第14話 道也君との再会 2

「俺様は優しいから今の言動は許してやるよ。でも、次はないぜ」

 犯人は目を獣のように光らせ、幻悟を脅した。

「はんっ! どうせ人質を助ける気なんてないくせに。心優しい奴がこんな行為をするわけねえだろ」

「てめえ!! そんなに死に急ぎてえようだな。見せしめに殺してやるよっ」

 銀行員にお金を詰めさせていた犯人と人質達を監視している犯人は役割を交代する。その理由は、お金を袋の中に詰めさせていた犯人が幻悟の言動に激昴したからである。そしてその犯人が銃を持ったまま幻悟の数メートル手前まで来ると幻悟の頭めがけて銃を構える。


「さて、命乞いなら今のうちだぜ、小僧。この銃が火を噴いたらお前の最後だ」

「やってみたらどうだい? そんなオモチャで人が殺せるならね!」

 幻悟は自信ありげに犯人の神経を逆なでする。

「もう気でも狂っているのか、お前? さっき見ただろ! 照明をぶっ壊したのよ!」

「愚かな犯人、能書きはいいから撃ってみろよ!!」

「上等だ! 一生後悔させてやるよ!!」

 幻悟に向かって犯人は銃を撃ったはずだった。しかし、幻悟の≪言葉力≫が幻悟のこの銃はオモチャだという気持ちを現実なもの(銃はオモチャ)に変化させてしまったのだ。

「なんだこりゃあ!? くそ、お前がこの忌々しい小僧ガキをぶち殺せ」

 この犯人の命令でもう一人の犯人が即座に幻悟を狙ってくる。そんなもう一人のしている行動を幻悟は鼻で笑う。


「そんな水デッポウでどうする気なんだい? この馬鹿犯人!」

 幻悟が≪言葉力≫を使用すると、時には偶然をも作り出す。人質にされている子連れの母親の場所からちびっこだけが今の状況なんてわからず、買ってもらったばかりっぽい最新鋭のしばらくは水を使わなくても水が出るというのがウリの水デッポウを持って長時間同じ場所にいたくなさそうに動き回り出したのだ。ちなみにその犯人とその子どもの母親さえ、ちびっこの動きに気付いていない。


 子どもが遊びだして、手に持っている水デッポウが振り回して勢いがついている手から離れて信じられない事に犯人の本物の銃と入れ替わる(ちびっこはまだ水デッポウが手から離れていることに気づいていない)犯人はそれにもまったく気付かず引き金をひいた。


「ふふははははは、このくそ小僧がっ、死んだな!」

 しかし、幻悟は何事もなかったように起き上がる。彼の服が少しだけ濡れているがそんなことも知らず、犯人は恐怖を覚える。

「て、てめえ!? なんで生きていやがるんだ」

「馬鹿な犯人だな、よくその道具を見てみろよ。そんなオモチャで人が殺せるわけないだろ!? それが本当に銃なのか? どうなんだよ?」


 幻悟がわざとらしく大げさにびっくり顔になる。それで犯人は自分の持っている銃を見て驚愕した。水デッポウだったのだから当然であろう。だが、幻悟の≪言葉力≫によって入れ替わったはずのであるが、 銃独特の重みをずっと感じさせることに成功して違和感を持たせないように出来たのである。

「くそっ、てめえがなにか仕組みやがったんだな!?」

「何を言っているんだか? 俺はあんた達と言葉をかわしていただけだろう!?」


 幻悟が意外そうに肩をすくめると、犯人達は勝手に馬鹿にされたと思いこむ。

「このくそ小僧が!! 偶然は何度も続かないぞ!」

「残念でした、愚かな犯人達。ゲームオーバーだよ。わからないのかい? 周囲を警察の方達に包囲されているって」

 警官達は可能な限り音を立てずに犯人達を包囲していた。実際にはパトカーのサイレンとかで気付かれる恐れも十分あったが、幻悟に馬鹿にされていると思いこみがあった犯人達は頭に血がのぼっていて気付く感じさえなかったも同然だったのである。


「銀行強盗ども! 大人しくお縄につけっ」

 抵抗する気力がなくなったのか、警官の気迫に負けたのかわからないが、犯人達ははなすすべもなく、おとなしく観念したようだ。

「大丈夫だったかい? これでもう安全だよ」

 幻悟が警官の問いに人質にされていた人の代表のような感じで「問題ないです」というと、他の人質にされていた人達もそんな気分になった。

「あんたと警官さん達のおかげだよ」

「助かったのね…………」

「事件は終わったのか」


 人質にさせられていた人達は感謝する者・脱力する者・安心してほっとした表情になる者と大きく分けて三通りに分かれる。年齢によってこの三通りの中から違いが分かるが、それは御想像にお任せしよう。

 そんな中で人質にされていた者達は警官の方に一人ずつ事件が起こった時の状況を訊かれている。一番詳しく訊かれたのは幻悟である。それもそのはずだ。他の人質達は銀行内のフロアの一部に自然と集まって震えているだけだったのだから。


「君かい? 犯人と話していた少年というのは?」

「はい、そうです」

「ちょっとその時の状況を詳しく教えてもらえるかな?」


 最初に話しかけてきた幻悟が温和そうとの印象を受けた警官とは別に、誰にでも話し方一つで打ち解けられそうな見た目として警部らしき人が幻悟に説明を求めてきた。

「では、その時の状況をお教えいたします。強盗に出くわしたのは銀行にヤボ用があったからです。俺がここに入った時には強盗がすでに人質を取ろうと銃を乱射しながらここにいる全員に威嚇射撃をしていました。でも、それがオモチャだとこの目で確認したので犯人に近づいていったわけです」


「ふむ、君はその銃がオモチャだとする証拠でもわかっての行動だったと?」

「ええ、まあ。本物にしては妙にオモチャじみた銃だと思いまして」

 幻悟が一連の行動を警部らしき人に説明すると、その人は納得したようであった。

「うん、よくわかったよ。協力、感謝する。今度からは無理しないように」

 ちょうどその頃、後ろの方から犯人達が大声で叫んでいるのを幻悟とさっき自分は警部だといつの間にか名乗ってくれた人物が気づく。


「くそっ、その小僧が俺らの銃をどこかにやりやがったんだ」

 犯人を護送している警官とは別の、犯人を監視する役目の警官が犯人どもを黙らせる。幻悟がなにげなくその景観に目をやると、 仕事中の顔と家庭での顔が違うかどうか知らないが、顔立ちは下手なヤクザより恐ろしく見えた。

「最後に警官の皆さんに一言よろしいですか? いくら強要しても犯人は本物の銃を持っていませんし、 あのオモチャしか知らないはずですよ。差し出がましいと思いますが一応調べるのも考えておいてください」


 幻悟は≪言葉力≫をうまくコントロールする術がまだない。だから自然と言葉を選んで≪言葉力≫を使用しているのだ。それが理解できているので、下手な物言いを避けるために言葉を選ぶ必要性を痛感している。


 それはそれとして、幻悟は帰り際に放心状態で入り口近くに立っている道也を見つけ、思わず声をかける。

「大丈夫だったかい? ミッチー。君も災難だったな」

「!? 君とは初対面のはずなのに何でおれのあだ名を知っているんだ?」

 幻悟は不用意な発言を、その場は嘘でごまかす。


「俺、明日から君の通っている中学校に転校してくるからよろしくなっ!」

 俺が勝手に調べている情報に君と同じ学年らしいと調査が完了しているからその学年の生徒大半の情報を集めているんだ。気に障ったのなら謝るよ」

「いや、それはいいよ。それより君のその情報網、すごいな!!」


 道也は幻悟のことを忘れている小学校時代と同じように彼に興味を示す。幻悟はいたたまれなくなって、その場から走り去った。

「あ! おい、待てよ。ま、いいか。また明日会えるしなっ」

 道也はあっさりと諦める。そんなやり取りを少し前から運命に引き寄せられるかのごとく、部活動帰りらしき成人がたまたま見ていた。

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