PARTⅢの11(29) 器がバナナを食べる?

 家族で抱擁し合ったあと、謡はヒカリを連れて奏の部屋に行った。実質的に復縁した両親を二人きりにしてあげたかったのだ。


 2号も、ヒカリがリュックに入れて、でも生きて動き出しているので顔はリュックからのぞかせて、背負って連れてきた。


 奏は、若いラーメン職人と同室になっていた。


 そのラーメン職人が『ちょっと御殿を探検してきます』と言って部屋を出て行ったので、謡とヒカリが来た時には彼一人だった。


「どう、おとうさんとおかあさん、いい雰囲気だったみたいだけど?」


 と奏は尋ねた。謡は部屋で起こったことを話して、


「二人だけにしてあげようと思って、こっちへ来っちゃった」と肩をすくめながら言った。


「そうか。よかったね」

「うん」


 謡はにこりとうなずいてから、ヒカリに聞きたかったことを口にした。


「ねえ、さっきあなたは『残りの座敷わらしエネルギーはリュックの中だ』って言ってたけど、


それってつまり、残りのそれは2号の中に注ぎ込まれたっていうことなのね?」


「そうだよ。それが2号のすごいパワーの源なんだよ。


 一人分エネルギーが増えるとパワーは百倍になるって言われているんだ。だから、たとえば九人分だと百を九回かけただけパワーが倍増するんだよ」


「ということは、えーと、一兆の一万倍、つまり一京倍になるってことね?」

「そうだよ。そういうこと」


「それ、すごくない? 『ぼくより前はいつも最低十人かそこらはいたみたいだよ』って言っていたよね?」


「うん」


「じゃ、2号は少なくとも君の一京倍の座敷わらしエネルギーを持っているということに ・・・」


「そうだね」


「それほどのエネルギーを2号に持たせたのも、″″だってこと?」

「そうだよ」


 奏はヒカリに尋ねた。


「ねえヒカリ、君はさっき『ぼくは2号と一緒に、″″から地球を建てなおす大きな使命を与えられてる』と言っていたけど、


 その使命を果たすために2号にはそんなものすごいパワーが与えられているんだね?」


「その通りだよ。普通一人の座敷わらしは一人分のパワーしか引き受けられない。


 それ以上注ぎ込まれたらエネルギーの器として耐えられなくなって爆発して消えてしまうんだ。


 でも、ナマケモノは器としてぼくみたいな人間の子供よりはるかに大きくて、


 それこそ地球全体の質量相当の座敷わらしエネルギーを注ぎ込んでも大丈夫だって、″″が言ってた」


「そうか、地球のありとあらゆる命の座敷わらしエネルギーを注ぎ込めることのできる、いわば命全体の座敷わらしって感じなのかな、2号って?」


「そうだね」


「わかった、ところで ・・・」

 と奏は謡に向かって言った。


「ぼくがこの間まで勤めていたのが『マザー』っていう会社だってこと、話したっけ?」


「いいえ、初めて聞いたよ」


「そうか、ぼくも会社のことなんかすっかり忘れてしまっていたから。社長は君のおかあさんで、会長は君のおばあさんだよ」


「ええ。お金マネーの仕事してる会社だったよね?」


「そう。君のおかあさん、そういう仕事の才能、すごくあるんだよ。ぼくもいろいろ教えてもらった。


 でも、君のおばあさんはもっとすごい才能があって、世界的な大物が何人も顧客になってるようだった」


 奏は謡の顔をしげしげと眺めた。


「ああ、やっぱり、顔の輪郭とか目とか鼻筋とか、君と似てる。君って、もしかしておかあさんよりもおばあさんに似てるかも。


 会長って、年齢不祥のきれいな人だけど、でも怪物みたいな人だよ。」


「ふ~ん」

 謡はまだ会ったことのない祖母に興味を覚えた。


――怪物みたいだっていうけど、でも、血のつながったあたしのおばあちゃんなんだから ・・・。


 ドアがノックされた。「どうぞ」と奏が応えると、茨木童子がバナナを持って入ってきたた。


「ご両親の部屋に言ったら、2号さんが動き出したって聞いたのさ。それで、お腹が減ってるんじゃないかと思って。


 聞いたら、野菜や果物なら結構何でも食べられるっていうことだったんで、持ってきてみたんだよ」


「ありがとうございます。あたしがあげてみます。いいよね?」


 謡はヒカリに尋ねた。


 ヒカリは「うん」と答え、茨木童子さんに「ありがとう」とお礼を言った。


 ヒカリはリュックから2号を出してテーブルの上に置いた。2号は仰向けに寝転んだ。茨木童子は謡にバナナを渡しながら言った。


「謡さんのお父さんが、『あいつはバナナの中味より皮を好む』って言ってよ」


 謡はバナナの皮をむき、右手に中身を、左手に皮をもって、寝転んでいる2号の鼻先に両方差し出した。


 2号はゆっくりと皮の方に向かって手を伸ばして受け取り、緩慢かんまんに食べ始めた。


「ヒカリちゃん、中身食べる?」

「うん」


 ヒカリはバナナの実を受け取って頬張ほおばりはじめた。


「このバナナ、どこで買ったんですか?」と奏は尋ねた。

「妖怪バザールで、だよ」と茨木童子は答えた。


「え、妖怪バザールって?」


「御殿の裏の広場にあるのさ。きょうは、今ちょうどバザールが開かれているから、あちきがみんなを案内してあげてもいいよ」

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