第14話 しょうめつ

魔王の黒い光を受けたのは星だった。

「星!なんで…なんでこんなことを…!」

「…なんでって…決まっているだろう。俺もおまえを助けたかったからだ。」

星は顔を歪ませながら、震える唇を少し動かして言った。体は死んだように冷たく動かない。

「星、あなたに今なにが起きているの!?」

ヒカルが驚いた顔で近づいてきた。並べてみると、星とヒカルは瓜二つだった。双子のアスカとヨウ並だ。

「…全ての時を奪われたんだ…。でもあのA-015…、星が誰かの身代わりに死を選ぶなんて…。」

「俺にだって…命を懸けて守ろうと思う心はある。…今まで対象がいなかっただけだ。」

あたしはもう言葉が出なかった。なぜって、星が目の前で消えかけていたから。額の魔黒石が警報ランプのように真っ赤に燃えていて、星の足から体がだんだんと消えていた。いや、消えているというより、浄化されていると言った方が正しいのかもしれない…。早朝のダイアモンドダストのように儚く美しく光が舞い、暗い部屋を照らしていた。星の体はもう半分以上消えている。星は弱弱しく震える腕を伸ばして、もろいものに触れるようにそっと、あたしの頬に手を添えた。

「会えてよかった。」

その顔や声は時魔とは思えないほど清らかで優しかった。天使のようだ。でも、触れていた手は一瞬で消えてゆき、星は微笑を浮かべて完全に消滅した。からんと音を立てて、主を失った魔黒石が落ちた。

「そんな…。」

遠くで魔王が「馬鹿な奴だ」と言って、蔑むように笑っていた。その手では、ヒカルの魔黒石が入った水晶が今にも落ちてしまいそうに転がっていた。

「やめて!!」

やめてと言ってやめてくれるわけがないことは百も承知していた。けれども、叫ばないと半分になった魂が粉々になってしまいそうだった。

「やめてほしければ、おまえが魂をささげればよい。」

そうしたかった。もう今にも崩れそうな半分しかない魂なんていらないから、ヒカルを助けてほしかった。でも、だめなんだ。あたしが魂をささげようとすれば、ヒカルがあたしをかばってしまう。あたしの代わりにヒカルが消えてしまうなんて、一番想像したくない。あたしは星の魔黒石を手に取った。

(星……力を貸して…)

我ながら、そのときになぜそんなことをしようと思ったのかわからない。どうしようもない状況で、とにかくヒカルだけでも助かって欲しかっただけなんだ。

「山鳥…おまえ何を……!」

あたしは星の魔黒石を額に押し込んだ。魔黒石はするりと、さも当然のように入っていく。そのとたん、黒々とした力が頭から全身に伝わって、混乱していた脳が冷えていくのを感じた。制服は、星の黒い和服に代わっていて、肩甲骨の下のあたりがむずむずした。凝視して固まっている魔王にするすると近づいた。魔王が持つ水晶にあたしの顔が映し出される。鋭い八重歯、黒い羽、深紅に染まった瞳…。あたしは時魔になっていた。

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