第10話

 それから2日が過ぎた。今ノーバディとアレルヤは貨物用の列車に揺れていた。この列車の居心地はかなり悪く。さっきも飲んだくれが列車酔いで嘔吐し掛けたがノーバディは殴って静かにさせると辺り一面が酸っぱい臭いでいっぱいになった。

「まったくふんだりけったりだ!。一体いつになったら目当ての連中に会えるんだ?昨日からずっとこんな調子じゃねえか!」

 ノーバディの激昂にアレルヤは頭の悪い生徒に丁寧に教えるように答える。

「いいかい。列車の中は基本的に狭くて居心地は最悪なんだ。まずはその事を頭に入れてくれ。それから乗客だが、いまアタシらの状況は芳しくないよ。乗客として乗ればもちろんペキンパーやリディロの連中に見つかることなのは明白だ。もう少しの辛抱だ。落ち着きなって」

 一体何を落ち着けと言うのか。ノーバディには理解できなかった。今この列車は、サウンズヒル方面に向かっている列車であるそうだが、この目的地に向かっている所で何が作戦があるのかまったく想像も何もなかった。以前の件があったのでノーバディはアレルヤ話を信用することが容易ではなかった。

「もうすぐ仲間からの合図が来るはずだ。この手の列車強盗が最近相次いでいるだろ?この辺り一体はアタシらの縄張りでね。こうやって獲物がよく通るのさ」

「それは大層すごいこって。そんで、その素敵なお仲間とやらは何処にいるんだい?」

「言われてみればそうだ。たしかにさっきからこの列車に何も起こらない。てっきり始まっても良い頃なんだがな」

「お前まさかまた裏切るつもりじゃないだろうな?勘弁願いたいぜ!たたでさえアンタには腹が立ってるんだ。変な真似をしてみろお前を殺す事なんて他愛もないことだ!」

「よほど信用がないみたいだね」

 どの口がそう言う。ノーバディはそう思ってコルトの引き金に手を引いた。

「ああ謝るよ、済まなかった。とりあえず、この辺り一帯で決行するはずだ。もう少し待ってくれよ」

 シスターアレルヤがそう言った瞬間であった。車体が急に揺れ始めた。「おいおい!何だよ。地面が揺れるとかそんなことってあるかい!?」

「仲間の合図だッ!。何かに掴まっとけ、名無し!振り落とされるぞ!」

 アレルヤがそう言った途端に貨物車に乗っていた他の乗客たちは振り落とされそうになりながら何か捕まれるものを探したり列車から振り落とされた者さえいたりした。

「おい!一体何が起こってるんだ?説明しやがれクソシスター!」

 ノーバディは貨物用の鉄格子に捕まりながら怒声を張り上げた。

「だから言ったろ仲間だって!」

「もうちょっと方法はなかったのか!?あまりにも乱暴すぎんぞ。アタシでもここまではやらんぞ!」

「加減を知らん連中なんだ、許してやってくれ!」

 そうこう怒声を張り上げているうちに列車は脱線し悲鳴を上げながら、ようやく止まった。ノーバディはフラフラと鉄格子の扉を開けて外の様子を見ると案の定、先頭車両が路線から外れ脱線を引き起こしていた。こりゃあ前の車両のやつはお気の毒にとノーバディが思うと今度は外から銃声が立て続けに鳴り響いていた。

「おいおい!この銃声がアンタの仲間ってやつかい?」

「ああ、あいつらいつも先頭車両狙うからな。やっぱ後続車両にいて正解だったよ。だから言ったろ後続車両にしとけって!こういう理由なのさ」

「それで、アンタのお仲間とやらは今は捕虜でも取ってるのかい?」

「だろうな先頭車両にいる貴族やら富裕層の連中だ。だがアタシらの目的はマーシャの遺産だろ。もちろんその手筈は進めているさ」

「その仲間やらは信頼できるのか?」

「ああ、信用出来るよ。昔からアイツらと同じ釜の飯を食った仲さ。実力は折りかみつきだよ」

「そうかい。じゃあその信用できるとか言うお仲間の顔を拝見しようじゃないか」

 そう言ってノーバディは脱線した列車の裏側に回り込みアレルヤの仲間である列車強盗の顔を覗いてみた。人数はかなり多い。100人はくだらない。強盗団でこの人数は普通じゃない。こんな人数をまとめてたら部下の人数まで把握出来なくなり、こういった強盗する際に統制が取れなかったりまとめ役が殺されることも少なくなかった。それでもこの女が大人数を率いているのを見ているとある一つの仮説が浮かび上がった。双眼鏡で確認すると女、子どもの姿も数多くあった。その時であった。先頭車両から人質として兵士達を拘束してる折りに強盗団をライフルで狙っていた。こちらから撃つことも出来なくはないが実際かなり厳しい距離であった。ノーバディは借りのつもりで、ライフルを取り出し構えて目標に正確に狙いをつけた。

 発砲。数秒の間何も音のしない環境になった。着弾したかは分からない。数秒のタイムラグを感じたが、少しするとライフルを構えていた兵士はそのまま音もなく崖から落ちていっていった。

「良い腕だな。先生をやってるのは伊達じゃないね」

 隣で軽口を叩いていたアレルヤをノーバディは無視し敵兵が崖から落ちるのを間近で見た強盗団はいっせいに銃声をした方向を向いた。アレルヤは、ここぞばかりに、声のする方向にアレルヤは大声をあげる。

「ブレンディアーモ。アタシがいない間うまくやってくれてたかい?サバタよお!」

「そっくりそのまま返すよ。ブレンディアーモ。アレルヤこの列車に乗ってたんだね!」

 アレルヤの掛け声に反応をしたのは、まだ10半ばもいってないような少女であった。アレルヤの声に反応してか少女の周りの仲間も反応し始めた。彼女の見た目はどこからみても普通の少女である。周りの連中も盗賊の類には見えない普通の農民のような人ばかりであった。


 サバタと呼ばれていた少女に案内され着いた場所は粗末な難民キャンプような場所であった。

 だがそれでもキャンプの雰囲気は悪くはなく皆が元気にやっているようであった。アレルヤがキャンプの前を通ると皆同じようにアレルヤ帰ってきたのかいと彼女に声を掛けていた。通っているあいだアレルヤは皆に声を掛けていた。まるでいっぱしのリーダーであるようだ。

 これじゃあまるで一昔の自由のためにといって戦った革命軍のようであった。ノーバディは居心地の悪さを感じた。

「アンタの言ってる強盗団ってもしかして?」

 ノーバディの問いにアレルヤは彼女の問いに察したのか軽く答える。

「そう、こいつらとアタシ等のために戦ってるんだ。そんで私は、これでも革命のまとめ役を束ねているもんなのさ」

「何でいままで言わなかった。お前のこと強盗か何かだとずっと思ってたぞ!」

「それはお互い様だろ。名無しなんて名前聞いたことねえぞ。アンタの素性が知れねえ以上私もアンタに名前を名乗る義理はないよ」

「何でこんな下らないことをやってる?今更、権力に楯突いたって何も産みはしないんだろ?何だってこんなこと」

「まあ、今時珍しいかもな。別にバカにしてもらっても構わないさ」

 そう言ってアレルヤは仲間に襲撃した列車で捕まえた捕虜の確認をサバタとしていた。この少女はアレルヤのことを慕っているのだろうとノーバディは思った。顔は先程の緊張していた顔とうって変わって嬉しそうに自然にはにかんだ笑顔でアレルヤと話していた。

 ノーバディはそれを見て内心、昔の自分を思いだして嫌な気分になった。

「ねえアレルヤ。あの女だれ?さっきからこっち睨んでるけど」

 サバタは不満をノーバディに聞こえるように大きな声でアレルヤに言った。

「さあてね?途中からなぜだか知らんが行きずりの関係になっちまったのさ。なあそうだろ名無しさんよお!?」

 嫌みたらしくアレルヤはノーバディに絡んで言った。

「そうそうあのお姉さんな。何でも伝説の英雄イングリッシュ・マーシャの遺産を狙っているらしいだわ!そういうことで私も一枚噛ませてもらうってわけさ」

「イングリッシュ・マーシャの遺産?いくら何でもアレルヤの事だからって、それは信じられないよ。あの女適当なこと言ってるよ絶対!」

「私も最初はそう思ったさ。今はいないが、その遺産の在処を知ってる子がいてねえ。どうやら信憑性があるみたいさ。だがその子にトラブルにあってねえ。私達は追いかけているとこなのさ」

「軍の列車に乗ってたのってまさか?」

「そうそのまさかペキンパーは知ってるよな?そいつらがさらっていっちまったのさ」

「じゃああたし達アレルヤの邪魔をしちゃったってこと?」

「いいや結果オーライさ。まさかこんなところでお前達に会えるなんてな。それにこの捕虜連中は使えるのさ私に考えがある」

 そう言ってアレルヤは他の仲間に呼びかけて集め始めた。今後のアレルヤの考えた作戦が話されるようであった。


「いやはや手荒な真似をしてすまないねお嬢さん」

 コルダは部屋の一室に通され座っていた。リディロと2人だけであった。

 今のとこ彼女は特に乱暴されずに事がすんでいた。ここが何処かは彼女には分からなかった。

「何か飲むかな?コーヒーはどうかな。この辺りのは旨くてね。君も気に入ると思うよ」

 柔和な笑顔でリディロは言った。コルダは黙っていたが、リディロはコルダの沈黙を肯定と受け取ったのか、そのまま2人分のコーヒーを注いでコルダにカップを一つ渡した。

 リディロはコーヒーを飲みながらコルダに質問する。

「君のお父さんの遺産は素晴らしいよ。大方の連中は、あれを財宝か何かだと勘違いしているみたいだが、そんな金、銀、財宝じゃないもっと崇高なものだよ。君はお父さんに遺産の話はされたことがあるのかな?」

「ないわ。まるで遺産の中身を何でも知っているみたいな口振りね銀行家さん?」

「いろいろな噂を聞きましたよ。財宝だったりマーシャ自身の遺体であったり。おっと失礼。ともかく彼が宝を隠していたと話はありました。彼が襲撃したのは政府拠点の場所だけではなく政府が秘密裏で使うような銀行も襲撃していたそうですね。では、その金の在処は何処なのでしょうか?遺産の1つには、そういった財宝の1つや2つはあるかも知れません。ですが、マーシャは生前に地球の領域外にまで伸ばしたいとおっしゃっていたそうです。人が空の果てを目指すなど笑いぐさではありますが、彼は何らかの形で、それらの手がかりを手に入れているはずなんですよ。私はねコルダ嬢。それに興味にあるんですよ」

「とんだ酔狂な話ね」

 コルダは、そう言ったがリディロは特に気にしているようでもなかった。

「何かお父さんから聞いていないですか?」

 リディロはニヤニヤと笑いながら語り続けた。

「残念だけど何も聞いていないわ。そもそも私も父のことはよく知らないのよ。アテが外れたかしら?」

「問題はありません。いくら娘さんとはいえ簡単に話す内容ではありませんからね。とは言え何か手がかりになるようなことも言ってないのでしょうかねコルダ嬢?」

 リディロはコーヒーを飲み終え、また新しく注ぎ始めた。しかし今度はコーヒーだけでなく何かの器具を取り出し始めた。拷問などで使われるようなレンチ型の物であった。いま自分に行われているのは質問ではなく尋問であるとコルダは思った。ここでいくら嘘をついたとしてももうごまかし通すのが無理なのは明白であった。コルダは身の震えと言っても申し分ない程度にリディロに答えた。

「サウンズ・ヒルの共同墓地の一角にあるわ。墓地の主はアーチストンという軍人という名義だわ」

「素晴らしいよ。コルダ嬢。それでは早速現地に向かいましょう。思いのほか早くアナタから場所を聞き出せましたからね」

 そう言ったリディロであったが、「ですが」という言葉に続きリディロはコルダに言った。

「しかし困りましたね。アナタが話してくれたお陰で、もう用済みになってしまったようですよコルダ嬢」

 コルダは身構えていった。銃は取られてしまっており何も出来ない状態であった。

「私をここで殺したら財宝の居場所なんて分からないわ。あの場所は2つの通過点しかならないの!」

「ですがアナタはサンズ・ヒルの場所までしか知らない。後の遺産の情報はアナタは知らない。後は我々にお任せください。私達が遺産を見つけてみせますよ。なに安心してください」

 コルダは自分の身に何ががおこるか考えただけでぞっとした。リディロは下品な笑いを浮かべてコルダを見た。何に使うかコルダには想像の付かない器具を持ちながらコルダの方へ近づいてきた。

「これでアナタに罰を掛けるのも面白いですが、その前にアナタの綺麗な体を私に堪能させて頂けませんかね?」

 そう言ってリディロは服を脱ぎながら近づく。コルダは内心弱った。今ならこの男を殺すこと事態はさして難しい事ではない。殺す方法は銃以外でも使える物がこの部屋に転がっていた。だが問題はこの男を殺した後にこの場所から抜けるのが至難の業であったと思った。

 そう思っていた矢先、扉からノック音がすると確認も取らず部屋にリディロの部下が入り込んでいた。酷く焦っているようにも見えた。

「何だ!?こんな時に」

 リディロの機嫌を悪くした態度を露わにした物言いでも部下の顔は青ざめていた。

「はい、その捕虜である我らの兵士が帰ってきたのですが」

「そんなことがあり得るのか?」

「ですが事実部下が帰ってきております」

「それで賊からは何も交渉も何もないのか?」

「はい。連中からは何も来てはいません。本当に今し方帰ってきたのです」

「分かった。私も下に降りて確認する」

 そういってリディロと彼の部下はすぐに部屋から出ていった。部屋には只一人コルダが残された。偶然なトラブルとは言え何はともあれコルダは逃げる算段が整えられそうであった。彼女はさっそく準備を始めた。


「何だこれは!?」

 リディロは、その異様な光景に驚きの声を挙げた。

 列車強盗に遭遇して捕虜に取られてしまったリディロの部下は全員赤の頭巾を頭から被っていた。目の部分だけ穴があいておりそこから外の覗くようには出来ていたが何のために賊の連中はこんなことをしたのか理解が出来ないでいた。

 ことの顛末を見ていた部下の1人がリディロに説明し始めた。

「捕らえられたはずの我が同胞の全てが赤頭巾をつけられています。列車襲撃の場所から丸1日は経っていますので彼らはこの格好のまま徒歩でここまで来たことになります」

「賊どもめ何が目的だ?」

 捕虜となった者達にはご丁寧にも全員猿ぐつわや口を紐で縛られていており、ろくに喋れるような状態ではなかった。

 捕虜として捕まった仲間を別室に移されて介抱されていたが、そんな状態でノーバディとアレルヤが侵入するのは容易いことであった。

 二人は赤ずきんを被って捕虜達に化けて侵入していた。目的は、もちろんコルダの救出である。事前に行ったアレルヤの作戦では捕虜を一度帰し、捕虜の中に数人こちらの人間を紛らわせて、連中が処置に混乱しているまでの、その隙に見つからずに敵地に潜り込むという方法になった。少人数で行動した方が良いとしてアレルヤとノーバディ二人で行動することになった。アレルヤの仲間たちは、混乱が始まりだしたら、さらに攪乱する陽動係として動くことになった。2人は頭巾を被ったままの状態で話し合う。

「それで、どうするよ?」

「コルダは何処にいるかってことだよな?まあ普通に考えればリディロのいる部屋だろうな」

「そうと決まったなら急ごう」

「了解」

 2人がそう話しているとコツコツと足音が聞こえてきた。2人は話を止め黙って赤頭巾から覗いていた。2人を応対するために来たリディロの部下が2人やってきたのであった。

「おいおい、連中に何されたんだよ。安心しな。いまこの頭巾を取ってやるからな」

 そう言って2人の頭巾を男がはぎ取るとアレルヤとノーバディが出てきたので、男2人は一瞬言葉に詰まり何か言い掛けたが、アレルヤとノーバディが、はおい締めにすると男は「おえっ」と呻きそのまま首からぐったりと垂れ下がった。

「申し訳ないが運がなかったと諦めてくれな」

 ノーバディは一言そう言って男たちの死体から衣服をはぎ取り政府軍の制服姿に変わっていった。

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