第16話 幻悟君と中学校 2

 ちなみに質問の内容はこんな感じになっている。

「もう病気は治ったの?」


「少しだけでもプロフィールを教えて」


「彼女とかいるの?」


「昔からそんなに落ち着き払っていたの?」


「君を怒らせるとどうなるんだい?」

 幻悟は男女問わず、級友達の質問に無難ぶなんな答えを返す。必要に応じて嘘も交えてだ。そんな生徒達の幻悟に対する質問が終わりに近づいた時に、彼に話しかけたのは広長道也であった。

「昨日はどうもありがとうな」

 道也が幻悟のことを見据えると、級友の「幻悟君の事を知っているのか?」という声を聞き流して話を続ける。


「君の事、いろいろと知りたいな。教えてくれるかい?」


「ああ、そうだな。そういえば昨日は驚かせたみたいで悪かったね」


「そのことか、気にしてないよ。それより何でもいいから話してくれよ」

 幻悟は道也の純粋な提案に無言でうなずく。そして、昨日の出来事の話題をしたりする。幻悟は道也と初めて小学校で話した時と同じように彼とは特に話しやすい感を感じていた。なので、道也の願いには快く返事をしたのである。


「君と話? うん、少しずつ話していこう、落ち着くまで時間はもらうぜ」


「もちろん! 強要なんてしないからゆっくりとだな」

 幻悟と道也の会話が聞こえてくる教室の中で、成人はいてもたってもいられなくなり、二人の会話に参加しにいく。


「やぁ、ミッチ―。一人で転校生と話しているのはズルいよ。僕も仲間に入れてほしいな、いいかい?」

 この結果、小学校時代の仲良し三人組が復活する。小学校時代と同じように幻悟と道也 そして、成人の会話は弾む。それだけ気が合うのだ。そんな中で、幻悟の心境はかなり複雑な感じになっている。実際の所でいえば、成人も同じような気持ちと言えるのだが、何も知らない幻悟は一人苦しんでいた。それでも彼ら三人誰もが勉強や恋愛、更にはテレビやゲームについて・スポーツの事等の話題で盛りあがった。


 この日が終わると、幻悟は急にクラス全生徒に対してよそよそしくなる。また、大切な友人や仲間を守ることができないのではないかと怯えているのだ。何日かそんな日が続いていく内に、クラスの生徒間で幻悟の態度に不満を持つ生徒達が現れ始めてきた。



 そんな中でどういう訳か成人は幻悟を見守っているだけである。幻悟も住んでいる「能力開発研究所」の主任である三田翔二さんが研究所に訪れた成人に幻悟の様子や心境を伝えて、行動を控えるように伝えられていたからだ。


「成人君、悪かったね。何も伝えていなくて」

「確かに驚きましたけど、複雑な理由がありそうなので何も聞かないようにします」

 成人は本音を三田主任に伝える。それでも、成人の心遣いに三田主任は内心苦笑した。

(そんなに大した理由って程じゃないんだけどね)


 成人は研究所の三田主任に、幻悟について聞かせてもらっていたから心に余裕が出来ていたのだ。それで、成人は適当な理由を付けて、幻悟に対しての協力を道也に要請した訳である。

「ミッチ―、幻悟君を見守るのを手伝ってくれる? 頼んだよ。理由は……」

 道也は成人の言葉を遮ると、無言でうなずく。

「ほかならぬお前の頼みだ。言いづらい特別な理由でもあるんだろ? わかった、俺がやれることなら協力するぜ」


 成人と道也が影ながら見守ることにした初日から幻悟を見ていると、特に成人には彼が自らの存在を悔いているように見えた。成人は研究所の三田主任からも話をうかがっていたが、完全に幻悟は生気を失い始めてきていた。それから成人と道也が幻悟をばれないように見守っている内に一ヶ月経った。


 その期間中に幻悟は、一部の生徒からいやがらせを受けつつあった。成人と道也はしばらく様子見せざるを得ないでいた。二~三日進むにつれて、幻悟は明らかに我慢をするのが困難な状態になってきている。彼は感情のコントロールがまだ不安定なのだ。理由は簡単≪言葉力≫が独立しようと暴走してしまうからである。成人と道也の二人ともが幻悟の言葉力を目の当たりにしたことがある関係で、幻悟個人から発せられる感じが違う事を二人とも感じ取る。その結果、幻悟に何かあったら相手を止める等の手助けをしようと考えて、そして決めた。今がまさにその瞬間になる。


「嫌がらせは楽しいかい? 俺を怒らせるなって初日に言ったことをすでに忘れたのかな?」

 幻悟が明らかに不機嫌になっていくのが一目見ただけで、その表情から読み取れる。

「うるせえ、お前が無視ばっかりするから悪いんだろうが!!」

 級友の中にいる不良っぽく見える生徒の一人が幻悟に対する不満を口にする形となった。そいつは幻悟に不満を持っている生徒の代表のようになる。 


 幻悟はつっかかってくるそんな生徒の事など軽くいなす。

「忠告したからね!! それでわからないのなら一度自分がやられている側の人間の気分を存分に味わうといいよ」

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