第11話 夢の続き
気付いたらまた、ここにいた。
いつの間にか丘に1人で座っていて、目の前には海がどこまでも広がっている。
誰もいない、静かな場所。
同じ場所なのに、前に来た時とは違う。
───夜じゃない。
辺りを見渡す。
東に昇る太陽が眩しい。
近くに咲いている花は、花弁に浮かぶ雫が光に当たって、キラキラと輝いている。
この花の名前はなんだっけ。
確かこれは、アルストロメリアだったかな。
花言葉は未来への憧れ。
その美しい姿は私の目を奪う。
花が風で揺れ、あの日の思い出が脳内を駆け巡る。
暗い夜に、1人の少女とこの海を見た事。
前までは黒く染まった海を見ていたはずなのに、今ではどこまでも青く広がっている。
潮の匂いが鼻をくすぐり、夏の風が吹く。
その時の少女は泣いていて、私は暗い顔をして座っていた。
もし、あの言葉が本当なら「あの子」が近くにいるはずだ。
波の音と少しの風しか感じられない空間。
そこに落された声。
「お姉ちゃんだ。」
その声の主が分かって、そっと振り向くとやはりあの少女が立っていた。
儚げで、でも嬉しそうに。
「また会ったね。会いたかったよ。」
私だってずっと、会いたかった。
今までの事は覚えていないけれど。不安で、辛くて、自分でもよく分からないくらいに混乱していた記憶がある。
そんな毎日なんか抜け出して、早く会いたかった。もしかしたら私は、この世界に依存しきっているのかもしれない。
「うん。待ってたよ。」
暫く会わないうちに、少女も少し大人っぽくなった気もする。
そして、少女はまた、あの日と同じように私の隣に座る。
「それで、あの女の子はどうなったの?」
私が考えた物語はもう、完結していた。
それを、少女は悟ったのだ。
少女の手を握り、優しく囁くように話す。
きっとこれを口に出してしまえば、この世界はなくなってしまう。
それでも、良いと思った。
「あの女の子はね、これからも傷付くよ。」
少女の顔が曇る。
宥めるように頭を撫でてあげた。
本当に純粋な少女だ。
「生きてる限り傷付くし、これからの事なんか誰も分からないけれど、女の子はきっと大丈夫。」
ずっと思い付かなかった結末。
今までの私だったら終わらす事は出来なかった。でも、今だったら······
「今、その女の子には大切な仲間がいる。一緒に歌ってくれる仲間が。だから、」
少女の瞳には、希望という光が宿る。
彼女が望んでいた結末ではないとしても。
「もう、1人じゃない。」
これが私の答え。
瞬間、朝日がこの世界を包み、私達に強い光が降り注いだ。
きっと、暫くはこの世界には来れないだろう。来れたとしても何年も後かもしれない。
もし、ここに来た時にはまた、この子に会えるのだろうか。
今みたいに笑っているだろうか。
その日が来たら、またお話の続きを話せたら良いのに。
そういえば、私は1つ、大事な事を訊くのを忘れていた。
「そういえば君の名前は?」
「私の名前は·······」
消えてゆく空間の中で、少女の優しく微かな声が響いた。私は目を見開く。
─────星野 春架
END
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