第3話 プロローグ 過去編 2

 幻悟少年の父親はどうにか自分の妻をなだめようとする。しかし、その話の食い違いという歯車は簡単に直ったりしなかった。彼(幻悟)としては両親のケンカという家庭内の嫌な空気を変えたいと言った言葉なだけだったはずだった。でも、タイミングが悪いことにこの瞬間、彼の言葉の特殊能力が開花してしまう。  


 それで悲劇が発生する現実となってしまったのである。

「お父さん、お母さん。ケンカはやめて! それにお母さん、僕はさっきの言葉に嫌な感じを覚えたんだ。こんなお母さんなら生前からやり直してと思ったよ?」

 彼の特殊能力が開花したこの日、自分が心の底に感じたことを母親に伝えただけのはずであった。しかし、急な特殊能力の開花のせいで、その言葉力が彼の言った言葉を現実世界のものにしてしまったのである。

「何、これは? どうして体が小さく……!?」

 どういうわけか、彼の目の前で母親は若返り続け、子どもどころか尚も退行していく。時間の逆流が起きているかのように、母親は赤ちゃん→胎児→生前の一つの形にまで戻ってしまった。それはそのまま床に落ちた。


 彼は突然の出来事に黙り込むことしかできずにいたし、彼の父親も今のあり得ない光景に目を丸くすることが精一杯だった。

「何だ、今のは? まさかっ! 幻悟の言葉力が完全に開花してしまったとでもいうのか」

 父親はこの事実を知っていたのだ。何故かというと、彼の言葉通りになる現象を何度か実感させられたことがあるからといえる。


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 最初は偶然の産物だと思っていたのだが、その多さが普通ではない事に疑問を抱いていた。そのため、彼の父親は自分の妻に余計な心配をかけまいと秘密にして幻悟少年と二人で『能力開発研究所』という、いかにも怪しげな雰囲気を漂ただよわせている建物に訪問した事実がある。


 そして、彼の父親は研究所の所員達に自分の息子の言葉力によって起こされる現実世界にも影響を及ぼす現象を見せてもらった経緯があるのだ。そして、この言葉力に興味を示した研究所長に調査を依頼したという過去がある。その研究所所長から調査報告書をもらって自分の息子が超能力とは何か違う特殊な能力を秘めていると伝えられていたとはいえ、驚きを隠せない。


 それをこの瞬間に思い出した彼の父親の表情からは落胆の色がありありと浮かんでいる感じに見えた。研究所の調査報告書には能力開花までには時間がかかると判断してもらっていたのでそれまでに対応策を考えると記されている。だが、それを完膚なきまでに裏切られる形になってしまったからだ。


 その時点では、彼も自分の母親が消失した理由が分からずにいた。彼は震えた声でとんでもないことを口走ってしまう。

「お父さん、お母さんはどこにいるの? 僕は良い子にしてる! だからお願いっ!! お母さんを探してっ」


 その時、彼の父親に戦慄せんりつが走った。その行為は『死』に直面することになるからだ。

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