない?大丈夫?」

「暇すぎて。どうせ仮眠取れるしいいかなって。それにマネーほちー。四課は?」

「体張ってメイクマネーとかどんだけー。うちは俺だけで、錫原さんが夜勤」

「マジレスすると給料安いんだよ。手取り知ってるでしょ。ってか錫原さんまた夜勤なの?多くない?」

「やめろその言葉は俺を殺しにかかってる。いや大分マシにはなってきただろ。2月なんて全部夜勤だったし。あん時は太陽が怖いとかぼやいてたような」

「しばらく夜勤だと、目が太陽を拒否するよね」

「それな。あ、和久さんは?」

「あの人は昼と夜にいれるように、シフト変わったとか高月さん言ってたよーな?時間忘れたけど、そろそろ来るんじゃね?」

「じゃあ早く書き上げないと」

「へいへいほー」


間抜けた齋藤の返事を聞きながら、黒田は乱雑に置かれたファイルを手に取る。


「ただいま戻りました」

「おー…おかえはぁ!?」


帰局を告げる課員に顔を上げたであろう恩田から、突如素っ頓狂な声が響く。


「頼っちうるさい」

「いや……だって!!九条が女っ…!」

「はー?九条くんが女の子な訳ないでしょ」


恩田の反応に呆れながらも、手を止めて顔を上げる斎藤。

その瞬間。大きく目を見張った。


「ふわたん!!!」

「いやお前もうるせーよ!!」


齋藤が口にした名前に振り向けば、後輩である九条の後ろには、昨日会った少女の姿があった。

表情からは読み取れないものの、こちらの様子を伺っている小動物のように思えた。


「あの……先輩方」


九条から軽蔑を含んだ痛々しい視線を感じ、戯れる二人をよそに席を立つ。


「こんにちは。来てくれたんだね」

「こんにちは……昨日はその、大変お世話になりました」


控えめに軽く会釈する彼女を、黒田の背後にいる二人は上から下まで舐めるように見つめる。


「ふわたん…見た目はもちろんだけど、声も可愛い天使かな」

「天使つーかガキじゃん」

「JKだよ。高レアJK」

「だからガキだろ。オレはグラマラスな年上の女が好み」

「………」

「いつもこうだから気にしないで。良かったらここ座って」

「……ありがとうございます」


素直に充てがわれた席に座るものの、警戒しているのか鞄を抱えて小さく座る。

その仕草も小動物のそれを思わせ、また愛らしくて見えて笑みを浮かべそうになり、咄嗟に口元を抑える。


「どうした黒っち」

「なんでもないよ…」

「先輩達、あからさま過ぎて気持ち悪いです」

「そういうお前はどストレート」

「ほんそれー」

「はぁ……」


九条の冷ややかな言葉に、同期達は反感を示す。

その反面、どうやら正気に戻れそうだと黒川は、内心安堵した。

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