PARTⅡの4(12) ヒカリV.S.金のコウモリ

 翌日、謡は九時すぎてから目ざめた。


 高志はもう仕事に出かけており、ヒカリはリビングで粟乃とトランプをして遊んでいた。


 ヒカリの力によって、粟乃はいつでも彼を見たりさわったりすることができるようになっていた。


「ヒカリはおとうさんと一緒に朝食も食べたし、お見送りもしてあげたし、トランプを教えてあげたらすぐできるようになったのよ、ね?」


「うん。トランプって楽しい。おねえちゃんもご飯食べたら一緒にやろうよ」


「そうね。大学に行くかどうか今決めるから、行かないようだったらやるってことで ・・・」


 謡はパジャマ姿のままI大学の代表番号にかけてみたが、いくら鳴らしても出なかった。念のため、もう二度かけてみたがやはり同じだった。


――あの学生の携帯等による有料ゲームや出会い系サイトへの没頭現象はきょうも続いているに違いない。行っても授業にならない。


 そう判断し、シャワーを浴びて着替え、トランプにつきあった。


 午前十時になった。謡はテレビをつけ、JBCを見た。


【アメリカ系のファンド4社全保有株のCIFへの譲渡まもなく完了】の臨時ニュースが流れた。


JBCのベテランアナウンサーがこのニュースを解説し、関係者の出席する譲渡じょうと完了の記者会見の映像が流れた。


「中国系ファンド、CIFは今回の株取得のために約五千五百億円をアメリカ系ファンド四社に支払いました。


アメリカ系ファンドはこの取引によって少なくとも約一千億円の利益を得たことになります ・・・」


 アナウンサーがコメントした。


「濡れ手にあわってこのことね。真面目に働いてる人達には信じられないような話だわね」


 粟乃はあきれた表情でつぶやいた。謡も「全く」とうなずいた。


 するとヒカリは目を閉じて少し何かを探るような表情をして、


「この話、まだどんでんがえしがありそうだよ。奴らがからんでるようだから ・・・」


 と、彼のイメージには似つかわしくない老成ろうせいした表情で謡に向かって言った。


「奴らって、もしかして、金のコウモリ達?」

 謡は心にひらめいたことを質問した。


「そう。見てみたい?」

「見られるの?」


「うん。ねえ、ほら、パチンコパーラーに主婦が殺到したニュースとか、学生が授業中に携帯に没頭しているニュースとか、そういうのってビデオかなんかで見られないかな?」


「私のレポートしてるやつなら、おばあちゃんに頼んで録画してもらってるよ。ね?」

 謡は粟乃に聞いた。


「ええ、今見せてあげるわ」

 粟乃はリモコンを取ってそれらを探し、「じゃ、行くわよ」とレコーダーに録画したニュースを選択しようとした。


「ちょっと待って」 

 ヒカリは右手をのばして謡の手をとって、


「いいよ。ぼくと手をつなげばコウモリが見られるはずだから」

 と再生をうながした。


「あたしも見せてもらえる?」


 粟乃がヒカリに近づいて手を伸ばすと、ヒカリはあいている方の左手で彼女の手を取った。


 粟乃が再生した二つのレポートを見て、謡と粟乃は我が目を疑った。


パチンコパーラーの主婦達の頭にも、授業中に携帯に没頭する学生達の頭にも金のコウモリが留まっているのが見えたのだ。


「ね、見えたでしょ?」

 ヒカリに聞かれて、二人はうなずいた。


謡は粟乃に言った。

「きのうの大浜さんの記者会見も金のコウモリに操られてたんじゃないかしら? おばあちゃん、あれは録ってないよね?」


「ええ。残念だけど」

「だったら、インターネットの無料動画サイトに投稿されてるかもしれないから、それを見てみるよ」


 謡は自分のノートパソコンをリビングに持ってきてテーブルの上に置いて立ち上げ、動画サイトに行って「大浜キャロライン」で検索した。


 きのうの記者会見があった。


「一度見えたらもうぼくと手をつながなくても見えるから」


 動画をスタートさせると、二人には大浜の頭にも金のコウモリが留まっているのが見えた。


「やっぱり、みんな操られていたんだ。あら?」

 謡は目を丸くした。


 大浜が「これで私は終わりです、死にます」と言った瞬間、


 彼女の膝の上に白い着物を着ておかっぱ頭をした座敷わらしが現れその胸に抱きついたのが見えたのだ。


 それは粟乃にも見えていた。


 座敷わらしに気がついた金のコウモリは羽根を広げてビーム攻撃を仕掛けたが、


 座敷わらしが張った膨らみ行くシールドにビームも体も跳ね飛ばされて空に消え、大浜が倒れると同時に座敷わらしも姿を消した。


「あれ、あなたよね?」

 と粟乃は尋ねた。


「そうだよ。これが原因できのうの晩の火事と破壊行為に合ったんじゃないかと思うよ。


 ぼくは人間みたいに時空の法則には縛られないで行動できるんだ。そして金のコウモリ達も・・・。


 記者会見場であの人を助けたあと金田一温泉に戻ったら金のコウモリ達が沢山攻めてきて、それでここに来たんだよ」


 と座敷わらしは答えた。


「まあ、そうだったの?」


「うん。あの時の金のコウモリのエネルギーからして、


 あいつは記者会見がクライマックスに達したところで彼女の心臓を止めて殺してしまうつもりだったんだと思う。


 それをぼくが防いだから ・・・」


「それで、大浜さんは死なないで眠っているような状態で意識不明になるだけで済んだのね? でも、


なぜ金のコウモリはあなたを攻撃できずに逃げたの?」


「あいつは大浜さんをコントロールすることに全力を挙げていたし、


 それ以前に、金のコウモリは一匹や二匹ぐらいじゃぼくのエネルギーの強さには全くかなわないんだ」


「だから、計画を邪魔された金のコウモリが火事や破壊行為で仕返ししたと?」


「そういうこと。奴ら、沢山でやってきて・・・。それでここへ来たんだよ」


 謡は響奏が「なんかサイトを開いてそこにあった棺桶を開いたら金のコウモリがいっぱい飛び出した」と言ってたのを思い出し、


 そのことをヒカリに話した。


「へえ、電脳空間がらみか。ぼくのような座敷わらしは人間達から精霊とも妖怪とも言われているけど、ぼくの見るところではあいつらは妖怪だと思う」


「電脳空間から出てくる妖怪?」

「そう」


「でも、妖怪は普段は妖怪の世界というか妖怪の空間というか、そういうところに住んでるんじゃないの?」

「そうだよ」


「サイトの棺桶から金のコウモリが出てきたってことは、あいつらの住む妖怪空間はどこか電脳空間の中にあるってこと?」

「多分ね」


「どちらかと言えば古典的な妖怪じゃない、新種の、現代的な妖怪と言えるかもしれないってことね?」


「ああ、ぼくらも最近まであんなの知らなかった」


「ねえ、もしかして、パチンコパーラーや大学でも、あたしを金のコウモリから守ってくれていたの?」


「まあね。でも、金のコウモリ達はむしろおねえちゃんを利用してニュースを流させたかったようで、


 ぼくはすぐそばにはいたけど、でも特におねえちゃんを守るために、何かする必要はなかったんだよ」


「そうなんだ。じゃ、I大学の生中継の時、正門に入ったあたし以外のクルーに取りつかないで中継を続行させることもコウモリ達にはできたのかしら?」


「まあね。でも、そうするよりも、ああして彼らに取りついて携帯に没頭させ、おねえちゃんに独り生中継させた方が、視聴者にとってはよりリアルでインパクトがあるニュースになるって判断したんじゃないかな? 」


 謡は『そんな風に分析できる座敷わらしは子供の姿をしていても、決して子供ではない』と思った。


 彼女は、コウモリ達にはある種の愉快犯ゆかいはん的要素があるように感じた。


 しかし、だからと言って単に世間を騒がせるために行動しているようには決して思えなかった。

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