補遺

【エキナカ都市紹介】

本文中に登場しないエキナカの都市について。


■松本


飛騨山脈と筑紫山地に挟まれた盆地に発達した階層都市。長野はその地形から横浜駅の都市が発達しやすい構造となっているため、松本は周辺の衛星都市を従えて、現在では甲府と並ぶエキナカ有数の大都市となっている(甲府との行き来は、八ヶ岳のエスカレータを突っ切るコースが一般的)。層構造の上層部は標高1500メートルほどで寒冷なので、住民の中では「駅の外」は「寒い場所」と認識されている。やや南にある諏訪湖は現在駅構造で埋まっているが、あちこちから湯が噴出することで有名。



■金沢


かつては北陸地方最大の都市だった。横浜駅化にともなって都心部は当時よりも内陸側に寄っている。傾いたステンレス製の謎の柱があちこちに張り巡らされているが、力学的にきわめて不安定な構造をしており、建物の支持を目的としたものではないと考えられている。倒壊しないのは構造遺伝界によって補強されているからとされる。入っても濡れないプールがある。



■高松


四国北部に存在。北海道・九州の海峡で横浜駅伸長が停滞している現在、この四国が唯一伸長中の臨界線である。新規な駅構造が形成されて間もない場所では、資源は慣例的に発見者が所有権を主張できるので、岡山から瀬戸大橋を歩いて渡ってくる住民が多い。沿岸部および南側の臨界線は四国の駅外住民がうろついていることが多いため、エキナカ住民は基本的に彼らとの接触は避けている。他の都市に比べて水の流通が少なく、水道利権を巡ったトラブルが多い。




■仙台


この東北地方の中枢都市が横浜駅化したのは駅暦100年頃である。他の地域同様まず鉄道部分の駅状化現象が進行し、横浜駅によって東西に分断される形になった。この期間の両都市は「仙台東口・西口」と呼ばれており、駅構造の上部に高度に発達したペデストリアンデッキで行き来が可能だった。現在はすべて横浜駅化しているが、なぜか青葉山の地下に若干めり込む形で駅構造化している(山の内部が駅構造化する例は他に見られない)。



■広島


一般にエキナカ住民と駅外の人間は交流が無いが、この海域では瀬戸内海に強力な武器を持ったJR福岡の調査員がいる事が多いため、他の都市以上に内向的な気質である。観光地として有名な原爆ドームは冬戦争時代の構造物だと考えられているが、エキナカ住民の間の伝わっている日本史が不明瞭であるため、西暦時代の戦争の区別が曖昧なせいである。瀬戸内海の島嶼部には、駅胞分離帯様の構造が発達しているところが幾つかある。




■東京


かつての日本国の首都であり、そのため駅構造化以前にもっとも人工の建物が発達していた。これらの建物は現在、構造遺伝界に感染することで互いに連絡通路を張り巡らせたネットワーク状の構造をなしているが、盆地の階層都市に比べて交通の利便性が劣るため人口は少ない(本州のほとんどの臨海都市と同様)。戦時中に主要な行政施設が地下化されたが、これらは関東の駅員組織の拠点となっている。この施設を押さえることで彼らの統治の正当性を主張できる。




【書籍版2巻のお知らせ】


『横浜駅SF』の続刊『横浜駅SF 全国版』(イラスト・田中達之)が8月10日に発売します。また同時にコミカライズ版(漫画・新川権兵衛)の1巻も発売します。

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